江戸時代から明治・大正のころまで一般に行われた帳簿の一種。当時の帳簿は問屋,仲買,小売によって異なり,また営業の種類によって種々の差はあったが,およそ大福帳,買帳,売帳,金銀出入帳,判取帳,注文帳,荷物渡帳の7種に大別された。大福帳は売買両帳および金銀出入帳を総括するもので,本帳または大帳とも呼ばれ,その用法は売掛けを総記するにあった。すなわち大福帳には口座を設けて商品の品目,数量,価格などを売帳から各人の各口座に転記し,その代金収入は金銀出入帳から登録し,これによって差引計算するもので,顧客との取引状況をこの帳簿によってはっきりさせるためのものである。こんにちの得意先元帳がこれにあたる。普通の商家では最も重要な帳簿で,主として主人またはおもな使用人だけがこれを取り扱い,商家によっては,主人がこれを保管し,手代にすら秘密にするものがあった。なお商業の種類および繁閑に従い,種々の名称の帳簿のあったことはいうまでもない。当時の帳簿には長帳と袋帳とがあった。袋帳は用紙を四つ折とし,普通は20枚を1つづりとしてこれを数十つづりあわせ,用紙が不足のときは増加することもできた。問屋の大福帳は袋帳を用いることも多く,そのため大福帳を袋帳ともいったくらいであるが,長帳を用いたこともある。これは西の内,美濃紙または半紙を横二つ折とし,長つづり裁切りにしていったんつづった後は増減することができない。商家では,おもな帳簿を毎年年始に新調するのを常とし,これを年中行事の一つとして,毎年正月の11日に大福帳をとじ,蔵開きを祝う慣習があった。
執筆者:宮本 又次
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近世における商業帳簿の一種。商業取引が盛んになるにつれて、わが国の商業経営帳簿は単なる取引の記録的なものから分化して、買帳、売帳、金銀出入帳、注文帳、判取(はんとり)帳、荷物渡帳など目的別の各種帳簿がつくられた。大福帳は全体を総括した元(もと)帳で、とくに得意先との取引状況を明確にしたものであり、商店によっては本(ほん)帳とか大(おお)帳とよばれた。一般に取引相手ごとの口座を設け、売買のつど、商品の数量・価格などを売帳から各人の口座に転記し、さらに金銀出入帳から収入を転記して、代金の差引を計算した。
近代以後の得意先元帳に相当し、商家にとってはもっとも重要な帳簿であったから、主人や番頭だけが取り扱い、符丁(ふちょう)を使うなどして店員たちにも秘密にしていた店もあった。なお取引のいっさいを棒記していく単式帳簿を大福帳式というが、近世の大きな問屋などでは、大福帳を中心に複式構造をもった帳簿組織を整えていたことが、近年判明しつつある。
[北原 進]
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出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
… 江戸時代の商家で作成された帳簿の種類は業種・業態の違いや経営規模の大小によって千差万別である。異名同内容の帳簿もあれば,江戸時代の帳簿の代表的な名称であった大福帳などは売掛金の人別管理簿であったり,総勘定元帳の性格をもつものであったり,同一名称の帳簿でも商家によってその用法は一様ではない。また計算目的や記帳技術の違いによって関連帳簿のあり方も異なってくるが,通常商家において基本的に具備された帳簿の種類は,当座帳,売帳,買帳,金銀(銭)出入帳,判取帳,荷物渡帳,大福帳の類とされ,商業の繁閑によって便宜,帳簿の種類が増減された。…
…またアメリカのBryant & Strattonの簿記書《Common School Bookkeeping》(1871)のきわめて個性的な翻訳書である福沢諭吉の《帳合之法(ちようあいのほう)》(1873)により洋式簿記法が導入された日本では借方―貸方となっている。以後,日本では従来の〈帳合せ〉法すなわち大福帳を中心とした固有帳合法から徐々に洋式簿記法に転換していったが,全面的普及は大正末期または昭和初期ころであったといわれる。 日本でもたとえば〈江洲中井家帳合〉のように支店網管理等の目的から,取引記入を他帳簿の当該記入との間で帳合せを行い,合印を押捺する広義の複記原則がすでに延享・宝暦年間(1744‐64)には知られていたのであるが(商業帳簿),洋式簿記の導入によって貸借複記に基づく自動検証機能をもった合理的な勘定組織を獲得することができたのである。…
※「大福帳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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