口紅(読み)クチベニ

デジタル大辞泉 「口紅」の意味・読み・例文・類語

くち‐べに【口紅】

化粧のために唇に塗る紅。ルージュ
器物の縁、特に陶磁器の口縁を赤く彩色すること。また、彩色したもの。

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精選版 日本国語大辞典 「口紅」の意味・読み・例文・類語

くち‐べに【口紅】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 女性が化粧のために唇に塗るべに。ルージュ。〔日葡辞書(1603‐04)〕
    1. [初出の実例]「あかき物のしなじな〈略〉朱屋のかかの口べに」(出典:仮名草子・尤双紙(1632)上)
  3. 物の縁にべにを付けること。また、そのもの。あるいは、そのべに。
    1. [初出の実例]「懐ろより口紅(クチベニ)の長文を出し、さっと開き」(出典:歌舞伎・児雷也豪傑譚話(1852)序幕)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「口紅」の意味・わかりやすい解説

口紅
くちべに

唇(くちびる)に塗る化粧品。フランス語はルージュrouge。おもに赤系統の色彩で魅力的、健康的にみせるものと、つやを与えるものなどがある。油性の基剤と着色料からなり、スティック(棒)状、軟膏(なんこう)状、液状のものなどがあるが、スティック状のものがもっとも多く使われている。

[横田富佐子]

西洋

口紅といえば今日ではほとんどが棒口紅(リップスティックlipstick)であるが、西洋では、紅(べに)(ルージュ)が頬(ほお)と唇の両方に塗る化粧品として、ごく近い時代まで用いられてきた。唇に彩色したり形を整える口紅化粧の起源はさだかでないが、古代エジプトにはすでにクリーム状の紅があり、唇にも用いていた。しかし、エジプトの化粧は目の彩色が主であった。ギリシアでは、茶系の赤や暗い紫色の紅で唇を彩り、紅は、海藻、桑の実、紫貝、辰砂(しんさ)(赤色硫化水銀)などでつくられた。紅は引き続きローマでも使用され、また中世でも、スパニッシュウール(赤い色をつけた布テープ)が登場したが、紅は唇よりも頬を赤くする化粧品であった。

 口紅の風習が一般化するのは14~16世紀のことで、ルネサンスのイタリアを中心に化粧が復活して、細く赤く塗った唇が美女の条件の一つとなった。当時の紅は、辰砂、アカネベニバナコチニールカイガラムシの一種)などを原料にしている。17世紀には赤い色をつけたポマードが唇にも用いられ、今日の口紅の原料となった。イギリスで紅をルージュとよぶようになったのは1753年ころからで、フランスの影響によるものであった。紅を主とするメーキャップは18世紀末まで続くが、依然として紅は唇よりも頬を赤く染めるものであった。

 20世紀に入ると、さまざまな流行色の口紅が女性の風俗に大きな変化を与えた。アメリカでスライド式のリップスティックが登場したのは1915年、その後ドイツで合成染料によるルージュがつくられ、口紅の品質は絶えず改良される一方、容器や内容にも新しいモードが生まれて今日に至っている。

 口紅の形状は、棒口紅のほかに、リップペンシル(鉛筆型)、クリーム状口紅(パレット型も)、液状口紅がある。関連製品にはリップグロス、リップシャイン、リップラスター、リップクリーム、リップファンデーションなどがある。

[平野裕子]

日本

わが国には高麗(こま)僧の曇徴(どんちょう)により610年(推古天皇18)にもたらされたという。中国では燕(えん)の国で産出され、ベニバナの汁を絞って紅をつくった。室町時代の絵巻物である『七十一番職人尽』のなかに、紅解粉という紅売りの姿がみられる。紅餅(べにもち)から紅をつくるのには、寒(かん)のときがもっともよいとされ、これを寒紅といった。

 江戸時代中期以降になると、寒に売りにくるのを愛用することがはやり、また女性相手の商家では、黒の素焼の臥丑(ねうし)の底に紅を塗って、これを寒紅とか丑(うし)紅といって景品とした。

