和服裁縫の略。和服仕立てともいう。明治以後、洋服裁縫が行われるようになったので、これと区別するために和裁、洋裁の語が用いられるようになった。
[岡野和子]
〔1〕和裁は長方形の布を縫い合わせて平面的に構成する。〔2〕和服は身体に密着させず、ゆとりある寸法に仕立て、着付によって立体的に形を整える。したがって、仕立て上がり寸法は、身丈、身幅、裄(ゆき)などを除いて、標準寸法でだいたいよい。〔3〕子供物の長着や羽織などは、肩揚げ、腰揚げをしておき、成長に伴って調節することができる。〔4〕並幅(約36センチ)、広幅(約75センチ)の和服地を直線に裁つので、型紙は使用せず、折り積もりをして裁断する。〔5〕和服は形が一定であるため、裁断のとき、柄(がら)の配置に留意して美しさの効果をあげる。〔6〕縫い方は、袖(そで)の丸み、コートの衿(えり)などを除き、ほとんど直線で、手縫い仕立てにする。しかし襦袢(じゅばん)、裾除(すそよ)け、浴衣(ゆかた)などの簡略な仕立てや、コート、ウールや合成繊維を用いた着物、既製品などの縫製にはミシンを使用することがある。〔7〕和服は洋服のようにデザインの変化がないので、男・女物、大人・子供物、上着・下着と服種が違っても、裁断、縫製の方式はほとんど変わらない。〔8〕和服の裁断は、布幅の余分を裁ち落とさないで、縫い込みとして仕立てるので、縫い目をほどいて並べると、裁断前の長方形の布に戻すことができる。〔9〕仕立て直しによって寸法を変えたり、傷んだ箇所の位置を交換して新しくすることができる。洗い張りをし、また染め直しをすると新品同様となり、大人物を子供物に、着物を羽織、コートに、また半纏(はんてん)、帯、ふとんなどに更生することができて経済的である。
[岡野和子]
〔1〕単(ひとえ)仕立て 裏をつけないで仕立てる方法。木綿の長着は裏に肩当て、居敷当てをつけ、縫い代は耳絎(みみぐ)けで始末する。絹布、麻布などは力布、背伏せ布をつけ、縫い代の始末は折り絎け、褄(つま)は額縁仕立てにする。〔2〕袷(あわせ)仕立て 裏をつけて仕立てる方法。〔3〕綿入れ仕立て 表裏の間に綿を入れて仕立てる。防寒用で、長着、羽織、半纏、丹前(たんぜん)、ねんねこ半纏などに仕立てるが、最近はほとんど行われない。〔4〕口綿入れ 袖口、裾、ふきに真綿を入れて、ふっくらと仕立てたもので、現在はおもに礼装用に用いる。〔5〕無双仕立て 袷の仕立て方の一つで、表地を裏に引き返し共布で仕立てるもの。長襦袢の袷袖裏で共布を用いるものは無双袖という。〔6〕両面仕立て 表裏を毛抜き合わせに仕立てたもので、表裏いずれにも着られる。羽織、コートなどに用いる。〔7〕引き返し仕立て 表地と共布を、裾から裏に引き返して裾回しとして仕立てるもの。留袖などに行う。〔8〕胴抜き仕立て 重ねの下着や、長襦袢の仕立てに行う。外回りの見える部分によい布を用い、胴の部分には別布を使って節約したもの。〔9〕重ね仕立て 礼装用に用いられ、着用したとき上着と下着がそろうように寸法を定めて仕立てる。〔10〕比翼仕立て 人形仕立てともいう。留袖などに用いる方法。衿、袖口、振り、裾回りなどに下着の布を重ねて縫い付け、二枚重ねのようにみせる仕立て方で、本比翼と付け比翼とがある。〔11〕総落とし仕立て 薄物の紗(しゃ)の単羽織などに用いる上仕立て方法。縫い代を8ミリ幅にして裁ち落とし、裁ち目を折って始末する。〔12〕裏打ち仕立て 絞り染め地などは裏に薄手の糊気(のりけ)のない輸出羽二重(はぶたえ)を張り、1枚の布として仕立てる。〔13〕鏡仕立て 額仕立て、額縁仕立てともいう。掛けぶとんなどに多く用いられる仕立て方で、裏布を四方に幅広くふきとして出して仕立てる。名古屋帯の手の裏をこの鏡仕立てにして、垂れの幅と同寸にしたものをお染仕立てという。〔14〕毛抜き仕立て おもに敷きぶとんに用いられる仕立て方で、表裏を突き合わせに仕立てる。〔15〕男仕立て 男の着物の仕立て方。または男の裁縫師によって仕立てられた着物のことをいう。
