国税犯則取締法が,間接国税に関する犯則事件について定めている特殊な手続。国税局長または税務署長は,調査の結果,犯則嫌疑者について犯則の心証を得たときは,刑事訴訟法の定める手続によらず,行政処分としてその理由を示して,罰金もしくは科料に相当する金額等を納付すべき旨を通告する(14条1項。ただし,一定の場合には,処分庁がただちに告発する)。犯則者が,通告を履行したときは,起訴されない(16条)。犯則者が通告を履行しないときは,処分庁は告発する(17条)。
通告処分については,第1に税収確保のための制裁という機能,第2に特別科刑手続機能,第3に私和(示談)的機能を認める考え方がある。第1の考え方によれば,通告処分が租税罰でありながら,その権限が通常の刑事司法機関でなく,財務行政機関にゆだねられているのは,そうした機能を考慮したものであるとされるが,通告処分に伴う特別な徴収手続が存在しないことからすれば,疑問である。第2の考え方は,間接国税等の逋脱(ほだつ)事件が大量に存在することおよび証拠の収集・評価の特殊性を理由に特別の科刑手続を設け,刑事訴訟の原則に対する例外を認める必要があったとするものだが,これに対しても批判がある。第3の考え方は,通告処分は犯則者が通告にかかる金銭を任意納付すれば処罰を免除するものであり,その結果,犯則者も国家も刑事手続および刑事処罰の苦痛ないし負担から免れ,両者間に一種の和解ないし私和が成立すると解するものだが,租税刑罰観が変化し,金銭納付によって国庫の満足が得られただけでは,脱税行為の可罰性を左右することはできないと考えられるようになったことに照らせば,現在では妥当しない。むしろ通告処分によって金銭納付させることそれ自体が刑罰であると考えるべきである。したがって,通告処分は科刑行為であるが,行政上の制裁の要素をあわせもつため,国税局長または税務署長の権限とされ,簡易な手続とされている。犯則者を正式に犯罪者として取り扱わず,通告処分に有罪宣告効果を与えていないのも,行政制裁的要素に由来する。
最大の論点は,通告処分によって,犯則嫌疑者が裁判所による正式の裁判の機会を奪われることになるのか否かである。通告の旨を履行しない者には告発を経て正式の刑事手続に移行するしくみになっている以上,嫌疑者から裁判を受ける権利(憲法32条,37条1項)を奪うものとはいえないだろう。通告処分に含まれた行政制裁の要素については,行政機関の課する制裁税(付帯税)または過料の制度に,科刑手続の要素については,特殊な刑事手続にそれぞれ分離する改革方向が望ましい。
このほか租税法上の通告処分には,関税法(11章),とん税法(14条),特別とん税法(12条)等に基づくものがある(地方税のうち,ゴルフ場利用税,特別地方消費税(2000年に廃止),軽油引取税および入湯税の犯則事件について通告処分の制度が適用される)。
執筆者:村井 正
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
間接国税、関税など特定の租税に関する犯罪のうち、罰金以下の刑に相当する軽微な犯罪についてなされる略式の科罰的行政処分をさす。1967年(昭和42)から道路交通法違反のうち軽微な行為(反則行為)にも採用された(いわゆる交通切符制)。通告処分は理由を明示して罰金など相当金額、没収該当物件などの納付を通告することによりなされるが、通告を受けた者がこれに従うかどうかは自由である。ただしその際、通告の趣旨を所定期間内に履行したときは訴追されないが、履行しない場合は告発がなされ、刑事訴訟手続において、通告処分の対象となった犯罪事実の有無が審理される。
[阿部泰隆]
…行政刑罰を科する手続は原則として刑事訴訟法によるが,これには特例がある。間接国税・関税の犯則事件で,犯則者が罰金・科料に相当する金額を納付すべき旨の通告を国税局長等から受けてそれを履行すれば,処罰手続が終了するが,20日以内に履行しなければ,告発により刑事手続に移行する(通告処分)。また,交通事件について,簡易裁判所は,被告人に異議のないとき,検察官の請求により,公判前,即決裁判で5万円以下の罰金・科料を科することができ,被告人または検察官は,宣告の日から14日以内に正式裁判を請求できる(交通事件即決裁判手続法。…
※「通告処分」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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