天守物語(読み)テンシュモノガタリ

デジタル大辞泉 「天守物語」の意味・読み・例文・類語

てんしゅものがたり【天守物語】

泉鏡花戯曲。1幕。大正6年(1917)、文芸誌「新小説」に発表。魔界の者がすむ白鷺城姫路城)の天守閣舞台に、天守夫人富姫と鷹匠若者の恋を幻想的に描く。鏡花の生前には上演されず、没後の昭和26年(1951)、新橋演舞場初演。その後も歌舞伎オペラなど、さまざまなジャンルで上演されている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「天守物語」の意味・わかりやすい解説

天守物語
てんしゅものがたり

泉鏡花(きょうか)作の戯曲。一幕。1917年(大正6)『新小説』9月号に発表。播州(ばんしゅう)姫路(兵庫県)の白鷺(しらさぎ)城の天守閣第五層を舞台に、ここに棲(す)み着く天守夫人富姫を中心に、鏡花独自の幻想美の世界が、華麗な台詞(せりふ)にのって展開する。富姫は、逃げた鷹(たか)を求めて天守探索を命じられた若き武士と恋に落ちるが、妖怪(ようかい)世界の守護神たる獅子頭(ししがしら)が荒くれ武者どもによって目を突かれたため、2人は失明。しかし工人桃六(とうろく)の鑿(のみ)によって開眼して愛を全うするという、芸術至上主義が強く打ち出されている。作者存命中は『海神別荘』とともに上演をみず、鏡花自身、この作品を上演してくれる人がいたら謝礼はいらぬ、こちらからお土産(みやげ)を贈るのだがといったほど、上演はむずかしいと思われていたが、1951年(昭和26)新橋演舞場の新派公演で、伊藤道郎(みちお)の演出で初演。花柳(はなやぎ)章太郎の富姫、水谷八重子の亀(かめ)姫で大成功を収めた。新派はその後『海神別荘』『夜叉ヶ池(やしゃがいけ)』などを逐次上演、『天守物語』は歌舞伎(かぶき)や新劇、オペラなど多方面でさまざまな演出により上演されている。

[藤田 洋]

『『天守物語』(『夜叉ヶ池』所収・講談社文庫)』

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