[岡野和子]
〔1〕小(こ)裁ち 一つ身裁ちともいう。新生児から3歳ぐらいまでの着物の裁ち方。1反の3分の1を用いて裁つ。並幅の一幅で左右の身頃(みごろ)とし、背縫いがない。〔2〕三つ身裁ち 3歳用で4.5メートル~半反で裁つ。袖丈を四つとり、その幅から衿をとる。身丈は3倍をとる。両面裁ちと片面裁ち(追裁ち)がある。背縫いがあり、後ろ幅・前幅・衽(おくみ)幅のバランスがよいが、身幅を広くとれないので着用期間が短く、現在ではあまり用いられなくなった。〔3〕中(ちゅう)裁ち 四つ身裁ちともいう。3~12歳ぐらいの子供用の着物の裁ち方で、2分の1反または3分の2反を用いる。袖丈と身丈を四つずつとり、並幅から衿を切り落として、残りを後ろ身頃とする。前身頃と衽は一幅続きでとる。〔4〕大(おお)裁ち 本裁ちともいう。大人物の裁ち方である。長着は一反(約11.4メートル)を用いる。袖丈と身丈を四つずつとり、衽丈は二つとる。衽は半幅とし、衽をとった残りの半幅で衿と共衿をとる。
[岡野和子]
品質と用い方の適否は仕立て上がりの着物のできばえと裁縫の能率に影響するので、吟味して選ぶことがたいせつである。〔1〕縫い針、絎(く)け針、待ち針。〔2〕縫い糸。〔3〕糸切り鋏(ばさみ)、裁ち鋏。〔4〕物差し、巻尺。〔5〕へら、チャコ、ルーレット。〔6〕へら台。〔7〕指貫(ゆびぬき)。〔8〕こて、アイロン。〔9〕霧吹き。〔10〕こて台、当て布。〔11〕巻き棒。〔12〕絎け台。〔13〕安全かけ針。〔14〕袖の丸み型。〔15〕目打ち。〔16〕文鎮。〔17〕裁縫台(裁ち板)。〔18〕衣紋(えもん)掛け。
[岡野和子]
和服の形状は、流行による部分的なわずかな変化以外は一定しているので、ほとんど標準寸法によってまにあうが、体形にあわせる必要のある箇所については採寸し、体形にあう寸法を割り出す。
(1)採寸箇所と測り方 〔1〕身長。〔2〕着丈 首の付け根を通り、前後の体に沿って足のくるぶしまで測って、その2分の1の寸法とする。〔3〕裄(ゆき) 手を水平にあげ、背の中心から手首の隠れるまでを測る。〔4〕腰回り いちばん太いところを測る。例外として腹回りのほうが大きい場合は腹囲を測り、これにかえる。
(2)寸法の割り出し方/大裁ち女物が、長着の場合 〔1〕身丈 着丈におはしょり分を加える。身長と同寸にしてもよい。外出着やおはしょりを多くしたいときは、やや身丈を長めにする。〔2〕裄 怒り肩か、なで肩かによって測った寸法を増減する。〔3〕肩幅、袖幅 普通は裄を分けるとき、袖幅のほうを2センチくらい多めにして決める。〔4〕袖丈 年齢、用途、身長、好みによって決める。30歳くらいの外出着の袖丈を身長の3分の1くらいとし、増減する。大振袖は着丈より23センチくらい、中振袖は38センチくらい減ずる。〔5〕後ろ幅、前幅、衽(おくみ)幅 腰回り寸法が90センチ前後の場合は標準寸法でよい。腰回りからの割り出し方は、腰回りを1.45倍したものを二分して半身の身幅とする。半身の身幅から衽幅を15センチとして減ずると、前幅と後ろ幅分になるので、前後幅の差を5センチとして前幅、後ろ幅に分ければよい。〔6〕抱き幅 普通は衽下がりの間の曲がりを1センチと定め、前幅と結んで衽付け縫い目を決めてよいが、胸の大きい場合は胸幅を測り、その2分の1を抱き幅にするとよい。