労働者福祉運動(読み)ろうどうしゃふくしうんどう

改訂新版 世界大百科事典 「労働者福祉運動」の意味・わかりやすい解説

労働者福祉運動 (ろうどうしゃふくしうんどう)

労働者がその生活上の事故や変化にともなって発生する経済的諸問題の解決に取り組む自主的事業運動のこと。労働組合運動が生産・労働過程における生活諸条件の改善のために活動するのに対し,これは消費・流通過程での生活攪乱要因の解消や除去を目指し,一般に生活協同組合生協)運動という形態をとって,中間利潤や中間諸経費の排除節減とその奪還を試みる。消費生協もしくは購買生協のほか,労働金庫,共済事業,住宅生協,医療生協,旅行会などの運動がある。これらは労働組合運動,労働者政党運動とともに,労働運動を構成する主要な柱であり,労働運動の一環として位置づけられる。労働者の福祉問題の処理策には,国家を主体とする社会保障等の公的福祉や,企業がその管理運営の主導権を握る企業福祉が別に存在する。だが社会保障の前身である社会保険は,むしろ労働者の自主共済運動を国家管理のもとに包摂・補完するものとして成立した。企業福祉もまた労務管理の一手段であり,経営目的と結びつき,企業の意志にその存廃や動向を左右される。しかしながら労働者福祉運動では,労働者間の相互扶助および協同連帯理念と方法により,労働者自身がその資金と組織を介して生活手段の共同利用に基づく生活の協同や生活関連事業の自主管理を図る。このためそれは〈自主福祉運動〉または自主的協同事業運動とも呼ばれる。諸外国における労働者の自主福祉運動は,遠く産業革命当時のイギリス友愛組合(協会)や消費生協の運動にさかのぼることができる。だが公的福祉としての社会保険のなかに吸収された友愛組合的自主共済事業の運動に反し,消費生協運動は自立的な発展をとげる。イギリスをはじめ,フランス,イタリアの運動はこの消費生協運動を主流とするが,ドイツのほか,オランダ,スイスオーストリアでは,労働組合の所有への参加による各種の自主的協同事業が独自の公益的所有の経済分野を形成している。その他,スウェーデンなどの北欧諸国の運動は,イギリス型を中心にドイツ的な共同所有型をも併存させている。

 日本の場合はドイツに近い。それは日本でこの運動が本格的に登場したのが,第2次大戦後のいわゆる〈合理化〉のなかで,企業別組合の弱点を補強しようとする労働組合の側から要請されたという事情に由来する。賃金闘争の困難を補足するだけではなく,企業別組合を支える企業福祉に代わり,労働組合主体の諸協同事業活動による組織強化が期待された。それゆえこれらは,地域消費生協を除いて長く労働組合の〈兵站(へいたん)部〉的役割を担い,その組織運営原則にも労働組合主導の〈団体主義〉が採用される。しかしこの生協運動としての基本的性格や,生産点での組織・事業活動の限界,および地域コミュニティ対策などの観点から,近年,生活点におけるその〈地域化〉が指向されている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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