行政法規において臨検と称せられるものは,その性質上つぎの二つに分けられる。(1)収税官吏や税関職員が犯則事件を調査する場合の臨検(国税犯則取締法2条以下,関税法121条,123条以下),および,入国警備官が退去強制の手続として違反調査をする場合の臨検(〈出入国管理及び難民認定法〉31,33条)。これは,刑事責任の追及と関連を有する行政上の即時強制であり,裁判官の許可を得て行われる。(2)行政法規が完全に行われるように監視し,または警察違反の状態が生じないようにするために,行政職員が,事業場,寄宿舎,営業所,事務所,倉庫などに立ち入って検査することも臨検と呼ばれることがある(労働基準法101条,食品衛生法17条)。このような臨検は,その実効性が拒否,妨害,忌避についての罰則によって担保されているにすぎない行政調査であって,裁判官の許可を要しない。最近の法令は,このような行政調査を臨検と呼ばず立入検査と呼ぶことが多い。
→即時強制
執筆者:広岡 隆
軍艦,軍用航空機,またはこれに準ずる公の任務を帯びた船舶,航空機が,他の船舶に対して拿捕すべき事由の有無を調査すること。軍艦は,拿捕すべき事由があるとの疑いのある船舶に,信号,空砲の発射等の手段によって停船命令を発し,臨検士官を派遣する。この際相手船舶のほうからボートで船舶書類(船舶の国籍を証する書類等)を持参させることはできないとする考え方が強い。臨検士官はまず船舶書類を検査し,疑いが晴れれば船を解放するが,疑いが残る場合,さらに船体や積荷を実際に調査する。この一連の手続のうち,書類検査までを臨検,船体や積荷の検査を捜索と呼んで区別する説が一般的であるが,条約や外国の法令の用例では,必ずしもその区別は明確ではない。臨検と捜索を区別せず全体の手続を臨検捜索visit and searchと呼ぶ用例や,臨検visit,boardまたは捜索searchという語がこの手続の全体をさして用いられる場合が少なくない。臨検,捜索によって疑いが晴れないときは,その船舶を拿捕する。
元来,臨検は,戦時国際法上,海戦における捕獲権行使の一環であり,敵船,および封鎖侵破,戦時禁制品輸送等の疑いある中立船に対する交戦者の権利として認められてきた。また,航空技術の発達に伴い,空戦にもこれが拡大され,航空機に対する臨検も認められるようになった。戦時においては,敵の軍艦,軍用航空機,公の船舶等はただちに没収されるが,私船に対しては捕獲審検の手続がとられる。しかし,近年,海洋に関する国際法規の発展に伴い,平時においても臨検が認められる場合が多くなっている。第1に,領海,接続水域,排他的経済水域において,沿岸国の制定する法令に違反した疑いのある外国商船に対して臨検捜索が行われる。第2に,公海において,海賊行為,奴隷取引,海賊放送を行った疑いのある船舶や航空機,また臨検を行う軍艦と同一の国籍であるにもかかわらず,国旗を表示せず,または外国旗を表示する船舶も臨検の対象となる。また,日米加3国間の北太平洋漁業条約,日ソ漁業協定,日韓漁業協定など特別の条約で,条約の規定に反して漁獲を行った疑いのある船舶にも,臨検,捜索,拿捕の手続が定められることがある。船舶による海洋汚染についても,名称は異なるが類似の手続が認められつつある。なお,航空機の技術的進歩に伴い,軍用航空機による臨検や,外国の民間航空機に対する臨検,すなわち降着命令または特定地点への進航命令を下して降着地点で臨検を行うことも認められるようになっている。適法な臨検に実力で抵抗する船舶はただちに拿捕できる。不当な疑いで臨検を受け,疑いに根拠がないことが証明された船舶は,損失の補償を受けることができる。
→捕獲
執筆者:田中 忠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
船舶またはその乗員、乗客に違反行為があると疑われる場合に、軍艦その他の公の船舶が臨検士官およびその補助員を嫌疑船舶に派遣、乗船させ、その船舶の船舶書類(船舶国籍証書、船舶検査証書、堪航・安全証明書、航海日誌、乗員名簿など)、乗客名簿、積荷目録などを点検調査し、違反行為の有無を確かめることをいう。書類を検閲したあともなお嫌疑があるときは、船内においてさらに乗員、乗客、積荷等の検査を行うことができる。後者を広義で臨検に含める場合と、臨検・捜索として、別個の行為と解する場合とがある。平時、公海において外国商船と遭遇した軍艦がその商船の臨検をなしうるのは、その商船が、(1)海賊行為を行っていること、(2)奴隷取引に従事していること、(3)外国の旗を掲げまたはその船舶の旗を示すことを拒否したが、実際にはその軍艦と同一の国籍と疑われること、の十分な根拠が必要である。
領海、接続水域、排他的漁業水域、経済水域内においては、沿岸国の公船は、当該水域において外国船舶が従うべき沿岸国の法令に違反したと疑われる場合、臨検しうる。戦時においては、中立国船舶が封鎖侵破を行い、または、戦時禁制品の輸送または軍事的幇助(ほうじょ)を行っている疑いがある場合に、交戦国は、その船舶を停船させ、臨検することができる。もっとも、それは、公海または交戦国領海内に限り、中立国領海での臨検は許されない。
臨検に応じない場合は、空砲発射、船首前方への実弾発射、さらに応じない場合は檣(マスト)などへの船体砲撃などの実力行使により強制し、嫌疑十分と認めれば、拿捕(だほ)して軍艦の本国港に引致し、審検のうえ捕獲する。臨検のうえ嫌疑が晴れたときは、その旨船舶日誌に記入して釈放する。臨検は、軍用航空機により、また航空機に対しても行われる。
なお、臨検は、最近の行政法学上では立入検査とよばれ、講学上は行政調査ないし即時強制として説明される。
[宮崎繁樹]
字通「臨」の項目を見る。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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