 紅は、皿、猪口(ちょく)、茶碗(ちゃわん)などの容器に移して売られたが、のちには容器入りのものも売られた。そればかりではなく、懐中用としては、紅花と称して、これを二つ折りにした、2×3センチメートルくらいの長方形のものまでがつくられ、これを鼻紙袋に入れて持ち歩いた。なかには金銀銅でこれをつくり、定紋をつけたり、役者紋を入れたものもあった。江戸末期になると、化粧法に笹色(ささいろ)紅ということが行われた。これは、下唇を上唇より濃く塗る方法で、下唇が玉虫色に光るのが特色で、紅を何回も塗り重ねるが、これを手軽にしたのが、墨を塗ったうえに紅を塗る方法である。

[遠藤 武]

 紅は明治に入って外来物の輸入とその利用によって大きく変化し、ことに女性の間で化粧料としての口紅は棒状、軟膏、液状の3種類が出現した。とくに棒状のものは油脂やろうを適宜に選んで、これを溶かして混ぜ合わせ、それに赤色の染料や顔料を溶かして混ぜ、型に流して製造したもので、明治末期から盛んに利用された。また近来は各種の合成樹脂をアルコールで溶かして着色したものが売り出されている。

[植村 秀]

原料と製法

口紅は油性の基材と着色料からなる。基材は、オイル、油脂、ワックスを組み合わせてつくられる。着色料は顔料と染料(水溶性と油溶性)の2種に大別される。基材原料のうちカルチウバロウ、キャンデリラロウ、ミツロウ、セレシン、固形パラフィンなどのワックス類は、融点を高め固形を保つ目的で配合される。オイルには、流動パラフィンスクワラン、エステル類、ひまし油オレイルアルコールのような液状高級アルコールなどがある。これらは口紅ののびをよくし、軽く描けるように配合される。このほか、顔料の分散剤としての界面活性剤、製品の保存性を高める酸化防止剤および香料などが配合される。口紅は顔料および染料を、単独あるいは混合してさまざまな色調を出している。しかし最近では染料の配合量は少なくなる傾向にある。口紅の製法は基材を加熱溶解し均一に混合し、これに着色料を加えて十分混和したのち、再溶解して香料を添加し、割り型に充填(じゅうてん)成型し容器にさして口紅とする。

[植村 秀]

品質と用法

口紅に要求される性質としては、以下のようなことがあげられる。

(1)外観が魅力的で、かつ所定の色調であること。

(2)むらなく容易に着色できる。

(3)唇のアウトラインがくっきりと描け、にじみ出るおそれがない。

(4)製品の外観と同じ色調が長く保て、時間が経過しても変色しない。

(5)苦味や不快な味覚を残さない。

(6)唇に刺激がない。

(7)硬さ、つき、のびなどが一定しており、温度差によって左右されすぎない。

 口紅に含まれているワックスは、口紅の軟化点を上昇させ、高温抵抗性を高くする働きをし、ラノリンは口紅を塗りやすく、またつやを出す役目をする。カスター・オイルは使用時間を持続させ、エステル類は唇に塗ったときの滑らかさに微妙な感触を与える。高級アルコール類は、皮膚からの発汗作用を阻害させないよう、また自然なタッチを得るために配合されており、これらの成分がうまく配合されることによって、より良質な口紅を生むことになるのである。

 現代はファッションの多様化に伴い、カラーハーモニーも重要視されるので、色の出し方も複雑になっている。唇の内側をオレンジ色に、外側を真紅にというように、紅筆を用いて濃淡の変化を楽しんだり、パレット状の紅皿で数種の色を混ぜて、オリジナルな色を生み出したり、あるいはマニキュアやペディキュアの紅とのタッチをあわせてみるとか、ハンドバッグや靴、服装のなかの紅系統の色との調和を楽しむなど、くふうの仕方しだいでさまざまなイメージ・チェンジを楽しむこともできるようになっている。

[横田富佐子]

『リチャード・コーソン著、石山彰監修、ポーラ文化研究所訳『メークアップの歴史』(1982・ポーラ文化研究所)』『植村秀著『顔を創る』(1972・女性モード社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「口紅」の意味・わかりやすい解説

口紅 (くちべに)