〔7〕袖付け 年齢、帯を締める位置、帯幅、体格(肩の厚みなど)により増減する。〔8〕衽下がり 標準寸法でよいが、背が低いときは1~2センチ減じ、胸の大きなときは衽下がりを上げることにより幅を広めにすることもある。〔9〕衿下 身長の2分の1を目安とするが、腰紐(こしひも)を締めたとき、衿先より8センチくらい上にかかるとよい。〔10〕共衿丈 剣先(けんさき)より8~10センチ下までくるように決める。〔11〕繰り越し 衿肩あきを切った位置が肩山より後ろにくる寸法をいい、普通は2センチとする。衿肩あきのところから衿付け込み代を1~2センチと決めて衿付けをするが、首から衿の離れ加減は年齢、体形、用途、好みによる。
以上により長着の仕立て上げ寸法を決めるが、長襦袢、羽織、コートなどの寸法は、この長着寸法を基準として増減し、重ね着をしたとき、上下の寸法がきちんとあうようにする。
[岡野和子]
用布、付属品をそろえ、布地の品質を確認する。また、傷、しみ、汚れ、染めむらなどの有無を調べ、裁断のときに注意すべき箇所に糸印をつける。
[岡野和子]
反物を裁断する前に布目を正しくし耳のつれを伸ばしたり、伸びているところを縮めたりする。また全体の布幅をそろえたり、幅出しをすることや地詰めをすることを地直しという。地直しを行うと縫いやすくなり、仕上がりが美しく、着用後も着くずれしなくなる。
地質による地直しの方法 〔1〕綿布 浴衣(ゆかた)地で地詰めをしなくてよいものは、布目のゆがみを手で引っ張って正しくする。防縮加工をしてない綿布は縮みやすいので、霧を吹いて地を詰め、布目のゆがみや耳のつれを直す。紺絣(こんがすり)のようにとくに多く縮むものは、水に浸して地詰めをする。耳だけが伸びすぎているものは、巻き棒に軽く巻いて耳だけに霧を吹いて縮める。綿縮(めんちぢみ)は霧を吹いて陰干しをする。絞りは霧を吹いて手で必要な幅に伸ばしながら、しぼをつぶさないように軽く巻き棒に巻いて、1時間ほど置き、広げて陰干しにする。一度で必要な幅に伸びないときは、これを繰り返す。〔2〕麻布 霧を吹いて布目を正し、巻き棒に巻いてねかしたのちに干す。アイロンは使わない。〔3〕絹布 霧を吹くと水じみができることがあるので避ける。白絹はとくに糊気が強いので注意する。裏からアイロンをかけて布の曲がりや耳のつれを直し、巻き棒に巻く。紬(つむぎ)、銘仙(めいせん)、結城(ゆうき)、お召、大島などは湯通しをする。縮緬(ちりめん)は布裏からしぼが伸びないように軽くアイロンをかける。塩瀬(しおぜ)羽二重のように緯(よこ)糸の太いものはアイロンを緯糸に沿ってかける。絞り染めは湯のしをする。絞りは、しぼが伸びて着くずれしやすいので、裏打ちをしてから仕立てる。鹿の子(かのこ)絞り、匹田(ひった)絞りなどが全体にあるものは、白輸出羽二重のような糊気のない薄地を当てて、白または表地と同色の羽二重糸で、斜めに3~4センチ間隔で綴(と)じる。飛び模様の場合は柄よりやや大きめの布を当て、へこみに小針を出して綴じる。〔4〕ウール、ウールの交織 湿気にあうと縮むので、霧を吹いて地詰めをする。〔5〕化合繊類 裏から、または当て布をして低温でアイロンをかける。とくにアセテート、ナイロンは熱に弱いので注意する。ビニロンは湿気を与えないこと。
[岡野和子]
