国際海上物品運送法(読み)こくさいかいじょうぶっぴんうんそうほう

改訂新版 世界大百科事典 「国際海上物品運送法」の意味・わかりやすい解説

国際海上物品運送法 (こくさいかいじょうぶっぴんうんそうほう)

国際的な海上物品運送についての法律(1957公布)で,1924年の〈船荷証券に関するある規則統一のための国際条約〉を批准して国内法化するために制定された。19世紀の初頭以来,汽船による海上物品運送が急速に発達すると,運送人は,船荷証券に各種の免責約款を挿入してその責任の減免はかり,ついにはほとんど責任を負わないのと同様な状態となっていた。そこで,かかる免責約款を制限して荷主と運送人の間の利害を調整する目的で,国際法協会が1921年にハーグで開催した会議で,船荷証券に関する国際的な規則(ハーグ・ルール)が採択された。そして,万国海法会により若干の修正がなされた後,24年にブリュッセルで開かれた海事法外交会議で条約として成立した。この条約は,その後,日本を含め世界の海運国のほとんどが批准しており,船荷証券による個品運送についての実質的な統一法となっている。その後,海運の発展にともない,この条約を改正するいくつかの議定書が成立していたが,日本は,結局,1979年の議定書を批准して,本法の改正を行った(1992年)。

 本法は,商法第4編海商中の物品運送に関する部分についての特別法であって,船積港または陸揚港が本邦外にある物品運送,すなわち,いわゆる外航船による物品運送に適用される。(1)海上運送人の責任の内容 運送品自体に対する責任として商法と同趣旨の規定を置いている。すなわち,運送人は,自己又はその使用する者が運送品の受取,船積,積付,運送,保管,荷揚および引渡につき注意を怠ったこと(いわゆる商業上の過失)により生じた運送品の滅失損傷又は延着について損害賠償責任を負い(3条1項),その注意が尽くされたことの挙証責任は運送人の側が負う(4条)。(2)運送人の法定免責 運送人は,船長,海員,水先人その他運送人の使用する者の航行もしくは船舶の取扱いに関する行為(いわゆる航海上の過失)によって生じた運送品の損害と,船舶火災による損害については,当然に,損害賠償の責任を免れる(3条2項)。そのほか,海上に特有の危険,天災,戦争,海賊行為,ストライキ,運送品の隠れた欠陥などの事実から通常生ずべき損害であることを証明したときも,損害賠償の責任を免れる(4条2項1~11号)。(3)運送人の有限責任 運送の委託の際,運送品の種類,価額が通告され,船荷証券に記載されていなければ,運送品に関する運送人の責任は,一包又は一単位につき,666.67SDRか,総重量1kgにつき2SDRを乗じて得た金額のうちいずれか多い金額に制限される(13条1項)。しかし,損害が,運送人の故意により,または,損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為により生じたものであるときは,一切の損害を賠償せねばならない(13条の2)。(4)免責約款の禁止 運送人の運送品に関する損害賠償についての諸規定(3~5条),そして,運送人の義務および責任に関する諸規定(8,9,12~14条)に反する特約で,荷送人,荷受人又は船荷証券所持人に不利益なものは,無効とされている。また,運送品の保険契約により生ずる権利を,運送人に譲渡する契約その他これに類似する契約も無効である(15条1項)。このうちとくに重要なものは,商業上の過失(3条1項)についての免責約款の禁止と,堪航能力に関する注意義務(5条)についての免責約款の禁止である。なお,例外として免責約款の許容される場合がある。それは,運送品の船積前又は荷揚後の事実により生じた損害(15条3項),傭船契約の当事者間(16条),特殊の運送(17条),生動物,甲板積の運送(18条)の場合などである。なお,運送人の運送品に関する損害賠償責任を免除・軽減する規定は,不法行為責任にも準用され,その限度で,使用人の不法行為責任も免除・軽減される(20条の2)。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「国際海上物品運送法」の意味・わかりやすい解説

国際海上物品運送法
こくさいかいじょうぶっぴんうんそうほう

1924年の船荷証券統一条約(ヘーグ・ルール)を批准し、これを国内法化するために、1957年(昭和32)に制定された法律。昭和32年法律第172号。船舶による物品運送で、船積港または陸揚港が本邦外にある、いわゆる国際海上物品運送に対して適用される。海上物品運送人の免責約款を制限して、その責任を強行法的に確立する。それとともに、海上企業を保護奨励するために、運送人の使用する者(船長、海員等)の航海上の過失や船舶における火災につき、運送人の責任を特約によることなく当然に免除する。運送人と荷主の利益の調整が図られている。本法の適用がある海上物品運送契約については、本法でとくに適用を認めている場合を除き、商法の適用はない。その後、海運界の状況の変化と社会経済の実態に即し、ヘーグ・ルールは、1968年の改正議定書(ウィスビー・ルール)および1979年の改正議定書(SDR議定書)により改正された(ヘーグ・ウィスビー・ルール)。1992年(平成4)に日本はこれを批准するとともに、国際海上物品運送法を改正した。その改正のおもな内容は、船荷証券の記載の効力の強化(証券責任の明確化)、損害賠償額の定型化、運送人の責任限度額の引き上げ、コンテナ運送の場合における責任限度額の算定方法の明確化、運送人等の不法行為責任の減免等である。2018年(平成30)の商法改正により、海上物品運送に関する規定について、国際海上物品運送法を参考にした見直しが行われた。それに伴って、国際海上物品運送法の重複する諸規定(船荷証券に関する規定等)が削除された(実質的な改正事項は、運送人の責任限度額の見直し等にとどまる)。

[戸田修三・平泉貴士 2020年9月17日]

『戸田修三・中村眞澄編『注解 国際海上物品運送法』(1997・青林書院)』『菊池洋一著『改正国際海上物品運送法』(1992・商事法務)』『松井信憲・大野晃宏編著『一問一答 平成30年商法改正』(2018・商事法務)』『箱井崇史著『基本講義 現代海商法』第3版(2018・成文堂)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「国際海上物品運送法」の意味・わかりやすい解説

国際海上物品運送法
こくさいかいじょうぶっぴんうんそうほう

昭和 32年法律 172号。「船荷証券に関するある規則の統一のための国際条約」 (1924) を批准し,これを国内法化したもの。船積み港,陸揚げ港のいずれかが本邦外である,いわゆる外航船による海上物品運送について適用される。

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世界大百科事典(旧版)内の国際海上物品運送法の言及

【海商法】より

…また,船舶の航行に伴って生ずるあらゆる法律関係に関連のある公法,私法,国際法などの法規の全体を〈海法maritime law〉と呼ぶこともある。これらの法規には船舶法,船舶職員法,船舶安全法,海上衝突予防法,港則法,水先法,海難審判法,船員法,商法,国際海上物品運送法,〈船舶の所有者等の責任の制限に関する法律〉(船主責任制限法,船主有限責任法と略称),油濁損害賠償保障法,〈海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律〉(海洋汚染防止法と略称),〈海洋法に関する国際連合条約〉(国連海洋法条約と略称)などのほか,数多くのものがある。しかし,これらの法のすべてを統一する学問的な理念を欠くので,理論的に独立した〈海法〉という法領域は存在しないという考え方が一般的である。…

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