改訂新版 世界大百科事典 「塩類土壌」の意味・わかりやすい解説
塩類土壌 (えんるいどじょう)
saline soil
水溶性塩類が植物の生育を阻害するほど多量に集積した土壌で,大陸の乾燥・半乾燥地帯に広く分布する。水溶性塩類としてはカルシウム,マグネシウム,ナトリウムなどの塩化物および硫酸塩がふつうである。どのくらい塩類が集積すれば植物に害があるかは条件により異なるが,アメリカ合衆国農務省では土壌溶液の電気伝導度を基準にして4S/cm以上を塩類土壌としている(Sはジーメンス。1S=1A/V)。ただしアルカリ土壌と異なり,陽イオン交換容量の15%以上を交換性ナトリウムが占めることはなく,pHはアルカリ側にあるがふつう8.5をこえない。乾燥気候下では土壌中の塩類は洗い流されないだけでなく,蒸発によって表層に濃縮する傾向がある。とくに地下排水のよくない盆状地形では,集水域から塩類を溶かした雨水が集まり,塩類を残して水は蒸発でほとんど失われるからますます塩類が濃縮する。乾燥地のこのような盆状地をプラヤplayaと呼ぶ。もう一つの塩類集積の原因に人工灌漑がある。乾燥地では灌漑水自体がかなりの塩分を含んでいるうえに,蒸発散によって土層深くにあった塩類を表層に持ち上げるからで,そのため正常な土壌が灌漑によって塩類土壌になることがある。古代メソポタミア文明が滅びた原因は,灌漑農業による塩類化にあるとさえいわれ,現在でも塩類集積は乾燥地農業の抱える大きな問題である。塩類土壌はロシアその他でソロンチャクsolonchakと呼ばれる土壌にほぼ相当し,地表がしばしば白い塩類析出物で覆われるので白色アルカリ土壌とも呼ばれる。塩類土壌の改良は湛水(たんすい)による塩類除去が基本であるが,大量の水が得にくいうえに中止すれば再び塩類化が進行する。作物の根圏だけにパイプから給水する滴下灌漑も広く行われているが,塩類土壌の改良にはまだ多くの困難がある。なお湿潤気候下では塩類は雨水で洗い流されるから,海水の直接的影響をうける局所的地域を除けば塩類過剰の問題は本来存在しない。
執筆者:三土 正則
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報