原子力製鉄(読み)げんしりょくせいてつ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「原子力製鉄」の意味・わかりやすい解説

原子力製鉄
げんしりょくせいてつ

原子炉から得られる熱(核熱)を利用した高温の還元ガス鉄鉱石を直接還元する製鉄方式。1965年旧西ドイツ、アーヘン工科大学のシェンクHermann Schenck(1990―1991)の提唱に始まる。日本鉄鋼協会は1968年(昭和43)から原子力部会を設けて調査研究を行い、これを受けて当時の通産省は、1973年から1980年にかけて、原子力製鉄の基礎的な要素技術に関する研究開発を、ナショナル・プロジェクトとして進めた。

 原子力エネルギーの製鉄プロセスへの導入形態を一般的に示せば、のようになる。しかし電気製鉄は電力単価が格段低廉でなければ高炉法に対抗できず、また還元ガスを高炉へ吹き込む方式も得策でなく、結局、中太線で示した方式が原子力製鉄プロセスとして研究開発の対象となっている。

 製鉄用プロセスヒートとしては、できうる限り高温であることが望ましいので、原子力製鉄用原子炉としては1000℃以上の熱を取り出せる高温ガス炉を開発しなければならない。このため日本原子力研究所(現、日本原子力研究開発機構)で被覆粒子燃料を用い、ヘリウムガス冷却方式で950℃の熱を取り出せる高温ガス炉の開発が進められ、2004年(平成16)4月に世界で初めて原子炉出口冷却材温度950℃を達成した。2010年3月には、50日間の高温連続運転に成功している。還元ガス製造には、ヨーロッパ諸国では天然ガス水蒸気改質法が、日本では原油の減圧蒸留残渣(ざんさ)油の水蒸気分解‐水蒸気改質をシャフト炉で行う方式が検討された。

 高温ガス炉からの核熱を利用する場合、安全上からも熱交換器を置くことが望ましいが、その製作には特殊な耐熱合金の開発と構造設計面でのくふうが必要で、高温の核熱利用のための重要技術開発課題となっている。

[中島篤之助]


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改訂新版 世界大百科事典 「原子力製鉄」の意味・わかりやすい解説

原子力製鉄 (げんしりょくせいてつ)

鉄鉱石から鉄を取り出す際に必要な還元材として,従来石炭から作られたコークスが用いられているが,日本ではこのための石炭を全面的に輸入しており,将来その入手が困難になった場合,あるいは価格が高騰した場合に備えて,これに代わる手段を開発しておくことが望まれている。原子力製鉄は高温ガス炉で得られる高温の熱を利用して,重質油あるいは低品位の石炭等を水素と一酸化炭素の混合物である還元性のガスに分解し,これを還元材としてシャフト炉で製鉄を行おうとするものである。

 原子力製鉄や高温化学方面への利用を目ざして,日本ではヘリウムガス出口温度950℃,熱出力50MWの多目的超高温ガス実験炉高温ガス炉)の開発が進められている。そして,これと並行して,1973年から80年にかけて,国と民間の協力により,〈高温還元ガス利用による直接製鉄〉研究開発プロジェクトが実施され,上記の実験炉に接続する規模の原子力製鉄利用系の設計,建設,運転に必要な技術が開発された。
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百科事典マイペディア 「原子力製鉄」の意味・わかりやすい解説

原子力製鉄【げんしりょくせいてつ】

製鉄への原子力利用は,一つは原子力発電で電力コストが低下した場合,電気炉製銑などに利用することである。しかし画期的な製鉄法として期待され研究されているのは,原子炉冷却ガスの熱を鉄鉱石還元に直接利用する方法である。これは高温ガス冷却炉の冷却材(ヘリウムなど,出口温度1000℃以上が必要)を水素または一酸化炭素と熱交換し,高炉に代わる適当な還元装置に吹き込み,コークスの大幅な削減を図るものである。日本ではヘリウムガス出口温度950℃,熱出力50MWの多目的超高温ガス実験炉の開発が進められ,これと並行して1973年から1980年にかけて,国と民間の協力により,《高温還元ガス利用による直接製鉄》研究開発プロジェクトが実施され,上記の実験炉に接続する規模の原子力製鉄利用系の設計,建設,運転に必要な技術が開発された。→原子力産業

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