西洋音楽の記譜法において,音に半音的変化を加える記号。基本音階(ハ長調音階つまりピアノの白鍵に相当)に含まれる音を幹音(かんおん)または本位音といい,これを半音一つまたは二つぶん変化させた音を派生音(変化音,変位音とも)という。変化記号には幹音を半音高くする嬰記号(シャープsharp ♯),半音低くする変記号(フラットflat ♭),半音二つぶん高くする重嬰記号(ダブル・シャープ ),半音二つぶん低くする重変記号(ダブル・フラット ),それに以上のすべての変化記号の効力を消して派生音を幹音に戻す本位記号(ナチュラルnatural ♮)の5種がある。
変化記号の役割には調号と臨時記号の二通りがある。ハ長調やイ短調の自然的短音階を除く各調では,音階固有音(その調の音階を構成する各音)にも派生音が含まれるが,それらはふつう譜表の各段冒頭に調号としてまとめて表示される。調号として用いられるのは嬰記号と変記号,それに転調時の本位記号だけで,重嬰と重変の記号は臨時記号としてしか使われない。臨時記号は音階固有音の半音的変化や一時的転調に際して記されるが,和声的短音階の導音(音階の第7音)のように恒常的な変化音であっても臨時記号として扱われるものもある。当該の音符の左側に記され,調号と違って原則として同じ声部,同じ小節内の同じ音高にのみ有効である。調号や臨時記号によって既に半音変化させられている音をさらに変化させるとき,変化の方向が同じであれば,を,逆方向の場合,たとえばの付いた音を2半音下げて幹音に戻すときは♮を,同じ音を半音だけ下げるときには♯を(の使用例もあるが♮は不要),シャープ系からフラット系に変換させるときにはをそれぞれ使用する。
変化記号の歴史は10世紀ころまでさかのぼるが,当初は今日のような調号や臨時記号の意味はなく,ただロ音と変ロ音の2音を区別するために用いられたにすぎなかった。前者はト音上のヘクサコルド(6音音階)の第3音でミの階名をもち〈四角いb〉または〈固いb〉(記号は)と呼ばれた。後者はヘ音上のヘクサコルドの第4音でファの階名をもち〈丸いb〉または〈柔らかいb〉(記号は)と呼ばれた。やがて〈四角いb〉は♮と♯に,〈丸いb〉は♭に発展する。これらの記号は,しだいに他の音にも適用されていくが,いずれも今日の用法に定着するまでには紆余曲折があった。重嬰・重変記号は,平均律の発展とともに遠隔調への転調が容易となった18世紀に成立したが,今日の形に至るまでにはやはりいくつかの変種があった。20世紀では,十二音技法のようにオクターブ内の12半音すべてに対等の価値が与えられるような場合,〈幹音-派生音〉の概念は消滅して,変化記号が付された音は独立した質を獲得するようになり,変化記号の効力もその音だけに限定されている。また4分音(微分音)などの微分音程や,諸民族の音楽における非西洋的な微妙な音程を五線譜に書き記す必要も生じ,そのための表示法も各種考案されている。
なお,嬰と変の語は元来中国や日本の伝統音楽における音階理論の用語であったものである。
執筆者:土田 英三郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
五線記譜法で幹音に半音的変化を加える記号。♯、♭、()、、♮の5種類あり、臨時記号や調号として用いられる。臨時記号は楽曲の途中で音に臨時の半音的変化を与える記号で、前述の5種類すべてが用いられる。調号は、楽曲の初めにその調の派生音をまとめて記したもので、♯、♭、♮(転調時のみ使用)の3種が使われる。
変化記号は10世紀ごろ、ロ音と変ロ音を区別するために用いられた(四角い♭、固い♭)と♭(丸い♭、柔らかい♭)に由来する。やがては♮と♯に発展し、紆余(うよ)曲折のすえ、18、9世紀に現在のような体系になった。しかし20世紀音楽(十二音音楽など)では、臨時記号はそれがつけられた音符のみに有効とするなど、用法に多少の変化がみられる。また西洋音楽以外の音楽を五線譜化する際、半音より狭い微分音の表記に↑やなどの新しい記号も用いられる。
[柴田典子]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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