改訂新版 世界大百科事典 「外部経済外部不経済」の意味・わかりやすい解説
外部経済・外部不経済 (がいぶけいざいがいぶふけいざい)
external economies,external diseconomies
A.マーシャルは,産業の規模が拡大することによりその産業内の企業の生産効率が高まることを外部経済と呼び,企業の規模が拡大することによりその企業自身の生産効率が高まることを内部経済internal economiesと呼んだ。後者は企業の生産技術における規模に関する収穫逓増に対応する。マーシャルは,個々の企業は規模に関する収穫逓減に服するとしても,外部経済によって産業全体としての生産技術は規模に関する収穫逓増を生むことがあると考えた。彼はこの可能性を収穫逓増と競争均衡の両立性を説明するために用いたが,この考え方はのちにケンブリッジ大学で費用論争と呼ばれる論争をひき起こした。
外部経済という用語は,現在では,ある経済主体の行動が市場を経由しないで直接に他の経済主体に有利な影響を与えることを示すものとして用いられる。果樹園経営者の生産活動が,開花期に養蜂業者の放つハチがみつを生産するのを助け,逆にハチが花粉を運ぶことによって果樹園の結実が助けられるというJ.E.ミードによる牧歌的な例は,生産者が生産者に与える外部経済の例である。消費者が隣家のよく手入れされた美しい庭を見て楽しむというのは,消費者が消費者に与える外部経済である。このほかに消費者と生産者の間で生ずる外部経済も考えられる。逆に,河川の上流にある工場から流れ出る有毒な廃液により下流で取水する農業生産者の収穫に被害が出るというように,ある経済主体の行動が他の経済主体に直接に不利な影響を与えることを外部不経済という。公害と呼ばれる現象は外部不経済の典型的な例である。
外部経済と外部不経済を合わせて単に外部効果external effectあるいは外部性externalitiesともいう。外部効果がもつ重要な経済的意味は市場機構の効率的な運行を妨げ,いわゆる〈市場の失敗〉を生むことである。効率性を回復するための手段として,A.C.ピグーは外部経済を発生する経済主体に補助金を交付し,外部不経済を発生する経済主体に課税することを考えた。市場機構の運行の不効率性を生むこのような外部性は,さらに技術的外部性と名づけられて,金銭的外部性と区別されることがある。金銭的外部性とは,ある経済主体の行動が市場を経由して財の価格に影響を与え,その結果,他の経済主体が有利になったり不利になったりすることを意味する。これは市場機構の運行の効率性を妨げるものではない。
執筆者:長名 寛明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報