反物の総尺を測り、裁ち切り寸法をもとにして折り積もりをする。大裁ち単女物長着の場合は、裁ち切り袖丈と裁ち切り身丈を、それぞれ4倍と、裁ち切り衽丈の2倍をとって折り積もる。裁ち切り袖丈は仕立て上がり袖丈に袖下縫い代3センチを加えたもの。裁ち切り身丈は、着丈におはしょり分20~25センチと裾絎け代2センチを加えたものとする。裁ち切り衽丈は、裁ち切り身丈より裁ち切り衽下がりを引いたもので、裁ち切り衽下がりは、上り衽下がりから衽先縫い代3センチを引いたものとする。残り布があるときは肩当て、居敷当てなどにする。織り傷、染めむらなどのある場合は、着用したとき下前身頃の隠れる位置、帯の下、おはしょりの内側、共衿の下、内袖などにくるように布の配置を変える。また柄物の場合は柄合わせを考える。
[岡野和子]
柄、色の配置が着物姿を左右する。柄合わせは婦人物を仕立てるのにとくにたいせつな工程である。絵羽模様、付け下げ模様のものは、染める際に柄の位置を定めてあるので、裁断はそれに従う。
柄の種類と柄の合わせ方 〔1〕横縞(よこじま) 間隔の狭いものは、身頃、袖の横段をそろえる。または縞を交互にする。縞の広いものは半段違いにする。〔2〕斜め縞、斜め柄 斜めの向きを同じ流れにしてそろえるか交互にする。縞の幅が広いときは半段違いにする。両面物の場合は背と袖で斜めの流れを反対に変える。〔3〕市松、矢絣(やがすり)、格子 各縫い目のところで柄を交互に合わせる。大きい柄のときは半段ずらす。〔4〕縦縞 背、脇(わき)、衽、衿の縫い目にくる縞の幅を柄にそろえるか、近い幅にする。このために縫い代、仕立て上がり寸法をやや加減することもある。〔5〕片寄せ柄、片ぼかし柄 追い裁ちにして柄を交互にする。対象的に合わせる場合は、左右身頃の背中心を濃色にし、袖付け側の袖と身頃を濃くする。または濃淡をその反対とすることもある。〔6〕立涌(たてわく) 縫い目で柄がくずれないようにする。〔7〕大柄物 柄を互い違いにする。〔8〕一方向(いっぽうむ)きの柄 後ろ身頃を上向きにし、前身頃と袖、衽、衿は逆になる。交互にするときは身頃と上前衽を立たせる。
[岡野和子]
折り積もりができたら、寸法と必要枚数の有無を確かめてから布目を通して裁ち切る。袖山、肩山を左側に置き、右端を裁つとよい。裁ち方には、同じ側の耳から衿肩あきを切る基本裁ち、両方の耳から衿肩あきをあけ、袖、衽、衿、共衿が一方向きになるように配置する追い裁ちがある。また早裁ちともいい、反物の両端をあわせて2枚いっしょに折り積もる二枚裁ちの方法がある。
[岡野和子]
印付けは縫う位置を示すためにするが、正しい寸法がはっきりわかるように付けることがたいせつである。布地は中表に重ねて待ち針を打ち、へら台の上に正しく置く。印付けの途中で布を動かさないように注意する。印の付け方は散らしべらとし、その長さは1~2センチとする。印の間隔は、直線縫いのところは10~20センチ、斜線縫いのところは間隔を小さくする。丸みや裁ち切るところは通しべらとする。印は、丈、袖が交わるところは+にするが、袖口、袖付け、身八つ口、衽下がりなどは、印が表に出ないように⊥または⊥印にする。
印付けの種類 〔1〕角(つの)べら印 木綿、麻、薄地絹、化繊などに用いる。物差しの先にへらが直角になるように当てて印を付ける。〔2〕こてべら印 絹、薄地ウールなどに適する。こての平らな面を物差しに当てて、布に押し付けるようにして印をする。〔3〕ルーレット印 木綿、化繊に、歯車を回して点線の穴印を付ける。〔4〕縫い印 印の見えにくい布、消えやすい布に木綿のしつけ糸で2~3針縫っておく。玉留めはしない。〔5〕チャコ印 へらの付きにくいウール、化繊などにする。〔6〕切りじつけ こてべらまたはチャコ印をしたあと、下の布に印を移すためにする。木綿しつけ糸2本でしつけをし、大針のところを切って、重ねた布を1枚ずつ開いて糸を切る。そのあと糸が抜けないようにたたいておく。〔7〕玉留め印 印の付きにくい布にする。木綿しつけ糸2本どりにし、丈、幅印の交わる点に針を刺し、上の布から順に開いて、間の糸を切り、玉結びをして、他方は糸をすこし残して切る。