唇を美しく彩り,輪郭をととのえると同時に,唇の荒れを防ぐための化粧品。古くは植物性の染料をそのまま使っていたが,現代では主として色素(顔料,染料)を油脂と蠟との混融基剤に混和したものを棒状にした棒紅(ぼうべに)(リップスティック)と,容器に流し込んだ練紅(ねりべに)とがある。古代エジプトやメソポタミアでは,唇や頰は赤色黄土やヘンナベニバナ(紅花)からとった染料で彩っていた。また,古代ギリシアでは,ムラサキ科のアルカンナAlkanna tinctoriaからとった紅色染料や天然の朱が使われていた。エジプト原産のベニバナは漢代の中国に伝えられて盛んに栽培され,これからとった色素は紅藍,臙脂(えんじ)と呼ばれて薬や染料,化粧料として使われていた。ヨーロッパでは16世紀ころになるとコチニールカイガラムシからとった赤色染料にアラビアゴムと卵白とイチジクの汁を混ぜたものを口紅として使うようになった。さらに19世紀になると,木や象牙の柄の先に絹のクレープや木綿のガーゼを丸め,ベニバナの紅色素(カーサミン)を染めつけたものを〈クレポン〉とよんで商品化するようになり,これをアルコールで湿らせて唇や頰を彩った。

 日本にベニバナが紹介されたのは7世紀に入ってからで《和名抄》に〈粉 和名閉〉とあり,粉をベニで染めたもので,頰紅として使っていた。薬用のほか,宮廷の染料として使われていたが,一般には〈禁色(きんじき)〉として濃い紅染は禁じられており,口紅としての使用は少なかった。紅が一般庶民に使われるようになったのは,ベニバナの栽培が盛んになった近世に入ってからである。しかし,ベニバナは全国的に栽培されていたが,収量が少なく〈紅1匁,金一匁〉といわれたほど高価だった。特に良質の紅は,冬のいちばん寒い寒(かん)のうちの深夜,それも丑の刻につくったものが色も変わらず品質も優れていたので,寒紅(かんべに)とか丑紅(うしべに)と呼ばれて珍重されていた。紅は皿や猪口(ちよこ)や小筥(こばこ),板などに塗りかさねて市販された。

 紅は濃く塗ると赤インキが乾いたときのようにブロンズ現象を呈し,真鍮(しんちゆう)色に輝く。高価な紅を濃く塗っているという見栄から下級の遊女や茶屋の女たちの間にはやったが,一般には口紅,頰紅,爪紅(つまべに)ともにごくうすく塗るのが上品とされていた。18世紀の末ころからは町娘にも紅を濃く塗るのが流行したが,高価なため下地に墨を塗り,その上から紅を塗って同じ化粧効果を生む工夫がされた。これは笹紅(ささべに)(笹色紅)と呼ばれて上方で流行し,江戸に入ったが,江戸では19世紀の中ごろからすたれ,上方では20世紀の初めころまで続いていた。

 1856年には合成染料がドイツのパーキンによって発見されたが,口紅に使われだしたのは20世紀に入ってからであろう。日本へは1906年ころから輸入されている。現在,口紅に使用する色素は,タール色素のうち,医薬品や食品用色素と同様,厚生省令で定められている法定色素が使われている。
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百科事典マイペディア 「口紅」の意味・わかりやすい解説

口紅【くちべに】

唇(くちびる)に色と光沢を与え,また乾燥を防ぎ,形を美しく見せる化粧品。古くはベニバナを絞って作るが用いられたが,現在は洋風の棒状口紅(リップスティック)が主で,ほかにクリーム状もある。ワセリン,流動パラフィン,蜜蝋(みつろう)などの油脂や蝋を溶かし赤色系の染料および顔料を練り込んで成形する。変色する口紅は顔料を用いず染料としてエオシンを添加したもので,黄色であるが,塗ると唾液(だえき)のため赤くなり落ちにくい。また唇の保護を目的とした無色のリップクリームもある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「口紅」の意味・わかりやすい解説

口紅
くちべに

化粧品の一種。口唇に塗って,顔に色彩効果を与えたり,口唇の荒れを防ぐために用いる。古代エジプト時代から最も一般的に使われた化粧品である。古くは泥状であったが,今日では棒状のものが主になっている。原料は蜜ろう,ひまし油,カカオ脂,ラノリン,香料,着色料が使われる。

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デジタル大辞泉プラス 「口紅」の解説

口紅〔錦鯉〕

錦鯉の模様のひとつ。口紅を塗ったように見える、口先の緋色の斑のこと。種類をさす場合には、体色により「口紅紅白」「口紅三色」などとする。

口紅〔金魚の体色〕

金魚の体色の名。口先だけが紅をさしたように赤いもの。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「口紅」の解説

口紅 (クチベニ)

動物。コダキガイ科の貝

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