仏教で,釈迦の説いた教え(法)を車輪にたとえて呼んだもの。後には,法(仏教)もしくは仏(釈迦)そのものの象徴としても用いられるようになった。サンスクリットのダルマチャクラDharma-cakraの訳。ダルマは法,またチャクラは車輪もしくは円盤形の武器を意味する。したがって法輪とは,仏の教えが1ヵ所に止まることなく,あらゆる地方のあらゆる人々にゆきわたることを,車輪のどこにでも行く自由な動きにたとえ,また人々の邪見・邪信を砕破するのを,武器としての円盤のはたらきになぞらえたものである。仏が法を説くことを〈転法輪(てんぼうりん)〉,とくに成道(じようどう)後最初の説法を〈初転法輪(しよてんぼうりん)〉というが,これも教えを説くことを車輪を転がすことになぞらえた言い方である。また,仏の偉大な特徴を表す〈三十二相〉の中の一つ,〈千輻輪相(せんぷくりんそう)〉(足の裏もしくは掌にあるという車輪形の文様)も,仏の偉大なはたらきである説法(転法輪)を象徴するもの(法輪)とみることもできよう。仏像出現以前の古い彫刻では,仏のあるべき位置にしばしば輪形(あるいは聖樹など)が刻まれているが,これは仏(釈迦)を法輪(もしくは聖樹など)によって象徴的に表現したものである。また,サールナート出土のアショーカ王石柱の柱頭部分には,獅子の足下の所にみごとな法輪が刻まれており,このデザインは現代のインド国旗にも,その中央部にそのまま採り入れられ描かれている。
執筆者:岩松 浅夫
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… 仏典やジャイナ経典で高い位置を占めるインドの転輪王(チャクラバルティラージャ)は,この世界を統治する大帝王であり,仏教圏では,車輪は輪廻転生する人間の苦の世界を表したり,そこから解脱(げだつ)する道を示すときに用いた。釈迦の最初の説法は初転法輪と呼ばれ,初期には釈迦の像の代りに法輪が使われた。円形の図形である曼荼羅ともかかわり,東洋では車は最終的に解脱,完成,到達を示す象徴である。…
※「法輪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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