[岡野和子]
〔1〕布に適した糸、針を用いる。〔2〕基礎縫いを応用して縫う。〔3〕待ち針打ち。地質の異なる布をあわせる場合は固い布(厚地)を下に、柔らかい布(薄地)を上にする。布のつり合いを正しくとり、針を印に対して直角に小さくすくって打つ。打ち順は、縫い始めと終わりの印のところを先に打ち、その中間、さらにその間と打つ。〔4〕縫うときは針目をそろえてまっすぐに、流れ針にならないようにし、縫ったあとは十分に糸こきをする。〔5〕縫い目には「きせ」をかけるが、きせは浅すぎると縫い目が現れ、深すぎると広がりやすい。衿先、袷の裾などは「きせ」を深めにして整える。木綿、麻などは指先で「きせ」をかけるが、絹、ウール、化繊などはこてを用いてかける。一部分が縫い上がるたびに「きせ」をかけ縫い目を整えるようにすると全体の仕上がりがよい。〔6〕袖口、身八つ口、袖付け、衿付けの止まりなどは、ほころびが切れやすいので留めをしっかりする。
縫い方の順序/女物単長着の場合 〔1〕袖をつくる。袖下、丸み、袖口下と縫う。丸みの形を整え、袖口を絎ける。〔2〕後ろ身頃の背縫いをし、衿肩あきを右にして手前に折る(表からみて左身頃のほうが上になる)。〔3〕肩当て、居敷当てをつける。居敷当ては上端が裾から75~80センチの位置につける。薄地木綿、絹、麻などの上仕立ての場合は、小さめの肩当てか、衿付け回りに力布をつけ、居敷当てのかわりに背伏せ布をつける。〔4〕脇縫いおよび始末。前・後ろ身頃の脇をあわせて縫い、前身頃のほうに折り、後ろ脇縫い代を折り開き、折り山を一目落としで綴じる。次に身八つ口、袖付けの縫い代も折り、前身頃、後ろ身頃にかけて耳絎(ぐ)け(上仕立ては折り絎け)で始末する。このとき袖付けのところは身頃を袖付け止まりで0.1センチ、肩山で0.5センチの縫い代になるように折り出す。〔5〕衿下絎け、衽付けおよび始末。衿下を三つ折り絎けにし、前身頃とあわせて衽付けをする。縫い代を衽のほうに折り、端を耳絎け(折り絎け)にする。〔6〕裾絎け。褄先(つまさき)を斜めに折り、裾を三つ折り絎けにする。厚地や上仕立ては褄を額縁仕立てにする。〔7〕衿付けおよび始末。背から衿肩あき、衽下がり、かぎ間(衽衿付け)の順で衿付けの待ち針を打ち、下前衿先から上前へと縫い回す。衿のほうに折り、前身頃と衽の縫い込みを伸ばす。衿肩のあいているところに三つ衿芯(しん)を入れ、縫い込みを包んで衿幅を折り、まず衿先の始末をし、次に裏衿を絎ける。〔8〕共衿掛け。本衿の上に共衿をのせて共衿先の位置を定め、共衿先を本衿に縫い付けてから、表、裏と絎け付ける。〔9〕袖付けおよび始末。身頃と袖を中表にあわせ、身頃を折り付けにする。袖のほうに折り、振りを耳絎け(折り絎け)にする。袖の縫い代の多い場合は、袖付けのほうも絎けて始末する。〔10〕肩当て布の幅が広いときは、端を折って袖付け縫い目に沿って絎け付ける。
[岡野和子]
着物を縫い上げたら、糸屑(いとくず)や不必要なしつけ糸を除き、地質に応じた仕上げをし、背、脇、衽付け、袖山、肩山に折り目をつける。〔1〕木綿、麻は霧を吹いて正しく畳み、紙の間に挟んで押し仕上げをする。〔2〕絹布、化合繊類、交織物は当て布をしてアイロンをかける。袷仕立ての袖口、裾のふき山はつぶさないように注意する。〔3〕ウールは霧を吹いてアイロンをかけるかスチームアイロンを用いる。
[岡野和子]
