販売することを目的とする生産、すなわち商品生産をする農業をいうが、狭義には、とくに商品性の高い農産物を生産する農業だけをさす場合もある。これに対して、家族や共同体、あるいは近代以前の支配階級の直接的消費のための農業生産を自給的農業という。
商業的農業は、農業生産手段の私的所有の下での(農業と工業、および農業内部の)社会的分業の発展を伴い、封建社会のなかからそれを崩壊させる基本的な要因として形成され、資本主義社会の下でもっとも広範に展開する。その基本的矛盾は農業恐慌(農産物過剰問題)となって現れる。社会主義社会では成立の条件を失い、消滅する。
商業的農業の形態としては、生産の担い手の性格から、農民的形態、地主的形態、資本家的形態の三つに区分することができるが、もっとも普遍的なのは農民的形態である。その発展は農民の自立化にとって不可欠の条件であるが、同時に農民層の分解を必然化する。また、商業的農業は、多くの場合、農民の協同組合や農産物流通・加工資本によって組織化されながら、個別農業経営および地域農業の専門化(主産地形成)をもたらす。それは、封建的農法を近代的農法に転換させ、農業生産における分業と協業、機械化、科学の意識的適用を促進するが、他方、商品性・収益性の高い農業部門や商品化された農業技術を一面的に発達させ、全体的・長期的にみた農業生産力の発展にひずみを生じさせる傾向がある。
[鈴木敏正]
『『ロシアにおける資本主義の発展』(マルクス=レーニン主義研究所編、レーニン全集刊行委員会訳『レーニン全集 第3巻』所収・1954・大月書店)』▽『川村琢・湯沢誠・美土路達雄編『農産物市場論大系』全3巻(1977・農山漁村文化協会)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…このため農業は,それらを生産し販売するための商品生産農業として急速に発達するようになり,また従来,農民が自給自足していた多くの物資(各種の生活必需品や農業生産資材)も工業から供給されるようになったため,それを購入するための貨幣を得るために,農民はますます商品生産を拡充せざるをえなくなった。これに伴って農業技術も発達し,農業生産力も高まり,また専門の商品生産農業経営(商業的農業)も,各地に多様な形で形成されてきた。農業のこうした発展は,農民層の分化・分解(農民層分解)を促進することになる。…
※「商業的農業」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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