デジタル大辞泉
「前」の意味・読み・例文・類語
ぜん【前】
[名]ある時点より早い時。順序として早く現れるほう。まえ。さき。
[接頭]
1 いまより一つまえの意を表す。「前議長」「前世紀」
2 現状になるまえの、の意を表す。「前近代的」
3 二つに分けたもののまえのほうの意を表す。「前半生」
[接尾]
1 名詞に付いて、それ以前である意を表す。「使用前」「第二次大戦前」
2 助数詞。
㋐机・脇息・懸盤などを数えるのに用いる。
「一―の閼伽を備へて」〈今昔・一一・七〉
㋑神や社殿などを数えるのに用いる。
「摂社末社すべて三十余―、巍々としてつらなれり」〈滑・膝栗毛・八〉
[類語]元・前・旧・先
ぜ【▽前】
[接尾]《「ごぜ(御前)」の略》人を表す語に付いて、尊敬の意を添える。「尼前」
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
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ま‐え‥へ【前】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙 ( 目方(まへ)の意で、尻方(しりへ)に対する )
- [ 一 ] 空間的に前方または前部を表わす。
- ① 普通の状態で顔の向いている方向、またその方向にある部分、場所。
- [初出の実例]「針袋取り上げ麻敝(マヘ)に置き反(かへ)さへばおのともおのや裏も継ぎたり」(出典:万葉集(8C後)一八・四一二九)
- ② 物の正面にあたる部分、場所。前面。
- [初出の実例]「賓頭盧のまへなる鉢の、ひた黒に墨つきたるをとりて」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
- ③ 家の正面に接する所。庭。
- [初出の実例]「ひとりしていかにせましとわびつればそよともまへの荻ぞこたふる」(出典:大和物語(947‐957頃)一四八)
- ④ 人体の正面に当たる部分。
- (イ) 頭部の正面や胸部など。
- [初出の実例]「胸
〈略〉ムネ マヘ」(出典:観智院本名義抄(1241))
- (ロ) 着衣の正面、着物を前で合わせる部分。
- [初出の実例]「『あわれ不便(ふびん)と思し召、忰(せがれ)にお情を下さりませ』ト前を拓(ひら)く」(出典:歌舞伎・韓人漢文手管始(唐人殺し)(1789)一)
- (ハ) 男根または女陰。陰部。
- [初出の実例]「男のまへのかゆきやうなりければ」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)九)
- ⑤ 順序のあるときの、はじめの方。「列の前の方」「前から読まないと分からない」
- ⑥ 勢力の及ぶ範囲。「規則の前に手をこまぬく」
- [ 二 ] ( 多く接頭語「御(お・おん)」を伴って用いる。→おまえ・おんまえ ) 神仏あるいは貴人に面する意で、そこに伺候すること、転じて、神仏貴人そのものをさし、さらに、そこに供えるものなどをもいう。
- ① ( 神について )
- (イ) 神格を間接的にさす。絶対敬語のように用いる。
- [初出の実例]「此れの鏡は、専ら我が御魂(みたま)として、吾が前を拝(いつ)くが如伊都岐奉(いつきまつ)れ」(出典:古事記(712)上)
- (ロ) ( 「前神」の略であるが、すでにこの語だけで神そのものを示す ) 主神以外の神。主神に近侍する神。
- [初出の実例]「奠二幣案上一神三百四座、社一百九十所〈略〉前一百六座」(出典:延喜式(927)一)
- ② ( 貴人について )
- (イ) 貴人に近く相対する場所に座をしめること。伺候すること。
- [初出の実例]「ある人の許に新参りの女の侍りけるが、月日久しく経て正月の朔頃にまへ許されたりけるに、雨のふるを見て」(出典:後撰和歌集(951‐953頃)春上・四・詞書)
- (ロ) 貴人その人をさす。
- [初出の実例]「御まへにも、近うさぶらふ人々はかなき物語するを聞こしめしつつ」(出典:紫式部日記(1010頃か)寛弘五年秋)
- (ハ) ( 「…の前」の形で ) 女性の名に添えて敬意を表わす。
- [初出の実例]「この二三年めしつかはれ候が、名をば千手の前と申候」(出典:平家物語(13C前)一〇)
- ③ 貴人に先立って動作をする人、また、そのこと。
- [初出の実例]「殊の外に声遣ひ心得て、振などは確かに、忘れず。まへ払ふ程にはあり」(出典:梁塵秘抄口伝集(12C後)一〇)
- ④ 僧侶に対するもてなしの食膳。→前の事。
- [初出の実例]「しりたる人にも物こひとりて、講師の前、人にあつらへさせなどして」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)九)
