口腔(読み)こうこう

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

口腔(こうこう)
こうこう

消化管の最初の部分で、唇から口峡(こうきょう)までの部分をさす。一般に医歯学関係では口腔(こうくう)外科学、口腔癌(こうくうがん)のように「こうくう」と読み習わしている。口腔の上壁は上歯列と口蓋(こうがい)とからなっており、鼻腔(びくう)との境をなしている。口蓋は、下に骨の支えがある前方の硬(こう)口蓋と、その支えのない後方の軟(なん)口蓋とに分けられる。下壁は下歯列、舌および下顎(かがく)骨と舌骨を結ぶ舌骨上筋群からなり、側壁は頬(ほお)の筋肉からなっている。口腔は食物を摂取するところであり、歯列により二分され、歯列の内側が固有口腔、外側が口腔前庭(ぜんてい)とよばれている。口腔前庭は哺乳(ほにゅう)のために生じたものであり、哺乳動物だけにみられる特徴で、それ以外の動物にはない。歯を除いた口腔の組織は、消化管と類似した構造をもち、表面は粘膜によって覆われている。口腔に関連のある消化腺(せん)としては唾液(だえき)腺があり、その導管は、耳下腺では頬(きょう)粘膜の上顎(じょうがく)第二大臼歯(きゅうし)に向かい合った部分に開き、顎下腺、舌下腺では口腔底粘膜の下顎前歯部の内側に開いている。そのため、唾液中のカルシウム分によって上顎大臼歯頬側面および下顎前歯舌側面には歯石(しせき)が沈着しやすい。
 口腔の機能は、そしゃく、発声および呼吸である。歯と舌によって食物はそしゃくされ、唾液中の酵素プチアリンによってデンプンはデキストリンと麦芽糖とに分解される。また、食物中の成分が舌の乳頭にある味蕾(みらい)に働き、味覚を生じる。口腔は、喉頭(こうとう)、気管ともつながっており、補助気道の役目を果たすとともに、口唇および舌の運動によって、母音、子音を構成する。
 口腔の二大疾患は、う蝕(しょく)(歯質が崩壊する疾患、いわゆるむし歯)と歯周疾患である。いずれも歯垢(しこう)が原因となるとされ、その予防には口腔清掃の重要性が指摘されている。形態異常の代表的なものは口唇裂、顎裂および口蓋裂である。顎顔面は胎生期に各種突起が癒合して形成されるが、この癒合がうまくいかないと口唇裂や口蓋裂などの裂隙(れつげき)が残る。表面に裂隙が現れなくても、顎骨あるいは軟組織内に癒合不完全部分が顔裂性嚢胞(のうほう)となって残ることもある。まれに斜顔裂、巨口症などがみられる。外傷では、飲食物による熱傷(やけど)、切り傷あるいは咬傷(こうしょう)が多く、交通事故、殴打などにより顎骨骨折、歯折などがおこる。感染症では、口腔内の常在菌が歯髄あるいは歯周組織に感染を生じ、さらに顎骨に波及し、歯髄炎、歯周炎、顎骨炎などを生じる。上顎大臼歯では、歯根の先端部が上顎洞に近接しているため、歯髄の炎症から歯性上顎洞炎を生じることがある。口腔内の感染症に伴い、しばしば所属リンパ節、とくに顎下リンパ節が腫脹(しゅちょう)することが多く、顎下部の腫脹、圧痛がみられるようになる。非常在菌による口腔の感染症としては、口唇ヘルペス、帯状疱疹(たいじょうほうしん)、流行性耳下腺炎、カンジダ症などがある。嚢胞としては、顔裂性嚢胞、歯胚(しはい)のエナメル器が嚢胞化した濾胞(ろほう)性歯嚢胞、粘液腺にみられる粘液嚢胞、顎下腺・舌下腺の唾液の貯留によるガマ腫、歯髄からの感染が原因で歯根の先端部に形成される歯根嚢胞、慢性上顎洞炎の手術後数年ないし十数年を経て生じてくる術後性上顎嚢胞などがある。腫瘍(しゅよう)のうち、良性のものではエナメル上皮腫、歯牙(しが)腫などがあり、悪性のものでは癌(がん)が多く、発生する部位により口唇癌、上顎癌、歯肉癌、舌癌などに分類され、組織学的には扁平(へんぺい)上皮癌が多い。口腔領域の肉腫は癌に比べてまれであり、癌の10分の1内外の発現をみるにすぎない。全身疾患の口腔症状では、血液疾患、糖尿病、梅毒あるいはビタミン欠乏症等により、歯の形成不全、歯肉や舌などの腫脹、出血または貧血、あるいは口腔粘膜の潰瘍(かいよう)等をみることが多く、全身疾患発見の手掛りとなる。[村井正昭]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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