神話・伝承に出てくる白兎。因幡国に渡ろうと考えた隠岐(おき)島の兎は、鮫(さめ)をだますことを思い付き、同族の多さを比べようと鮫に呼びかけて、鮫を因幡国の気多崎(けたのさき)まで並ばせた。その上を踏み数えながら渡った白兎は、まさに計画が成功しようとしたとき、「お前たちはだまされたのだ」といったばかりに、最後の鮫に捕らえられて皮をはがれてしまう。このとき兄たちの求婚旅行の袋担ぎとして同行していた大汝神(おおなむちのかみ)(大国主命(おおくにぬしのみこと))が兎に会い、兄たちとは反対に、親切に兎に治療法を教えてやった。それで兎は「あなたこそ求婚に成功なさるでしょう」と予言した。
この『古事記』にみえる兎と鮫の話は、狡猾(こうかつ)な動物が魯鈍(ろどん)な動物をだます動物譚(たん)として、ジャワ島やインドネシアに存在している説話などとも関係がある。しかし『古事記』では狡猾な兎が失敗する話につくりかえられており、助けられた兎が、いちばん卑しい大汝神の成功を予言する兎神としての役割を演じている点に注意する必要がある。
[吉井 巖]
《古事記》にみえる日本神話中の動物。隠岐島の白兎が因幡の気多(けた)岬(現,鳥取市白兎(はくと)海岸)へ,海のワニ(鮫(さめ))をあざむいて並ばせ,それを橋にして渡ろうとして失敗し毛皮をはがれる。通りかかった八十神(やそがみ)にさらに痛めつけられて泣いていると,オオナムチノカミ(のちの大国主神)に治療法を教えられ救われる。そこで兎は八十神ではなくオオナムチが因幡の八上比売(やかみひめ)と結婚すると予言し,的中する。この兎は〈兎神(うさぎかみ)〉として信仰を得たという。
執筆者:西宮 一民
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…治療の目的で皮膚あるいは粘膜,その他の組織を切開して,なんらかの操作を加えることを手術という。日本でいう外科にあたる欧米語は,ラテン語のcheirurgia(〈手のわざ〉の意)に由来するので,外科の代表的なものが,手を血でよごして治療する手術であるということになる。かつて手術は,主として体表面の病巣に対して行われたため,外を治療する,すなわち外治という意味での外科を代表して内科medicineに対してきた。…
…日本の神話は,宮廷貴族によって編纂された《古事記》《日本書紀》,地方の素朴な伝承を断片的に記す《風土記》《万葉集》,氏族伝承を記す《古語拾遺》,宮廷祭祀(さいし)に関する〈祝詞(のりと)〉等の資料によってそのあらましを知ることができる。ここでは比較的まとまりがあり,また古い伝承を残すと思われる《古事記》上・中巻に即してその概略を述べる。なお,神名は本事典では原則として《日本書紀》に即して立項しているので,表記に異同のあるものは括弧内にそれを示した。…
※「因幡の白兎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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