(読み)マンジ

デジタル大辞泉 「卍」の意味・読み・例文・類語

まん‐じ【×卍/×卍字/万字】

インドビシュヌ神の胸の旋毛起源とする瑞兆の相。仏教に入り、仏の胸など体に現れた吉祥の印の表象となった。日本では、仏教や寺院記号紋章標識として用いる。
紋所の名。1図案化したもの。左まんじ・右まんじなど。

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精選版 日本国語大辞典 「卍」の意味・読み・例文・類語

まん‐じ【卍・卍字・万字】

  1. 〘 名詞 〙
  2. もとインドでビシュヌ神の胸毛より起こった吉祥のしるし仏菩薩の胸・手・足などに現われた吉祥・万徳の相を示すもの。日本では寺院の標識、記号などに用いる。
    1. [初出の実例]「胸有万字」(出典:往生要集(984‐985)大文四)
    2. [その他の文献]〔首楞厳経‐一〕
  3. 卍のような形。
    1. [初出の実例]「瀬をふみ分の鰰(はたはた)の穴〈紫紅〉 橋と虹と卍に組んで晴わたり〈其角〉」(出典:俳諧・類柑子(1707)中)
  4. 紋所の一つ。卍にかたどったもの。左卍、右卍、丸卍など種類が多い。
    1. 左卍@右卍
      左卍@右卍

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改訂新版 世界大百科事典 「卍」の意味・わかりやすい解説

卍 (まんじ)

インドの諸宗教で,瑞相(ずいそう)すなわち吉祥や美徳象徴するものとして用いられる印。卍字,万字とも書く。サンスクリットでは〈スバスティカsvastika〉あるいは〈シュリーバトサśrīvatsa〉といい,吉祥喜旋,吉祥海雲などと漢訳される。太陽が光を放つありさまを象形化したのが起源であるとされているが,アショーカ王碑文中の〈スバスティsvasti(〈吉祥〉の意)〉という文字を図案化したものが起源であるとする説など異説も多く,一定していない。ヒンドゥー教ではビシュヌ神の胸の旋毛を象徴したものとされ,仏教では釈迦の胸や足裏にある瑞相とされる。またジャイナ教でも吉祥の印(しるし)として用いられている。仏教とともに中国,日本にも伝えられ,現代の日本では仏教や寺院を示す記号・標識として用いられている。なお,万字には中心から右に旋回した右万字と左に旋回した左万字卍とがあり,ヒンドゥー教などでは両者に異なった意義づけを与えているが,中国,日本ではその区別はなく,現今の日本ではもっぱら左万字卍が用いられている。
執筆者:

文様としての基本形は十字形の各先端が直角に曲がったもの(十字)。変化形が多く,先端が渦巻状となるもの,四つ巴の図と地が反転した形のもの,左万字,右万字の各先端がさらに屈曲し連続文となった万字繫ぎ(まんじつなぎ),万字崩し,数本の平行線から成る万字文,ギリシアの怪物ゴルゴンと組み合わされ,ゴルゴンの膝走り文(ひざばしりもん)と呼ばれるもの,幾何学文様化した鹿を万字形に構成したもの,全体を菱形に変形したもの,などがある。鉤十字を含めた文様としての万字の歴史は古く,前3千年紀のメソポタミアのスーサ出土の彩陶をはじめ,ギリシア,ローマ,インド,中国など古代文明の栄えた各地域で見つかっている。万字文は古くは太陽が光を放つ状態をかたどったものとも考えられているが,同時に運動のシンボルでもあった。初期の万字文には回転の方向による明確な意味づけはなかったが,のちに右万字が正常で聖なるものとして区別されることも行われた。その理由として,(1)太陽・天体の運行である右回りと同調する,(2)インドにおいて樹霊の宿る菩提樹を中心に右回りしながら男児の誕生を祈る,(3)仏教発祥以後聖地を右回りに拝するのがよいとされたこと,などが挙げられ,右万字は幸福と豊穣を表し,左万字は逆に死を表すものともされた。

