消費者(家計部門)に対し,主として自動車,電化製品,ピアノ,家具などの耐久消費財や旅行,教育などのサービスの購入のために資金が融通されること。日本では金融機関の家計部門に対する住宅金融を加えて消費者金融と呼ぶことがある。企業の生産活動に必要な資金を融通する企業金融と対比される。消費者金融は,消費者の家計においてその所得だけでは必要な消費を満たすことができない場合に必要となる。企業金融の場合とちがって利潤を得るための資本として利用されるのではなく,消費財やサービスの購入にあてられるため,元金と利子は消費者の将来の所得から支払われる。生活の満足度を享受する先取り的な意味をもつ。かつては消費者金融という場合には,社会保障や共済制度,医療制度の不十分さから消費者の生計の一時的不足を補う社会政策的意味をもつものであったが,今日では耐久消費財の大量生産に伴って賦払信用の拡大などによる経済政策のなかで重要な地位を占めるようになっている。消費者金融は,金融機関の側からみて,金融機関が提携先のメーカー,ディーラーを通じて消費者に信用供与する提携方式(間接的消費者金融)と,金融機関が直接に消費者に信用供与する非提携方式(直接的消費者金融)の二つに分けられる。前者は金融機関とメーカー,ディーラーなどの提携先企業との間に包括保証契約がなされ,提携先企業の販売する商品の購入資金が供与される方法であり,後者は,金融機関が特定の消費財の購入を行う消費者のために信用供与を行う場合で,その返済は一括払いか大半は割賦返済である。
消費者金融の発展はとくにアメリカにおいて著しく,1920年代以降自動車など耐久消費財の普及を背景に発展した。30年代になると大不況に遭遇し,資金需要が停滞し,商業銀行は新しい資金運用の場を開拓する必要がおこり,比較的採算がよく,返済が確実であり,経済の浮揚力となって側面から消費需要を促進する消費者金融の開発が進み,銀行業務のなかで主要業務となった。これ以後アメリカにおいては急速に消費者金融の比重が高まり,また消費者金融会社の発展もめざましかった。しかし消費者金融の経済に与える影響が大きくなったために,公定歩合政策,支払準備率操作,公開市場操作などの量的規制による一般的金融政策とは別に消費者金融調整政策がとられることになった(選択的金融調整政策とか質的規制と呼ばれる)。それは耐久消費財の購入にあたって,頭金の率や賦払期間の長短の変更によって消費者金融の支払を調整し,景気の行き過ぎを抑えたり,浮揚を図ろうとするものである。
日本においては第2次大戦以降,とくに1960年ころから消費者金融の発展がめざましかった。その理由は,第1に高度成長のなかで耐久消費財の大量生産が行われ,多量の販売が必要であり,金融機関が購入力を消費者に付与する必要があり,第2は,生活様式の高度化,洋風化は耐久消費財需要を旺盛にし,その返済には割賦方式が求められた。第3は,所得水準の上昇,高いボーナスの支払等は将来の返済計画を容易にし,耐久消費財購入の意欲を高めた。第4は,趨勢(すうせい)的な物価上昇は,消費者に実物財の選好を増大させ,債務者利得を気づかせ,金利の支払よりも物価上昇が高いことを知らせた。第5は,金融機関側の積極的進出であった。高度成長の行きづまりや,企業の資金需要の減少により,資金の運用先を消費者金融に振りむけるようになった。またコンピューターの導入により煩雑な事務の大量処理が容易となり,コスト面で十分採算がとれ金利面でも有利であり,福祉金融とか金融機関の社会性ということから取組みが積極的にならざるをえなかった。71年の金融緩和以来,非提携使途自由ローン,クレジット会社ローンの分野の開拓,デパート,割賦会社,流通部門を担当する会社での参入も多くなっている。信用調査組織,信用保証会社の整備も進められている(信用調査)。
今後,産業秩序の確立のうえから割賦販売法の充実や景気調整のための金融政策の選択的金融調整さらに健全な消費生活のための計画的消費者金融教育が必要となるであろう。
執筆者:森 静朗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
消費者向けの信用供与は消費者信用とよばれるが、そのうち、小額、無担保の短期の金銭融資業務を消費者金融という。消費者金融以外の消費者信用は、商品・サービスの購入資金貸付であり、販売信用とよばれる。2006年(平成18)の消費者信用供与額は約76兆円、販売信用が約45兆円であり、消費者金融は約31兆円であり、そのうち消費者金融専門会社による供与額は約9兆円となっている。
消費者金融を業として行う者、すなわち貸金業者は、「貸金業法」(旧、貸金業規制法を2006年に改正)にしたがって登録が必要で、登録せずに不正に高金利で貸金業を営む場合は「闇(やみ)金融」とよばれる。消費者金融は1990年代に、自動契約機の普及やテレビ広告の解禁もあり、その利便性とともに社会的認知度も高まり、発展してきた。最近では、その高収益性をねらって、銀行など他の民間金融機関の参入が目だち、消費者金融専門業者との業務提携や、子会社の共同設立、さらには資本提携や銀行による吸収統合なども行われている。
消費者金融は、従来から高金利、過剰融資および過酷な取立てなどしばしば社会問題化し、返済のために借入れを重ねて債務過多に陥る多重債務者の救済と消費者金融業界の健全な発展を実現するために、2006年12月に、改正貸金業法が成立、公布された。改正法では、「出資法」の上限金利と「利息制限法」の上限金利の間の貸出金利(グレーゾーン金利)が廃止され、「利息制限法」の上限金利である20%に統一される予定である。また、原則として融資総額が利用者の年収の3分の1を超えてはならないという数量規制も導入された。さらに貸金業者の財産的基礎要件などの資格要件も強化された。最近では、こうした規制強化を受けて、中小規模の登録貸金融業者数の減少や、大手消費者金融会社と銀行グループとの業務・資本提携など、業界再編が生じている。
[晝間文彦]
『矢島保男著『消費者金融』(1978・日本経済評論社)』▽『上田昭三著『個人ローンの実態と展望』(1981・東洋経済新報社)』▽『阿達哲雄著『ノンバンク』(1997・東洋経済新報社)』▽『伊東眞一著『消費者金融システム論』(2000・晃洋書房)』▽『日本消費者金融協会編・刊『消費者金融素朴な質問77』(2000)』▽『堂下浩著『消費者金融市場の研究――競争市場下での参入と撤退に関する考察』(2005・文眞堂)』▽『伊東眞一編著『消費者金融の新展開――消費者金融市場のあるべき姿』(2007・晃洋書房)』
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(篠崎悦子 ホームエコノミスト / 2007年)
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