労働基準監督官(読み)ロウドウキジュンカントクカン

デジタル大辞泉 「労働基準監督官」の意味・読み・例文・類語

ろうどうきじゅん‐かんとくかん〔ラウドウキジユンカントククワン〕【労働基準監督官】

労働基準法およびその関連する法律実施を監督する国家公務員労働Gメン。→労働基準監督署

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共同通信ニュース用語解説 「労働基準監督官」の解説

労働基準監督官

働く人の権利や安全を守る専門職の国家公務員。労働基準法や最低賃金法労働安全衛生法などで定める労働条件や安全基準に違反していないかを調べる。予告なしに企業に立ち入り調査(臨検)することができ、違反が確認されれば企業に是正勧告や改善指導をする。悪質事案では刑事訴訟法に基づく特別司法警察員として、捜索や差し押さえ、逮捕などの強制捜査を行うこともある。厚生労働省によると、雇用者1万人当たりの監督官の数を見ると、日本は欧州諸国に比べて少ない。

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精選版 日本国語大辞典 「労働基準監督官」の意味・読み・例文・類語

ろうどうきじゅん‐かんとくかんラウドウカントククヮン【労働基準監督官】

  1. 〘 名詞 〙 労働基準法・じん肺法・最低賃金法・労働者災害防止団体等に関する法律の実施を監督する国家公務員。〔労働基準法(1947)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「労働基準監督官」の意味・わかりやすい解説

労働基準監督官
ろうどうきじゅんかんとくかん

労働基準法(昭和22年法律49号)が定める労働条件の基準(最低労働条件)の実効を確保するための監督行政を担当している国家公務員。厚生労働省労働基準局、都道府県労働基準局、労働基準監督署(2017年時点で321署および4支署)という系統行政組織の構成員をなしている。

[湯浅良雄]

沿革

イギリス

労働基準監督官の前身工場監督官で、1833年工場法によって最初に有給で、専門の監督官が任命された。33年法はイギリス全土を四つの地域に分け、4人の工場監督官を任命した。1802年から33年までに制定された工場法は、いずれも有給の工場監督官制度を設けなかったため、使用者によって無視され、事実上、死文に等しい状況にあった。この監督官は工場法の違反を防止し、摘発するために工場への立入調査権をもち、また工場地域の住民の状態を調査し、その改善策を提案するために、政府に定期的に報告書を提出した。新たに設置された監督官は献身的に活動することによって、労働条件の改善と向上に大きく寄与した。イギリスにおいては工場法の適用対象が拡大し、法律が整備されるとともに、工場監督官制度も整備されていった。

[湯浅良雄]

日本

1911年(明治44)に制定された日本の工場法は、きわめて規制水準が低く、しかも有効な監督機構を欠いていたため、事実上、死文に等しい状況にあった。第二次世界大戦後に制定された労働基準法は、規制内容を当時の国際水準に近づけるとともに、法律の実効を全国一律に確保するために、労働省(現、厚生労働省)直轄下に労働基準監督官を配置し、監督機構を整備した。

[湯浅良雄]

権限

労働基準監督官はその職務を遂行するために次のような権限が与えられている。

 第一に、監督官は労働基準法適用事業場、寄宿舎、その他の付属施設を臨検し、労働条件に関する帳簿や書類の提出を求め、また労働者もしくは使用者を尋問することができる(労働基準法101条)。

 第二に、監督官は労働基準法違反の事件に関する限り、刑事訴訟法に定める司法警察官として職務権限を行使することができる(102条)。

 第三に、適用事業場の付属寄宿舎が安全および衛生に関して定められた基準に違反している場合、その使用の停止、変更その他必要な事項を命じることができる(103条、96条の3)。

 また、監督官が権力や金力による圧迫に屈せずに、厳正な職務の遂行にあたることができるように、その罷免にあたっては労働基準監督官分限審議会の同意を得なければならない、という特別の身分保障が定められている(97条5項)。他方、労働基準監督官には、職務上知りえた秘密を漏らしてはならないという、守秘義務が定められている(105条)。

 なお、事業場において法律に違反があった場合には、労働者はその事実を行政官庁または労働基準監督官に申告することができ、このことを理由に、使用者はその労働者に対して解雇またはその他の不利益な取扱いをしてはならないことが定められている(104条)。

[湯浅良雄]

問題点

以上のように労働基準監督官には非常に強い権限が与えられているが、第二次世界大戦後、適用事業場数、適用労働者数が著しく拡大してきたにもかかわらず、監督官の定員増が抑制されてきたため、十分な監督行政ができない状況にある。このため、現行定員では20年に一度しか同一事業場を臨検できないといわれている。また、事務量が膨大になってきているにもかかわらず、事務官の定員は相次いで削減され、この面からも監督官の職務遂行は大きく阻害されてきた。

 このような監督官の絶対的不足が、労働者の権利意識の低さと結合することによって、日本において労働基準法違反が後を絶たないという状況を生み出してきた。国際労働機関(ILO)勧告(20号勧告)に従って通常の事業場に対して1年に1回臨検するためには、大幅な定員増が必要である。また、生産技術の発達にしたがって、その職務内容も年々複雑化しているので、専門官にふさわしい研修制度の充実も必要である。

[湯浅良雄]

『厚生労働省監修『労働行政要覧』各年版(日本労働研究機構)』

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