女性犯罪(読み)じょせいはんざい

改訂新版 世界大百科事典 「女性犯罪」の意味・わかりやすい解説

女性犯罪 (じょせいはんざい)

女性によって行われる犯罪をいう。男性と女性では,犯罪の生起のしかたにおいて,量的にも質的にも大きな差が認められる。とくに,統計上,女性犯罪は男性犯罪に比し,量的に非常に少ないことは,時代・地域を超えてみられる現象である。日本の1996年の刑法犯検挙人員(交通事犯を除く)中の女性比は15.4%であり,女性の社会的進出の比較的進んだアメリカ(19.1%),西ドイツ(19.5%)もほぼ同様の数字を示している(1980)。この統計上の犯罪の発生率の差については,対立する二つの見方がある。一つは,女性犯罪の大部分を占める窃盗売春は発覚しにくく,暗数となる部分が多いことや,女性は刑事司法関係者の騎士道的精神によって寛大に扱われることが多いために,逮捕を免れる機会が多く犯罪発生が少なくみえるにすぎないとするもの(O. ポラック等)で,いま一つは,現実に犯罪の発生そのものが少ないというものである。後者立場の中でも,女性は体力が劣るほか,妊娠・出産という生殖作用にともなって本来的に備わる母性愛等により,生物学的に犯罪性そのものが少ないという説明(吉益脩夫等)や,今までの女性の社会的地位から派生しているものであって,社会的活動の機会に乏しく,女性としての役割期待からの監督・規制が加えられてきた結果によるものだという社会学的説明(E.H. サザランド等)等がなされている。日本においても,近年,男女平等思想の進展や女性の社会的進出の拡大とともに女性比は,1960年7.7%,70年12.5%,82年18.1%と顕著に増加してきている。これは後者の説明を証明するかのようであるが,女性の社会的進出が直接,犯罪の増加に結びつくのかは,なお質的な検討を必要としよう。

 女性犯罪の心理特性としては受動性・情緒性をあげるものが多いが,欺瞞性・虚栄性をあげるものもいる。女性比の最も高い犯罪は嬰児殺しであるが,これは大部分は望まない妊娠・出産に基づくものであり,女性独自のものとはいえ,周囲の対応のしかたにより変化しうるものである。比較的女性比の高い殺人罪においても,過半数が実子殺しであるほか,ほとんど密接な人間関係の中で行われており,葛藤犯罪としての性格を強く示している。女性の刑法犯検挙人員中最も多い罪種は窃盗で,72.5%(1996)を占め,その9割近くが万引である。日常の買物の場で行われるという女性の生活領域を示すとともに,月経等の生理作用の影響による情緒不安定状態との関連も指摘されている。また,年齢分布においても,男性は若年層に犯罪発生がかたよるのに比し,女性は比較的中高年層に多く,そのころに犯罪を初発し累犯化するものが多くみられる。この原因ははっきりしないが,夫との死別・離別等による環境状況の変化,更年期による精神的・身体的不調等の影響も考えられよう。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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