知恵蔵 「原子力ムラ」の解説
原子力ムラ
環境エネルギー政策研究所を主宰する飯田哲也氏は、「原子力村」は自らの造語であるとし、全体が利益共同体であり、かつその内部が「意志決定中心」のない「ムラ社会」であることにより名づけたとしている。日本政府がエネルギー政策の中心に据えてきた原子力発電は、その開発や運用に巨額の資金を必要とする。これらが電力会社、原子力プラントメーカー、監督官庁、大学や研究機関とその研究者、政治家、マスコミ・業界紙などのうち原発に関わる特定の部門に集中して環流することにより利益共同体を形成している。
内田樹神戸女学院大名誉教授は、原子力工学を学んだ学生の進路の幅の狭さが癒着の構造を招くとしている。原発関連企業や機関のポストは少なくないが、専門技術者や研究者の就職先は限定される。ここで職を求めるには、担当教授などの口利きなしには難しい。更に、就職後の人事的交流も専門性などを理由に、企業・機関内でも限定的な部門の中で転属が繰り返され外部との交流が絶たれる。こうした人脈の狭さから公的機関の中立性に不安が生じるということは、自由民主党の河野太郎衆議院議員も指摘している。
核融合など学術的には大きな進展が見込めない状況、諸外国ですでに始まっている原子力依存からの脱却、いつか確実に訪れる破綻(はたん)に対する焦燥感や絶望感などがムラをむしばんでいたと飯田氏は述べている。また、原子力行政についての展望もあいまいなままに原発建設だけが先行しており、万一の方向転換に際しての責任の所在やあり方が明確に定められていないため、ムラには屈折した狭量な仲間意識が生じていたとも言われる。マスコミ各社からも、原発批判勢力とは無関係に安全性や経済性にわずかでも疑義を示しただけでも、論難を浴びせてムラからの放逐を図るなどのムラの傾向が指摘され、原発の安全性確保を脅かす結果につながったのではないかとの批判がある。
(金谷俊秀 ライター / 2011年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報