〔1〕長着 本畳みにする。袖丈には折り目のつかないようにし、身丈は衿先の下のところから二つ折りにする。留袖、振袖や、子供物の長着、羽織は夜着畳みにする。前身頃と衽を下前、上前と平らに重ね合わせ、袖を身頃の上に折り重ねて、身丈を折る。〔2〕羽織 本畳みにする。身丈は折らないほうがよいが、折る必要のあるときは、折り山に巻紙などを挟んで折り目が強くつかないようにする。〔3〕長襦袢、コート 身幅、袖幅を二つ折りにし、丈を折る。〔4〕帯、胴回りの外側と、お太鼓(たいこ)のところに折り目がつかないように注意する。そのほか、紋のついている部分や、刺しゅう、金銀箔(はく)のあるところには薄い和紙を挟む。
[岡野和子]
自分の着物の寸法を控えた寸法書きを参考にして依頼する。着物は重ね着をするので、長襦袢、長着、羽織、コートなどとあわせるようにする。標準寸法によらない部分、とくに身丈、袖丈、裄、身幅などは体形にあわせることが必要である。また体形の特徴や好みも付け加えるとよい。
[岡野和子]
裁縫に関する行事の一つに針供養がある。江戸時代からおこったもので、関東では2月8日、関西では12月8日に行われる。娘たちや仕立て職人などが針仕事を休んで、折れ針を豆腐やこんにゃくに刺して供養し、裁縫技術の上達を祈願した。埼玉県川越では、12月8日と2月8日はコトビと称して針仕事を休み、針供養をし、粟島(あわしま)塚に針坊主を納めた。
[岡野和子]
着物を裁つ日にも禁忌があった。新しい着物を裁つのに巳(み)の日を避ける風習は各地で行われたが、巳の日に裁つと身を切るといわれた。ただし、「津の国のあきらえびすの衣なれば良きも悪(あ)しきもきらわざりけり」と唱えて裁てばよいとされた。また着用する人の誕生日とか、午(うま)年の人は午の日に裁つなともいわれた。酉(とり)の日に着物を裁つと、鳥の羽重ねのように美しく仕立て上がるともいわれた。
[岡野和子]
裁縫に関する俗信は非常に多くあり、「引っ張り縫い」とか、「糸の尻(しり)を結ばないで縫う」などは、してはいけないことと戒められた。これは、死者の衣服を縫うのに、白布1反を刃物を使わず手で裂き、2人以上の近親者が玉留めをしない糸で縫ったことから、忌まれたのである。着物を縫うときは、袖は両袖を夜なら夜のうちに、昼なら昼のうちに縫い上げてしまうものとされた。外の光と灯(ともしび)の光と二つのあかりですることも嫌われた。「出針(でばり)」といって家を出る直前に針を使うことを避けるのも、死者の衣服は時を選ばずに仕立てなくてはならないことからきている。
[岡野和子]
和服の裁ち縫い。〈お針〉〈仕立て〉〈裁縫〉ともいう。今日のような繊細な縫い方が行われるようになったのは,小袖が定着した江戸初期ころという。それ以前の裁縫職の女性の針妙(しんみよう)のほか,専門の仕立屋もあったが,一般家庭では家族のための和服をまかなうために和裁ができることを嫁入りの条件として娘たちに習得させた。明治時代からの学校教育でも女子の裁縫科目があり,塾もあった。大正時代に洋裁専門学校ができたため,洋裁と区別して裁縫を和裁というようになった。第2次世界大戦後は洋装の普及で和服の需要が少なくなったことや既製品もつくられるようになり,和裁のできる者は年々減少しつつある。
和裁の特徴はおおまかに裁ちながら部分的には繊細さを要求される手仕事で,基本を繰り返すことによって熟達するところにある。仕立て方は単(ひとえ)と袷(あわせ)仕立てに分かれ,習得の過程は肌襦袢(じゆばん),ゆかたなどの木綿物の単仕立てからはじまって絹の長襦袢,着物の単,袷と進み,コートなどに及ぶ。絹物でも紬類の織着尺を先にし,柔らかでたれる染着尺の綸子(りんず),縮緬(ちりめん)類は後にする。透ける夏物の上物は上仕立てとし,地風(じふう)にあった縫い方は数多く手がけることによって習得する。紋付や留袖,訪問着などの絵羽模様の着物は四丈物(共裾)といい,紋合せ,模様合せの高度な技術を必要とする。
