日本大百科全書(ニッポニカ) 「創造的思考」の意味・わかりやすい解説
創造的思考
そうぞうてきしこう
問題に直面したときに、新しくて有意義な着想を生み出す思考をいう。これに対して、過去に考えた着想を、ふたたび想起して考えることを再生的思考という。創造的思考は芸術家、科学者、技術者だけに現れるものではなく、価値の程度に大小があるものの、一般の人や児童においてもみられる。その意味において創造的思考の能力を養成することは、教育の一つの重要な課題であるとされる。創造的思考の特徴としては、与えられた条件から多くの可能な解答を出す発散的思考であることがあげられる。これとは逆に知能検査の問題で解答を考える場合のように、多くの条件から一つの解答を導き出す思考を収束的思考という。
[梅本尭夫]
思考の過程
創造的思考の過程は、まず問題意識の喚起から始まり、その問題を解決すべき方向への探索がそれに次いでおこる。そのような方向づけは漠然としている解答の方向にあえて見当をつけるのであるから、これを冒険的思考とよぶこともある。これに続いて問題状況や条件を種々の視点から多角度的に分析し、解決に必要な情報の収集および整理などの準備が進行する。それらの準備とともに長時間にわたる熟慮が始まるが、そこで一気に解答が得られることは少なく、ある程度まで思考が進行した段階で、一時、問題解決の努力が休止されたり、問題とは関係のないほかの活動が行われたりすることがある。そのような休止期間ののちに、いわゆるインスピレーションまたはひらめきが突如として思いがけなく現れる。しかし、このときに出現した着想から問題の実際的な解決にまでいくには、さらに細部の仕上げと修正を必要とされることが多い。
[梅本尭夫]
その原動力
創造的思考の過程を支えている原動力は、基本的には新しいことに対する好奇心と、持続的な思考に対する集中力である。未知の領域に思考を進めていくことへの不安に打ち勝つ冒険心と、既成の枠組みから外れることを楽しむ遊び心、および他の考えに簡単に同調せず自分の考えを展開させていく自信などが必要とされる。そのほか個人の特性としては、豊かな想像力、連想の流暢(りゅうちょう)さ、思考の柔軟さ、綿密さなどがあげられる。
このような創造性を測定するためのテストには、言語や表現の流暢性検査、既成の観念にとらわれないで新しい用途を考案する柔軟性検査、独創性検査、計画の綿密性検査、再定義検査などが含まれている。
[梅本尭夫]
『梅本尭夫著『創造的思考』(『児童心理学講座5 知能と創造性4』所収・1969・金子書房)』▽『恩田彰著『創造性開発の研究』(1980・恒星社厚生閣)』