国家賠償(読み)コッカバイショウ

デジタル大辞泉 「国家賠償」の意味・読み・例文・類語

こっか‐ばいしょう〔コクカバイシヤウ〕【国家賠償】

公務員公権力を行使する職務を行う際に、故意または過失によって違法に他人損害を加えた場合、もしくは公の営造物設置管理瑕疵かしによって他人が損害を生じた場合に、国または公共団体の行うべき損害賠償。昭和22年(1947)施行国家賠償法規定される。

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精選版 日本国語大辞典 「国家賠償」の意味・読み・例文・類語

こっか‐ばいしょうコクカバイシャウ【国家賠償】

  1. 〘 名詞 〙 公務員の不法行為により他人に損害を与えた場合、国または公共団体が行なう損害賠償。国家賠償法に規定。
    1. [初出の実例]「補助金でももらう方が得だとか、国家賠償など思いつかぬとか」(出典:法と自由(1954)〈末川博〉天災と国家の責任)

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改訂新版 世界大百科事典 「国家賠償」の意味・わかりやすい解説

国家賠償 (こっかばいしょう)

日本国憲法では,基本的人権一環として,国あるいは都道府県・市町村のような公共団体(以下たんに〈国〉という)の公務員の不法行為によって損害を受けたときには,いかなる人にも,法律の定めるところにより〈国〉に賠償を求める権利が認められている(17条)。この憲法の規定を受けて作られた法律が国家賠償法(1947公布)である。しかし,国家賠償法は,公務員の不法行為に関する国の責任だけではなく(1条),道路・河川あるいは学校の建物等〈公の施設〉(〈公の営造物〉ともいう)の設置管理にミス(瑕疵(かし))があった場合にも,〈国〉が責任を負うことを定めている(2条)。通常は,公務員の不法行為と〈公の施設〉の設置管理ミスにつき,〈国〉の負う賠償責任を総称して〈国家賠償〉責任といっている。

一般に,西欧諸国では,〈公の施設〉に関する〈国〉の賠償責任は比較的早い時期から認められてきた。それは,〈公の施設〉であるといっても,私人のもつ施設と本質的には変わらないという考え方に基づいていた。これに対し,公務員の不法行為に関する〈国〉の賠償責任は,19世紀末ころから検討されはじめ,第1次大戦前後より制度化され,第2次大戦後に世界中のほとんどの国々で,この制度を受け入れるにいたったものである。

 公務員の不法行為の場合と,〈公の施設〉の設置管理ミスの場合とで,その責任制度の確立時期が異なっていたのは,公務員の不法行為の場合には,一方で〈主権免責〉の原則が支配し,他方で公務員個人の責任制度が確立していたためだといわれている。〈主権免責〉の原則というのは,各国によって多少ニュアンスが異なっているが,国の行為はたえず法律に基づいて行われるものであり,国が違法な行為をすることはないという考え方に基づいている(イギリス法では,この原則を,〈国王は悪をなしえずKing can do no wrong〉という有名なことわざで表現している)。またその裏返しとして,公務員の不法行為については,公務員が法律で定めた要件に従わなかったために生じたものであるから,公務員個人が責任を負うべきであるという考え方が支配していた。しかし,19世紀末ころから,民間の場合には,使用人とか職員の不法行為について使用主や法人が責任を負う傾向が強くなり(使用者責任,法人の不法行為責任),〈国〉だけが公務員の不法行為につき賠償責任を負わぬのは,国民の救済上はなはだ不均衡に帰するという見解があらわれ,〈国〉の賠償責任が制度化されるにいたったものといわれている。

 日本の明治憲法下では,とくに法律で定めた場合を除いて(登記官吏・執達吏等の場合),〈国〉が官公吏の不法行為責任を代わって負うことはなかった。しかも,日本の特殊性として,絶対主義的な色彩をもつ天皇制が支配していたので,官公吏個人の賠償責任が問われることもほとんどなかった。また,〈公の施設〉についても,明治時代には,私営と同じ立場にある鉄道事業のような場合は別として,学校等の施設の管理ミスについては,西欧諸国と異なって責任を負う体制になっていなかった。〈公の施設〉に関する〈国〉の賠償責任は,ようやく大正時代になって,大審院(当時の最高裁判所)の判例により確立するにいたった(1916,遊動円木事件--市立小学校の遊動円木で遊んでいた児童が,その遊動円木が腐朽していたため落ちて死亡し,その父が市を相手に損害賠償を請求した事件)。しかしなお,河川・道路の管理ミスなどについては,〈国〉の責任を認める判例は存在しなかった。

 第2次大戦後に,日本国憲法が制定される際に,原案となったいわゆるマッカーサー草案では,17条の規定は存在しなかったが,草案を国会で審議していく過程で,拷問などの被害を受けた者が救済されなかった戦前の状況への反省から,基本的人権規定のなかに〈国〉の賠償責任を盛り込むにいたった。

国家賠償法1条は,〈国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたとき〉,〈国〉は責任を負うことを定めている。この規定の〈公権力の行使〉〈公務員〉〈その職務を行うについて〉などの概念は,比較的ゆるやかに解釈され,救済の道が確保されうるように取り扱われてきている。同法2条は,〈道路,河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたとき〉には,〈国〉は過失がなくとも賠償責任を負うことを規定している(無過失賠償責任に近い瑕疵責任主義という)。適用例としては,道路が圧倒的に多いが,最近では水害など河川関係も注目を集めている。なお国家賠償法は,真の損害発生原因者が他にある場合には,〈国〉は支払った賠償金をその者に請求することを認めている(求償権。1条2項,2条2項,3条2項)。

 〈国〉は,前述の二つの場合以外の事件については,特別法のある場合を除き,原則として民法の適用を受けることになっている(4条)。また外国人が被害者の場合には,その母国で日本人に対し国家賠償責任を認める制度のある場合にかぎり,救済を受けることができる。ただ,国家賠償はすでに生じた損害をあとから金銭で償うための救済制度であるので,現に公務員の不法行為や〈公の施設〉の瑕疵で被害を受けているものは,この制度で救済を求めることはできない(行政事件訴訟法の取消訴訟,民法上の差止請求権が利用される)。また,国家賠償と似た制度に刑事補償があるが,それは無罪判決を受けた者に,国に違法過失がなくとも,一定の金銭を支払って救済しようとするもので,広い意味での補償制度にはなるが,ここでいう国家賠償とは異なるし,また財産に対する補償でもないため損失補償とも異なる。
国家補償 →損失補償
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