江戸後期の農村改革思想家。尾張(おわり)藩家老大道寺(だいどうじ)氏の一族とも、幕府御小人目付(おこびとめつけ)高松彦七郎の弟という説もあるが出自は不明。ただし、武士の出身であることは確かである。少年時代から家を出て、関西方面を遊歴し、神儒仏をはじめ易学、観相など種々の学問、先進農業技術などを身につけた。1830年(天保1)江州(ごうしゅう)(滋賀県)伊吹山松尾寺を訪ね、提宗和尚(ていそうおしょう)の激励を受けて社会教化の実践を決意し、中山道(なかせんどう)を経て信州(長野県)上田に至り、富商小野沢六左衛門に寄寓(きぐう)して道学の講義を開講、徐々に門人も増えたが、1年で上田を去り江戸に向かう。その後、相模(さがみ)(神奈川県)から房総の各地を巡歴、1833年ごろから下総(しもうさ)国(千葉県)香取(かとり)、海上(うなかみ)、匝瑳(そうさ)3郡の東総の村々を中心に道を講じて巡講、彼独特の教学を「性学」と名づけ、村々に性学門人が増加していった。1835年香取郡長部(ながべ)村名主遠藤伊兵衛に招かれて性学を説いて以後、ここを中心として北総の村々を巡講するに至った。
ここで『性学趣意』『微味幽玄考』などの書を著すとともに、荒廃した農村復興のために土地共有組織「先祖株組合」を結成させて農家永続の策をたて、また農地の交換分合、耕地整理などから農作業、施肥などの農事指導まで行い、1848年(嘉永1)には長部村は領主から模範村として表彰されるまでになった。
しかし、門人数の急増、教導所「改心楼」の建設などが関東取締出役(とりしまりしゅつやく)の嫌疑を受け、幕府評定所(ひょうじょうしょ)の取調べを受けることとなる。1857年(安政4)幕府の判決が下り百日押込(おしこめ)の刑を申し渡され、江戸にて謹慎、翌1858年2月刑期を終えて長部村に帰村、3月8日未明に遠藤家墓所で自殺した。墓は自刃した場所にある。なお千葉県旭(あさひ)市長部の大原幽学記念館に遺品、関係資料があり、傍らに幽学の当時の居宅がある。
[川名 登 2016年4月18日]
『中井信彦著『大原幽学』(1963/新装版・1989・吉川弘文館)』▽『木村礎編『大原幽学とその周辺』(1981・八木書店)』
江戸末期の農村指導者,経世家。幼名才次郎,通称左門,号を幽玄堂,晩年に幽学。尾張藩士大道寺氏の次男といわれるが出自不明。少年時から儒学,武芸を学び,長じて典故,観相,易を学ぶ。18歳のとき事情あって家出,近畿,中国を巡歴,34歳のとき,伊吹山で禅的開悟を機に救世済民の道に進むことを決意。天保期は全国的に不作で,米価騰貴のため農民や町人の騒動がたえまなく,巡歴した房総南部の疲弊にはとくに心を痛めた。1842年(天保13)下総香取郡長部村に定着,村の改革に後半生を捧げた。1837年〈子孫永永相続〉なる共有財産をつくり,農民の相互扶助の基としたが,翌年,農業協同組合の先駆である先祖株組合を長部村ほか4ヵ村に結成させた。指導原理は独自の〈性学〉で,忠と孝,分相応論を柱とし,武士を理想化した考え方であった。指導は成功し,領主から表彰されたが,のち処罰されて自刃。著書に《微味幽玄考》など。
執筆者:塚谷 晃弘
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1797~1858.3.7
江戸後期の農民指導者。氏・素性を隠し,名古屋藩牢人とだけ称する。18歳で勘当され,畿内・中国・四国・信濃と流浪し,1835年(天保6)名主の依頼で下総国香取郡長部(ながべ)村(現,千葉県旭市)を訪れ,性学を説いた。38年,同村に先祖株組合を結成し家と村の復興事業を指導,この仕法は東総農村に広まった。51年(嘉永4)関東取締出役(しゅつやく)から嫌疑をうけ,教導所改心楼は取り壊され,57年(安政4)幕府評定所の判決で100日押込に処せられた。翌年3月,刑期を終えたのち長部村で自刃,墓は同所にある。
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…ほぼ同時代の大蔵永常はリアルな農業技術者として,民に利を得させてはじめて為政者の利となることを主張し,尊徳の稲作中心の増強策に対し商品作物の栽培・加工を重視し,実践指導した。また大原幽学は1838年,日本における農業協同組合の先駆である先祖株組合を4ヵ村に結成させた。【塚谷 晃弘】。…
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