外国からの武力攻撃などに備え、国民の生命や財産を守るため国や自治体の責務、避難や救援の手続きを定めた法律。2004年9月に施行された。他国による武力攻撃の可能性がある「武力攻撃予測事態」や弾道ミサイル着弾などを想定し、国や自治体が同法に基づく訓練を随時実施している。台湾有事の際は沖縄県・先島諸島5市町村から住民や観光客ら約12万人を、九州の各県と山口県に避難させる計画で、政府は「6日間程度で避難できる」としている。
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正式名称は「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」。平成16年法律第112号。いわゆる有事法制の「個別法」の一つとして、他の関連7法と同時に、2004年(平成16)6月14日に成立し、6月18日に公布された。この法律は全体で11章、195条および附則14条からなる膨大なものである。
法律の目的は大きく分けて二つあり、一つは武力攻撃予測事態および武力攻撃事態(いわゆる有事)の際に、国民の保護のための措置をとるものであり、もう一つは緊急対処事態(テロなど)に対処するための措置をとるものである。
法律の形式としては武力攻撃災害という概念を創出して、災害対策基本法の枠組みを援用しているが、災害対策基本法が災害の特性から地方自治体の自主性に着目してボトムアップの法体系となっているのに対し、武力攻撃災害(戦災)の特性から国家から地方自治体に向けてトップダウンの中央集権的な法体系となっているのが特徴である。このことは地方分権一括法で地方自治法を改正し、そのなかで国際社会における国家の存立にかかわる事務は国家が分担することとし、それを法定受託事務としたことを受け、軍事は国家の事務であるとされたことにより、この法律に基づく地方自治体の事務は法定受託事務となっていることにあらわれている。また武力攻撃対策本部長(首相)には指示権限が与えられており、さらに内閣総理大臣(対策本部長)には調整機能、代執行権限が付与されており、これらの権限の行使により措置がとられることとなるため国家の指導は担保されており、またそのため地方自治体の裁量の範囲は大枠にはなく、枠内の細部の点にしかない。
戦争に際しては、戦闘で勝利するための軍事行動と、軍事行動を円滑に実施するために非戦闘員(住民)を戦場から排除し、非戦闘員(国民)の被害を最小限に抑える非軍事行動は表裏一体のものであり、自衛隊と米軍の作戦行動のための有事法制と国民保護のための有事法制はワンセットである。この法律はその意味で、戦争に勝利するための非軍事行動にかかわるものということができる。
この法律は具体的には(1)対策本部長による警報の発令とその伝達、(2)住民の避難の措置、(3)住民の避難先での救援の措置(避難所、衣食、医療、生活必需品の供与、安否情報の扱い、遺体の処理など)、(4)武力攻撃災害(戦災)への対処、(5)国民生活安定のための措置(物価統制、金融統制など)、(6)復旧の措置、(7)備蓄、財政上の措置、(8)平時からの訓練の実施などが規定されている。
これらは内閣が決定する国民保護に関する基本指針に基づき、地方自治体がそれぞれの国民保護の計画を立案・整備し、指定公共機関・指定地方公共機関を指定してそれらもそれぞれの業務計画を立案・整備することとされている。
また、もう一つの事態である緊急対処事態(武力攻撃の手段に準ずる手段を用いて多数の人を殺傷する事態で、国家として緊急に対処することが必要な事態であり、具体的には原子力発電所の破壊、生物・化学兵器によるテロ、航空機による自爆テロなど)が発生し、または発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った時には、武力攻撃事態法を準用して対処することとしている。このため、この個別法によって親法である武力攻撃事態法の一部改正が行われている。
[松尾高志]
『内外出版編、西修監修『詳解有事法制――国民保護法を中心に』(2004・内外出版)』▽『礒崎陽輔著『国民保護法の読み方』(2004・時事通信出版局)』▽『国民保護法制研究会編『国民保護法の解説』(2004・ぎょうせい)』▽『森本敏著『早わかり国民保護法』(2005・PHP研究所)』
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