二つ以上の物質を混合して得られる冷却剤。起寒剤ともいう。たとえば、室温の水に塩化アンモニウムを溶かしたものや、氷と塩化ナトリウムとの混合物、ドライアイスとアルコールの混合物などがそうである。寒剤が低温となる理由は、たとえば氷と塩化ナトリウムの混合物では、氷の融解熱と塩化ナトリウムの溶解熱がともに吸熱であることによるもので、共融点(NaCl22.4%+氷77.6%で-21.2℃)まで降下すれば融解はとまって一定の温度が保たれる。したがって理想的な場合には最低温度が共融点になるが、実際にはそこまで達しないことが多い。とくに、たとえば氷を使用するときは、その粉砕が十分でなかったり、塩との混合が十分でなかったりすると、完全な温度が得られない。
また低沸点の液体をそのまま冷却剤に使い、これらを寒剤に含めることもある。たとえば液体空気(-145.8℃)、液体酸素(-182.96℃)、液体窒素(-195.8℃)、液体水素(-252.8℃)、液体ヘリウム(約-269℃)などがそうである。ただし、これらのうち液体空気と液体酸素は可燃性物質、とくに有機物質などを直接接触させると爆発するので注意する必要がある。
[中原勝儼]
『小林俊一・大塚洋一著『低温技術』第2版(1987・東京大学出版会)』▽『守屋潤一郎著『極限科学のなかの極低温技術』(1992・東京電機大学出版局)』▽『板倉聖宣著『ものを冷やす』(2003・仮説社)』
2種またはそれ以上の物質を混合して低温を得る材料。氷と塩類の混合物は,氷の融解熱とその溶けた水への塩の溶解熱がいずれも吸熱のため混合物の温度が低下するのを利用する。温度低下は混合物の共融点で止まって一定値になる。実験室で利用する氷と塩類の組合せを到達最低温度とともに表1に示す。しかし,氷と塩類の混合物を共融点に到達させることは技術的に容易ではない。ドライアイスと有機溶媒を混ぜて有機溶媒の融点近くの泥状物質を利用する場合も多い。この場合は,ドライアイスの蒸発熱による有機溶媒の温度降下を利用する。各種有機溶媒とドライアイスの混合物の到達温度を表2に示す。さらに低温を得る寒剤として,液体窒素を有機溶媒に入れてかくはんし,泥状にして用いる組合せを表3に示す。混合溶媒(たとえばn-ペンタン64.5%,メチルシクロヘキサン24.4%,n-プロパノール11.1%)を液体窒素とともに用いると-180℃以下の寒剤ができる。この場合も液体窒素の蒸発熱を利用したものである。なお,液体酸素や液体空気と有機溶媒を混合することは,きわめて危険であるから,絶対に行ってはいけない。
執筆者:井口 洋夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
低温度を得る目的に用いられる混合物.塩と氷の混合物はその代表的な例.食塩と氷の混合物(1:3)で氷の一部はただちに溶けて食塩の飽和溶液となり,系は2成分3相となる.圧力を大気圧に固定すれば,相律により自由度は0(不変系)となり,これら3相が平衡に共存する温度は定点となる(共融点).したがって,氷は溶けて融解熱を吸収し,また食塩は水に溶けて溶解熱を吸収し,しだいに定点に向かって温度は低下する.その結果-20 ℃ 付近まで降下するが,冷却の途中で固相の一方が消失すればこの温度には達しえない.その他の寒剤としてはメタノール-ドライアイス(約-70 ℃)がよく用いられる.この場合は,固体二酸化炭素の101 kPa での昇華点が-78.5 ℃ であることを利用したものである.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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