 世界各地の万字文を挙げると,ギリシアにおいてはアテナイのディピュロン出土の前8世紀ころの壺にギリシア雷文の一つとしてあらわれ,のちに絵画や建築装飾,服飾など広く用いられた。また,ナチスの標章として有名なハーケンクロイツHakenkreuzは鉤十字の一種で,右万字である。中国では卍は仏書にある万の字の代りとして用いられ,仏の胸上の吉祥万徳の印であった。連続文の万字繫ぎは不断長久(ふだんちようきゆう)を表すものとして織物や黄檗(おうばく)山万福寺の装飾などに用いられている。万字繫ぎの一種,紗綾形(さやがた)は桃山時代に明から輸入された紗綾という織物の紋であったことからその名がついたというが,卍のもつ仏教的イメージから離れているためか,日本の織物や襖紙の文様として愛好されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「卍」の意味・わかりやすい解説


まんじ

仏の胸や手足などに表される徳の象徴。万字とも書く。右万字()と左万字(卍)があるが、現今の日本では左万字が多く用いられている。インドの彫刻の古いものにはが多く、むしろのほうが正しいというべきかもしれないが、中国や日本ではその区別はない。サンスクリット語でスバスティカsvastikaまたはシュリーバッツアśrīvatsaといい、吉祥喜旋(きちじょうきせん)、吉祥海雲とも訳す。インドの神ビシュヌの胸にある旋毛が起源というが、実際はもっと古く、偉大な人物の特徴を示すものらしく、瑞兆(ずいちょう)とも、吉祥を示す徳の集まりを意味するようになった。日本では仏教や寺院を示す記号・紋章、あるいは標識として一般に用いられている。なお、は十字架の一種として世界各地で古代から用いられたが、起源に関しては異説が多い。

[石上善應]

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普及版 字通 「卍」の読み・字形・画数・意味


6画

[字音] マン・バン
[字訓] まんじ

[字形] 象形
十字形の組み合わせた線が回転する形。もと仏教で用いた記号で、吉祥や幸福を示す。十字形の各末端に回転方向をつける。吉祥万徳の集まるところで、音は(万)(まん)。ものの入りみだれたさまを卍巴(まんじともえ)という。左旋・右旋を左卍・右卍という。

[訓義]
1. まんじ。
2. ものが入りみだれるさま。

[熟語]
卍果・卍字

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百科事典マイペディア 「卍」の意味・わかりやすい解説

卍【まんじ】

サンスクリットではスバスティカsvastikaといい,もとビシュヌ神の胸の旋毛に起源し,瑞兆の相。卍字,万字とも書く。ヒンドゥー教や仏教では陽光の象徴。また仏教では仏心を表す。日本では広く仏教,仏寺の象徴,家紋や標識として用いる。ヨーロッパ,アフリカにもある。ナチスはこの変形(逆卍)をハーケンクロイツ(鉤十字)と称し,反ユダヤ主義の象徴として用いた。
→関連項目幾何学文法輪

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「卍」の意味・わかりやすい解説


まんじ
svastika

インドで吉祥のある人や物の象徴。めでたい趣意を表示する。ビシュヌ神の胸の旋毛に起源を発しているといわれるが,仏教では仏陀の胸,手足,頭髪に現れた吉祥の印の象徴,さらに仏心の印としても用いられる。また寺院の記号,紋章,標識としても用いられる。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【十字】より

…(4)正十字の線の末端が曲がっている鉤十字,またはギリシア文字のガンマが四つ組んだ形なので,ガンマテ十字,ガンマディオンgammadionとよばれるもの。インドではスワスティカ,日本では〈卍(まんじ)〉とよばれている。古代では正十字に次いで最も広く用いられ,右旋と左旋があり,右旋は白魔術,吉祥,進行など,左旋は黒魔術,降魔,退行などを意味する。…

※「卍」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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