動物の行動を研究し、心理学的に解明しようとする学問で、動物が種によってどのように異なった行動をし、また、どのように種を通じて、種を超えて同じ行動をするかを比較考察する。
ダーウィンの進化論以来、動物と人との間に系統発生的に生命の連続、ひいては心理の連続が認められるようになり、行動を通して動物と人との間に心理の比較研究がなされるようになった。動物心理学は動物の心理の研究から生まれたが、それぞれの種に特有な行動様式についてだけでなく、以来、人との比較、あるいは複雑な人の行動の単純な模型としての動物行動の研究という意味をもち、比較心理学comparative psychologyともいわれている。
[小川 隆]
当初の動物心理学は逸話的記録法anecdotal methodによるといわれ、動物についての物語や観察を主にした擬人主義的色彩が濃く、見かけの類似行動によって動物にも人と同じような心理を認めていたが、19世紀末、モルガンやロイブらによって実験の資料をもとにした、科学的・客観的な行動研究が確立された。「いかなる場合にも、行動を下位にある心的活動能力の結果として解釈されるときに、上位の心的活動能力の結果として解釈してはならない」というモルガンの公準が有名である。
以来、ヨーロッパではベーテA. Bethe(1872―1955)、ジェニングスH. S. Jennings(1868―1947)らによって動物心理学は全体的・機能的行動研究として発展したが、アメリカでは刺激―反応の連合説として出発し、ソーンダイクの問題箱による知能研究、ヤーキズの多肢選択装置、などによる下等動物から類人猿に至る比較研究などを生み出した。
[小川 隆]
20世紀前半の比較心理学は、条件づけによる動物実験を通じて多くの実験技術を案出したが、それはまた人の行動の実験技術としても応用されている。前記の装置に加えて、種々な迷路装置、ハンターの遅延反応装置、ウォーデンC. T. Wardenの障害箱、ミラーの電撃を逃避・回避して移動する往復箱、ラシュレーK. S. Lashley(1890―1958)の跳躍台、ハーロウのウィスコンシン装置Wisconsin apparatus、スキナーの実験箱、などである。これらは、認知・学習・情動などのそれぞれの課題について考案され、広く使用されてきた。現在、動物行動を複雑な人間行動の単純化された模型とみる研究面では、動物心理学は主として学習研究を中心に発展し、とくに、アメリカの行動主義、行動理論の基本資料を提供している。
[小川 隆]
これらの研究面の実験動物としては、一部には学習と遺伝との関係に着目してプラナリア(扁形(へんけい)動物)などの下等動物も用いられているとはいえ、ネズミ、ハト、サルなどに限定されている。これに対して動物の種に特有な行動様式の比較研究は、ローレンツ、ティンバーゲン、さらにはフォン・フリッシュKarlvon Frischらのヨーロッパの比較行動学ethologyによって行われており、哺乳(ほにゅう)類ばかりでなく、鳥類、魚類、昆虫類にわたって広い範囲の動物が対象とされている。これらの研究者は、系統発生的に各種の動物の生得的行動を解明することが関心事である。その研究領域も適者生存survivalの原理に従った生得的・本能的行動の全般にわたっている。個体の行動面では、日周活動、概日リズムcircadian rhythm、造巣nest building、捕食foraging、帰巣homingなど、社会的行動面では、繁殖breeding、共生symbiosis、伝達communication、攻撃aggressionなどが比較研究され、儀式化ritualizationされた行動の象徴様式が指摘されている。また、行動の発達面では初期経験が重視され、刻印、刷込みimprintingなどの事実がみいだされている。
なお、アメリカの比較心理学は、習得行動を条件づけによる刺激―反応―強化の図式でとらえ、スキナーらによって精緻(せいち)な実験的行動分析を展開しているし、ヤーキズの流れは類人猿に関する言語行動や情動行動の条件発達的研究を生み出しているが、一方、ヨーロッパの比較行動学は、前記の領域について生得的行動を生体の自発的活動として扱っている。
動物行動と人間行動との比較は多くの学際研究を発展させているが、神経系と行動との対応関係が生物・生理心理学の領域で進められ、電気生理学的手法に加えて、近年は生化学的方法も導入されている。実験的行動分析と結合した動物心理物理学animal psychophysics、行動薬理学behavior pharmacologyがそれぞれの局面を開拓している。一方、比較行動学は人間比較行動学human ethologyとして社会文化の行動面にもかかわっている。
[小川 隆]
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[生態学の発展]
生物学を大きく二つに分けると,個体の生命現象を解析的に追究する方向(広義の生理学)と,個体から発して個体間,種間,個体と環境など,関係を外へ求めていく方向(広義の生態学)がある。後者は本来の生態学のほかに,動物心理学と生理学の一面,動物行動学,社会生物学,生物社会学,生物地理学,進化の問題などを含む。ただし,形態形成などの問題では細胞を単位としてとらえることが必要で,これは第3の立場(広義の細胞学)といえるかもしれない。…
… しかし,ダーウィンの影響を受けたローマニーズG.J.Romanes(1848‐98)のしごとは,ロイド・モーガンらから擬人主義であるという批判を受ける。モーガンらは客観主義の名のもとに,生物体を一つの刺激反応系とみなす動物心理学を提唱し,以後19世紀後半から20世紀にかけては,これとJ.ロエブらの反射,走性の生理学が,動物行動研究の主流となる。 ファーブルを代表とする在野の研究者の間に伝えられた行動研究の博物学的な側面は,O.ハインロート,C.O.ホイットマン,J.S.ハクスリーらに受け継がれ,やがて1930年代から40年代にかけて,K.ローレンツによって,動物行動学の理論づけがなされる。…
※「動物心理学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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