天日槍(読み)あめのひぼこ

精選版 日本国語大辞典 「天日槍」の意味・読み・例文・類語

あめ‐の‐ひぼこ【天日槍】

  1. 記紀、「播磨風土記」などに見える、新羅国王の子。「日本書紀」によれば垂仁天皇三年来朝とされる。「播磨風土記」では葦原志挙乎命や伊和大神と土地占有争いをする神とする。来朝に際し、八種の神宝を伝える。帰化して但馬(たじま)の娘、前津見と結婚

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改訂新版 世界大百科事典 「天日槍」の意味・わかりやすい解説

天日槍 (あめのひぼこ)

日本神話にあらわれる人(あるいは神)の名。《古事記》では天之日矛と記す。同書によれば,水辺で太陽の光を受けた女が赤玉を生み,それを得た新羅皇子アメノヒボコが玉を床辺におくと,赤玉は女と変ずる。皇子はこの女を妻とするが,のちに逃げる女を追って日本に渡り但馬国に住んだという。この話は,女を追ってはらませる太陽,女を妻とし追って海を渡るアメノヒボコ,という同一観念より変化した二つの話が重複している。アメノヒボコの神宝には日鏡,波や風をきる比礼(ひれ)もあり,アメノヒボコは但馬に本拠を置いた渡来人(出石(いずし)人)が奉じた海洋太陽神であろう。また《播磨国風土記》では,剣で水をかくはんして海中に宿ったという話もあり,剣光を表象とする神でもあった。《風土記》では土地の占有を土着神と争う神でもあり,その系譜田道間守たじまもり)や神功(じんぐう)皇后がつながる。
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朝日日本歴史人物事典 「天日槍」の解説

天日槍

『古事記』『日本書紀』の伝承に登場する新羅の王子。『古事記』によれば天之日矛とみえ,他に海檜槍,天日桙とする。その伝承の内容は次のとおりである。性器に日が当たり,女が赤玉を生む。天日槍がそれを手に入れると赤玉は女と化したので妻とする。女は祖国日本の難波(大阪市)へ逃げ帰ったので天日槍はそれを追う。しかし難波へは入れず,但馬出石にとどまり,多遅摩俣尾の娘前津見を娶り,子孫をつくる(後裔に神功皇后)。『日本書紀』は渡来時期は垂仁3年とし,播磨,淡路(以上兵庫県),山背(京都府),近江(滋賀県),若狭(福井県),そして但馬への歴訪を語る。天日槍伝承は『播磨国風土記』や『筑前国風土記』逸文などにも多様な構成でみえ,早い段階から各地に浸透したと考えられる。天日槍は数種の神宝を招来するが,ともに但馬の出石神社(兵庫県出石町)とのかかわりを示唆している。伝承の基礎は出石神社を奉斎する一族の始祖伝承に,矛槍を祭具とする太陽信仰,各地の渡来系氏族伝承が融合し,形成されたものと考えられる。<参考文献>三品彰英編『日本書紀研究』第3冊

(関和彦)

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「天日槍」の解説

天日槍 あめのひぼこ

記・紀にみえる新羅(しらぎ)(朝鮮)の王子。
「日本書紀」によれば,垂仁(すいにん)天皇3年渡来,但馬(たじま)(兵庫県)の出石(いずし)にすみ,太耳(ふとみみ)の娘麻多烏(またお)と結婚した。もってきた羽太(はふと)の玉,足高(あしたか)の玉,鵜鹿鹿(うかか)の赤石の玉など8点の神宝は出石神社にまつられたという。「古事記」では天之日矛とかき,応神天皇のときに渡来し,前津見(まえつみ)と結婚したという。

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世界大百科事典(旧版)内の天日槍の言及

【伊和大神】より

…この神は播磨国宍禾(しさわ)郡伊和村を本拠とする伊和君(いわのきみ)に祭られて,揖保(いいぼ),宍禾,讃容(さよ)などの諸郡に事績を残している。それによると,土地を開拓し,境界を定めて〈クニ〉の基礎を築き,天日槍(あめのひぼこ)と軍を起こして戦い,また集団の祭りに欠かせない酒宴の神でもあった。本来,各地方では〈クニ〉の始まりについてのいわれを語るために英雄神を創造した。…

【但馬国】より

…伝承的記事を除けば,国名の初出は675年(天武4)の侏儒・伎人を貢上せしめたという記録である。ただし,但馬国の古代を語るとき,史実かどうかは別として,天日槍(矛)(あめのひぼこ)の説話を忘れることができない。すなわち,新羅の王子である天日槍が妻を追って日本に渡り,九州から瀬戸内海を経て播磨・淡路・難波・近江・若狭などを遍歴して,但馬にいたってついに安住し,出石(いずし)神社の祭神としてまつられたという。…

※「天日槍」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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