財産計算のみを行い、損益計算を行わない簿記の総称。債権・債務を記入するほか、現金の収支、商品の増減などを適宜な方法で記帳するものであり、売上げや費用は記帳しない不完全な簿記である。したがって、記録計算の実行は容易であるという長所をもつが、資本変動に関する記録計算を行わず、財産の全体的変動の経過を記録した総勘定体系を欠いているため、帳簿記録の正否を検定する自己統制の能力がないという欠点をあわせもつ。
決算においては、単式簿記には損益に関する組織的な記録がないため、損益の計算は、いわゆる財産法によって行う。すなわち、期末現金・預金勘定および人名勘定元帳(もとちょう)の各口座残高および実地棚卸による資産有高(ありだか)と負債有高とを集計する。そして総資産額と総負債額との差額から自己資本有高を導き、これを期首資本と比較して期間損益を決定する。しかし、損益勘定をもたないため、期間損益の発生経過が明確にされず、財産管理のためには不完全な計算資料しか得られない。
単式簿記は計算機構が簡単であり、現金収支と二、三の資産負債項目の増減を記入すればそれで会計記録として役だつところから、家計、現金出納記録から損益計算の資料を求めうる小規模な企業、および組合・学校などの非営利法人に適しているといえる。
[佐藤宗弥]
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[会計の技術]
会計は一般に簿記という記録・計算・総括の技術を用いて実施される。簿記は,これを基礎づける原理の相違により複式簿記と単式簿記とに分類される。前者は,勘定,仕訳記入,貸借平均の原理等複式簿記原理に基づく500年の古い伝統をもつ高度の記録・計算技術である。…
… 簿記は,人間の記憶の限界を克服し,自己の支配する財産の保全・管理を遂行し,また組織の資金提供者に対する受託会計責任fiduciary accountabilityを果たすべく長年にわたって累積されてきた経済計算に関する知識体系である。
[複式簿記と単式簿記]
簿記は経済価値の流れ(取引)の記入の仕方によって複式簿記double entry bookkeepingと単式簿記single entry bookkeepingとに分けられる。前者は,取引を財産とその財産の調達の源泉の両面からとらえて複式記入し,それらを一定時点で総括する組織的簿記法で,貸借平均の原理に基づいて企業などの財産状態を正確につかみやすいため現代ではほとんどの企業がこの方式によっている(図)。…
※「単式簿記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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