素材は少数の木綿,交織,化繊があるが,ほとんどが絹なので手縫いが適している。仕立て直しのためにも手縫いがよく,袷仕立ての裏と表の生地によるつりあいもある。その縫い方は必要に応じて各種あり,くけや止め,しつけとともにきせをかけて縫い目を見せず,美しく丈夫な仕上りを心がける。基本は並縫い(ぐし縫い)で,運針(うんしん)として指貫(ゆびぬき)を用い最初に練習する。袋縫い,返し縫いなどの部分による縫い方,返し止め,すくい止め,袖口や袖付けなどの止め,本ぐけ,耳ぐけ,三つ折りぐけなどのくけ,結びつぎ,重ねつぎなどの糸のつぎ方,二目落し,三目落しなどのしつけなど技法は数多い。これらの練習や,袖の丸み,袖口下,褄先(つまさき),衿付けなどの要点をじょうずに仕上げるために,初歩の段階では小布で部分縫いして練習することが必要である。
(1)用布 おとな物着物1枚分を着尺地または反物(たんもの)と呼び,1反は並幅(約36~40cm)で,11.5~12.5mの長さで,染めと織がある。羽織やコート,長襦袢は並幅で8~10mのものを使用する。帯はかがるだけで締められる袋名古屋(八寸名古屋),芯をいれて仕上げる九寸名古屋や袋帯がある。おとなの本裁(ほんだち)に対し,子ども物には1歳用一つ身,2~3歳用三つ身(小裁),4~8歳用四つ身,9~12歳用の五つ身と裁ち方で呼ばれる用布がある。(2)寸法 子ども,男,女と一定の規準があり,これを標準寸法という。第2次大戦後の体格の向上から,現在は新しい標準寸法ができている。標準体型はこの寸法を用いるが,身幅などは着装により加減ができるので余裕があり,体重の多少の増減にも応じられるようになっている。メートル法よりも尺寸(鯨尺)が適しているのは,人間の感覚でとらえられる1分5厘(約6mm)が仕立てのうえでの要点であると同時に,二尺差し(約76cm)が身丈,袖丈などの寸法に使いよいからである。着物の寸法を規準とし下の長襦袢,上の羽織などが割り出されるのは,袖幅,肩幅,袖振(そでふり)を着装時にぴたりとあわせるためである。
(1)地直し(じのし) 生地のゆがみや耳のつれを直すためアイロンをかける。紬類は湯通し,湯伸(ゆのし)としてすんでいるものもある。(2)積り方と柄合せ 反物によって長短があるので総丈をはかり,見積りをする。柄合せは仕上りの柄の配置を考えて裁ち方をくふうする。(3)裁ち,(4)へらつけ,(5)縫い,(6)仕上げの順序で完成する。
必要な道具としては,裁台(またはへら台),ものさし,裁ちばさみ,糸切りばさみ,指貫,待針,縫針とくけ針(絹と木綿),糸(絹と木綿の縫糸としつけ糸),くけ台とかけ針器,こてがある。
→裁縫
執筆者:山下 悦子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…材料の選択から裁ち縫い,着装,整理,保存の技能までを含む。日本では洋裁,和裁に分かれ,いずれも家庭裁縫(英語ではhome sewing)と家庭外の裁縫とがある。しかし既製服に依存している今日では,衣類のほとんどは工場で生産され,家庭裁縫は非常に少なくなっている。…
※「和裁」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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