行政庁の公権力の行使によって生じる違法状態や違法な権利侵害を取り除くための訴訟。行政事件訴訟法は、不服を訴える側が求める形式として、処分の取り消しや無効確認など6種類を挙げているが、これら以外にも成立する可能性があるとされている。沖縄県が今回起こした訴訟は「処分の取り消し」に当たり、認められれば裁判所が処分を取り消す。自治体が提訴できるのは、自己の権利や利益の保護救済を求める場合に限られるとした判例があるため、沖縄県が抗告訴訟を起こせないとする見方もある。
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行政事件訴訟法の定める行政訴訟の一類型。抗告訴訟の概念はもともと行政裁判制度との密接な関連のもとに学問上の用語として形成されてきたものである。古くは,近代的な行政裁判制度が創設される以前のドイツでは下級官庁の処分・決定に対する上級官庁への不服の申立てが抗告と呼ばれ,行政裁判制度の創設後,下級行政庁の処分の効力を争う訴訟が抗告訴訟Anfechtungsklageと呼ばれるようになった。戦前の日本の行政裁判制度の下でも,行政処分の効力を争う訴訟,とくに行政処分の取消を求める訴訟が学問上,抗告訴訟と呼ばれていた。戦後の日本では行政裁判制度が廃止されたが,行政訴訟の観念は維持され,行政事件訴訟特例法の下でも,行政処分の取消または変更を求める訴訟が抗告訴訟として理解されてきた。しかし,同法の規定では抗告訴訟の範囲が必ずしも明確ではなかったので,現行行政事件訴訟法は,抗告訴訟の定義と種類を明確に規定した。
同法によれば,抗告訴訟とは〈行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟〉をさすものとされている(3条1項)。そして抗告訴訟の種類としては,(1)処分の取消の訴え(行政庁の処分その他公権力の行使にあたる行為の取消を求める訴訟),(2)裁決の取消の訴え(審査請求,異議申立てその他の不服申立てに対する行政庁の裁決,決定その他の行為の取消を求める訴訟),(3)無効等確認の訴え(処分もしくは裁決の存否またはその効力の有無の確認を求める訴訟),(4)不作為の違法確認の訴え(行政庁が法令に基づく申請に対し,相当の期間内になんらかの処分または裁決をすべきにかかわらず,これをしないことについての違法の確認を求める訴訟)の4種のものが法定されている(3条2~5項)。もっとも,抗告訴訟は,その法令上の定義からしても,上記の4種類の訴訟に限定されているわけではなく,行政法上の義務不存在確認訴訟,行政庁に対する作為もしくは不作為の義務づけ訴訟等のいわゆる無名抗告訴訟も理論的には考えうる。ただ,これらの無名抗告訴訟については,どのような種類,内容のものが許されると解するか,学説および判例の見解は一致していない。
抗告訴訟の概念について,従来の学説では,これを行政行為の特殊な効力と結びつけて理解する見解が有力であった。すなわち,抗告訴訟とは,行政庁の公定力をもった第一次的判断に基づいて生じた違法状態を否定または排除し,相手方の権利利益の保護救済を図ることを目的とする訴訟をさすとされてきた。そこには,公権力の行使としての行政行為が私法上の法律行為と異なる特殊な効力をもつことを所与の前提とし,したがって通常の民事訴訟に対する抗告訴訟の特殊性を認めようとする立場が強く出されているが,今日では行政行為の公定力の理論そのものが再検討の対象とされるようになってきており,したがって抗告訴訟の意義づけ,その理論的構成についても種々の検討が加えられつつある。
→行政訴訟
執筆者:宮崎 良夫
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行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう(行政事件訴訟法3条)。伝統的に、行政の活動には公権力活動と非権力的活動の2種類があると考えられてきた。後者においては、行政も私人と同じ立場にたつので、それをめぐる紛争は民事訴訟により裁かれる。前者においては、行政が法律の適用により国民に対して優越的立場にたって一方的に決定することが認められているので、国民がこれに不服をもつ場合も、民事訴訟とは異なる特別の救済制度が用意された。抗告訴訟の名称も、行政の公権力の行使に対する争いは、第一審の決定に対してあたかも上級審に抗告するものに似ているとの見方に由来する。このような見方は、行政と国民が法の前には対等であるとの今日の発想からみれば時代錯誤に近いが、こうした法体系の根本的見直しはなかなか行われない。民事訴訟では権利義務の有無が争点になるが、抗告訴訟の争点は、行政が法令に従っているかどうかである。
抗告訴訟には、行政庁の処分その他公権力の行使にあたる行為を取り消し、原状に復帰させ、またやり直しをさせる処分の取消訴訟と、審査請求、異議申立て、その他の不服申立てに対してした行政庁の裁決について同様に取り消す裁決の取消訴訟がある。これらを提起するには原則として6か月の出訴期間を守らなければならない。この期間を徒過した場合、例外的には処分等無効等確認の訴えまたはいわゆる争点訴訟(処分が無効であることを前提とする権利義務関係に関する給付訴訟、確認訴訟等)を提起することが許される。行政庁が許認可の申請や生活保護の申請等、法令に基づく申請に対し相当の期間内になんらかの処分または裁決をすべきであるにもかかわらずこれをしないときは不作為の違法確認の訴えが許されるが、原告が勝訴しても、許可等がなされるとは限らず、不許可処分がなされることがあるので、きわめて中途半端な訴えである。そこで、許可せよといった、行政庁に特定の権限行使を義務づける義務づけ訴訟が必要である。これについては、従来明文の規定がなく疑義があったが、2004年(平成16)の行政訴訟法改正(2005年4月1日施行)により明文の根拠がおかれた。また、行政庁の違法な権限発動をあらかじめ阻止する差止訴訟についても従来争いがあったが、同様に明文の規定が置かれた。いずれについても、若干活用例が出ている。
[阿部泰隆]
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…これに加えて,現行の行政訴訟制度の下では,国民の権利保護を目的とする主観訴訟を中心にして行政訴訟が構成されている。したがって,次に述べる各種の行政訴訟のうち中核を占める抗告訴訟については原告適格の要件が定められるとともに(9,36,37条),客観的な法秩序の維持を目的とするところの客観訴訟たる機関訴訟および民衆訴訟はあくまでも例外的なものとされている(42条)。
[行政事件訴訟の種類]
行政事件訴訟法は,行政訴訟の種類として,次の四つの訴訟を定めている。…
…この語は多義的であるが,広義では,対立する当事者を対等の立場で訴訟手続に関与させ,その請求・申立てについて裁判所が審判を下す訴訟をさす。しかし,行政訴訟の分野では,当事者訴訟は抗告訴訟に対立する観念として用いられ,一定の訴訟類型をさしている。すなわち,抗告訴訟とは,〈公権力の行使に関する不服の訴訟〉(行政事件訴訟法3条1項)とされるのに対し,当事者訴訟は,〈当事者間の法律関係を確認しまたは形成する処分または裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするものおよび公法上の法律関係に関する訴訟〉(4条)とされる。…
※「抗告訴訟」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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