改訂新版 世界大百科事典 「吉四六」の意味・わかりやすい解説
吉四六 (きっちょむ)
笑話の主人公。知恵者でひょうきんな男,吉四六の活躍する一群の話を吉四六話と呼ぶ。主に大分県の中南部の地に伝承されている。吉四六は大分県大野郡野津町(現,臼杵市)に実在した人だといわれる。明暦から元禄のころこの地で酒造業を営んでいた初代広田吉右衛門ではないかとする説がある。1715年(正徳5)の広田吉右衛門の墓もあるが確証はない。吉四六話の話種は,おどけ者,あわて者,狡猾(こうかつ)者,愚か村,愚か者など多彩で,吉四六独自の話以外に,土佐の泰作(たいさく)話や能登の三右衛門(さんによもん)話など各地のおどけ者話や愚か村話に共通する例が多い。また,近世の咄本に見える話と類似する話が数例指摘されている。もともと話じょうずで吉四六と呼ばれる頓智・頓才にたけた男が,体験談や耳にためた世間話・笑話をおもしろおかしく村内で語って聞かせた時代があったと想定される。のちに,吉四六話が広まって盛んになるにつれて,話種を拡大し,主人公の性格も多彩になっていったのであろう。
→彦市
執筆者:常光 徹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報