- [ 三 ] 時間的に前方、またはさかのぼっての事柄を表わす。
- ① 既に経過した時。過去。
- [初出の実例]「まへの日事いださせたまへりしたびのことぞかし」(出典:大鏡(12C前)三)
- ② ある時点より早い時期。以前。
- [初出の実例]「前の勢八十万騎に、又赤坂の勢吉野の勢馳加て、百万騎に余りければ」(出典:太平記(14C後)七)
- ③ 順番が一つ早い方。直前。「前の校長」
- [初出の実例]「祖父の三回忌の法事のある前の晩」(出典:或る朝(1908)〈志賀直哉〉)
- ④ 現在。眼前の時。
- [初出の実例]「韓退之のおしやりし、前のほまれあらんよりは、後のそしりをおもへとぞ」(出典:随筆・胆大小心録(1808)四)
- ⑤ かつてあった事柄、事例。
- (イ) 以前あった事例。前例。
- [初出の実例]「於国役等之儀も各前不レ可二見合申一候」(出典:上杉家文書‐大永六年(1526)正月一八日・本庄房長色部昌長連署起請文)
- (ロ) 犯罪者について、その人の過去の罪。前科。〔隠語全集(1952)〕
- [初出の実例]「マエのある連中、ずいぶん見かけましたよ。でも、女はあたしだけと思っていたら、歌子ねえさんもねえ」(出典:たった一人の反乱(1972)〈丸谷才一〉一七)
- [ 四 ] ( 「…の前」の形で体言格を受けて形式名詞のように用いる )
- ① 既に知覚されたことを示す語句を受けて、それに合致すること、その通りであることを示す。…の通り。現代では、その状態をあえて許容する気持を込めて用いることが多い。
- [初出の実例]「初めより蔵人も、誠にあらざる恋路とは存じの前」(出典:歌舞伎・貞操花鳥羽恋塚(1809)四立)
- 「恨まれるは覚悟の前(マヘ)」(出典:にごりえ(1895)〈樋口一葉〉三)
- ② 人をさす語句を受けて、その人に対しての気がね、体裁、面目などを示す。てまえ。
- [初出の実例]「お母様の前があるから何程か貸してやったけれど」(出典:二人女房(1891‐92)〈尾崎紅葉〉中)
- [ 2 ] 〘 造語要素 〙
- ① 名詞または動詞の連用形に付いて、それに相当する分量、…する部分の意を表わす。「一人前」「分け前」など。
- [初出の実例]「知行差出の員数之外、私曲之由訴人有て、百姓まへ検地すべきよし申に付ては、不レ可レ及二披露一」(出典:黒川本今川仮名目録‐定(1560頃)一二条)
- ② 人に関する語について、その属性、機能を強調していう。「腕前」「男前」など。
ぜん【前】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙 ある時点より早い時。まえ。さき。以前。現在、法令では基準となる日を含んでいる「以前」に対し、含まない場合にいう。
- [初出の実例]「四五日前(ゼン)何かの小言序(ついで)に」(出典:浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一)
- [その他の文献]〔儀礼‐士冠礼〕
- [ 2 ] 〘 造語要素 〙
- ① 地位や身分・役職を示す名詞の上について、現在の人より一代まえに、または、現在の位置のまえにその位置を占めたことを表わす。「前大臣」「前代議士」など。
- [初出の実例]「かのせむ大王の御手に、かよひて侍れ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)明石)
- ② 時代を示す名詞の上について、それより先立つことを表わす。「前近代」など。
- [ 3 ] 〘 接尾語 〙
- ① 机、脇息(きょうそく)、懸盤(かけばん)、衝重(ついがさね)などを数えるのに用いる。
- [初出の実例]「居漆牙床机各一前〈各長二尺八寸広一尺五寸高一尺五寸五分〉」(出典:西大寺資財流記帳‐宝亀一一年(780))
- 「一前の閼伽(あか)を」(出典:今昔物語集(1120頃か)一一)
- ② 神、また社殿などを数えるのに用いる。
- [初出の実例]「摂社、末社、すべて三十余前(ゼン)、巍々としてつらなれり」(出典:滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)八)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
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「前」の読み・字形・画数・意味
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