ポーランドの天文学者N.コペルニクスの著書で,1543年にニュルンベルクで刊行されたが,本書の主要部分は1530年ころに完成されていたものとされ,また,それ以前にコペルニクスは《要綱Commentariolus》を書いて友人らに配っている。本書の見本刷りはフラウエンブルクで臨終の床にあったコペルニクスに届けられたと報じられている。本書はアリストテレス,プトレマイオスの地球中心の宇宙体系(天動説)に対し,太陽中心の宇宙体系(地動説)を述べて,近代天文学,いや近代科学の発端を画した書である。
本書は6巻からなるが,地動説の思想は第1巻にあますところなく述べられている。第1巻の内容は14章からなり,第1~3章で宇宙も諸天体も地球も球形であること,第4章で天体が円運動を行うこと,第5章では地球も例外でなく自転しながら太陽を円運動すること,つまり地動説に言及している。第6~8章では地動説に対する天動説の立場の反論をとり上げてこれを論駁(ろんばく)し,そして第9~11章は地動説の立場からいかに天界の諸現象が合理的に説明されるかを総括している。最後の第12~14章は第2巻への数学的準備であって円弧の表と三角法の基礎定理が掲げてある。なお,第2巻は球面天文学,第3巻は分点の動きと太陽の運動,第4巻は月の運動,第5~6巻は惑星の運動を論じている。その際,コペルニクスは,プトレマイオスの天動説と同じように離心円や周転円を用いたが,等速円運動に徹したのでエカントは排した。なお,コペルニクスは《要綱》の中で34個の円を用いたことを述べているが,O.ノイゲバウアーによれば天動説では43個の円が必要とされる。
本書は天文学を離れて社会全般に与えた影響も大きく,本書で〈回転〉の意味に用いられたrevolūtiōは1600年ころから〈革命〉の意味に使われるようになり,またカントはその著《純粋理性批判》第2版(1788)の序言で,従来の主観が客観に従うという立場をすてた主観的観念論への転回を〈コペルニクス的転回〉ということばで表現した。本書の日本語訳は第1巻のみ,《天体の回転について》(1953)がある。
執筆者:堀 源一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
コペルニクスの主著。近代地動説の原典とされる。原著名はDe revolutionibus orbium coelestium。1543年刊。フラウエンブルク聖堂参事会員コペルニクスは、北イタリア遊学以来の着想を小冊子『概要』に記して知友に回覧するとともに、さらに天体観測を重ねて1530年ごろ本格的な著述に入り、本書をまとめた。しかし異端のとがめをおもんぱかって、その公刊をためらった。ところがギーゼ司教の推賞とレティクスの懇請を受け入れて、出版を決心した。出版はレティクスの斡旋(あっせん)によってニュルンベルクのグーテンベルク印刷所で行われた。
本書は全六巻からなり、内容は以下のとおりである。第一巻は地球が球形で自転・公転・歳差という3種の運動をすること、および球面三角形の定理。第二巻は天球座標と時間の決定、球面天文学の基礎。第三巻は春分点の歳差、太陽の不等速運行などの起因が地球の運動にあること。第四巻は日・月食が月の公転によることの理論づけ、諸天体の大きさや距離の比較。第五巻は諸惑星の視運動を空間内の公転によって説明し、各惑星の軌道半径を比較。第六巻は惑星の黄緯変化による軌道傾斜の決定。
この書の第一冊は著者の臨終の床に届けられた。教皇庁はこの書を単なる天体位置の計算書とみなしたが、ガリレイ裁判の際、改めて禁書目録に登録した。
[島村福太郎]
『矢島祐利訳『天体の回転について』(岩波文庫)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…ポーランドに帰ってからは終生教会領の管理職をつとめた。コペルニクスはみずからの太陽中心説天文学を《要綱》のかたちで述べて,知人のあいだに流布させていたが,天文学体系として十全に展開したのは,印刷された初版が彼の死の床にもたらされたといわれる《天球の回転について》(1543)である。地動説的な考えを述べた人は,スコラ学者の中にもいくらでもいるが,コペルニクスのこの著は,プトレマイオスの天動説天文学体系に対置される大部な地動説天文学体系を示したことで,そしてさらに,当時さかんになりかけていた印刷メディアに乗ることによって,やがて革命的な影響力をもつにいたる。…
…M.ルターが宗教改革を開始したのは1517年であった。43年は,N.コペルニクスの《天球の回転について》とA.ベサリウスの《人体の構造》が発表された年である。それぞれ近代的な天文学,解剖学の出発点となったものであるが,数学に関係するのはとくに前者である。…
…
[近世]
コペルニクスが〈地動説〉を唱えたことは,天文学ばかりでなく一般の学問に大きな変革をもたらし,これまで絶対の真理として考えられていたギリシアの学問に根本的な反省を与えることになった。彼の大著《天球の回転について》は1543年(彼の死の直前)に出版された。彼は,太陽を宇宙の中心におく点ではまったく革新的ではあるが,天体の運動を説明するさいには,やはりプトレマイオスと同じように円運動の組合せを考えており,多くの点で従来の思考方法をそのままに残している。…
※「天球の回転について」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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