改訂新版 世界大百科事典 「妊娠診断」の意味・わかりやすい解説
妊娠診断 (にんしんしんだん)
胎児を子宮内に保有する状態を妊娠といい,妊娠の診断は胎児の存在による徴候(確徴)と妊娠によって母体に現れる徴候(疑徴)によってなされるが,診断のための価値としては前者(確徴)のほうが大きいことはいうまでもない。
妊娠の確徴として,胎児部分を外から触れることや胎児心音を聞くことができる,あるいはX線撮影によって胎児の骨格を証明できるなどがあげられるが,これらの確徴の多くは妊娠5ヵ月以後にならないと証明されなかった。しかし最近は医用電子機器(ME)の進歩にしたがって,たとえば超音波ドップラー法によれば妊娠11週(3ヵ月の終り)から胎児心音を聞くことができるようになり,さらに,ごく最近ではELスキャン法により妊娠8週には胎児の心拍を見ることができるようになり,3ヵ月初めには確実な妊娠の診断ができるようになった。
そのほか,胎児の付属物である絨毛(じゆうもう)から出るホルモン(ヒト絨毛性ゴナドトロピン,hCG)を妊婦の尿中に証明することにより妊娠を診断する方法がある。この診断法として,かつてはアシュハイム=ツォンデック反応やフリードマン反応などの生物学的妊娠反応を利用したものも行われたが,これらは時間もかかり,また現在では,妊婦尿中のhCGを免疫学的に測定する簡便な免疫学的妊娠反応によるものが開発されているので,現在ほとんど用いられない。この免疫学的妊娠反応のさらに鋭敏な測定法が開発され,予定月経のころには妊娠の診断ができるようになった。
なお,妊娠の疑徴として母体に起こる変化には,月経の閉止に次いで,子宮がだんだんと大きくなり,乳房も発育肥大するなどの変化がみられる。
一般には,それまで順調にあった月経が遅れていて,いわゆるつわり(おもに悪心,嘔吐などの消化器症状)があり,かつ基礎体温で36.7℃以上の高温相が18日以上にわたって持続しているときには,妊娠の可能性が大きいから,産科医を訪れて前記の尿の妊娠診断法を受ければ,妊娠の診断が確定する。この免疫学的な妊娠診断法は,尿と診断薬を混ぜ合わせて反応させ,凝集の有無により判定する方法で,数分しかかからない簡単かつ確実な妊娠診断法である。最近は金コロイド測定法として,陽性の場合に形成される複合物が赤紫色のスポットとして判定プレート上で確認できる方法が開発されている。
執筆者:中山 徹也
家畜の場合
家畜の繁殖効率を高めるためには,交配後できるだけ早く妊否を知ってその後の対策を講ずる必要があり,早期妊娠診断法が利用される。最も簡便な方法は交尾後の次の発情期に来潮しないことによって妊娠の成立を知ることであるが,この方法は妊娠以外の原因による無発情や,妊娠していても発情徴候を示す個体もあるために,確実性に欠ける。正確で実用的な方法としては,大家畜については直腸検査rectal palpationが広く用いられている。これは直腸から腕を挿入し,指先で腸壁を通して卵巣,子宮を触診して胎膜と妊娠黄体の存在を確認する方法で,熟達者ならウシの場合で35~40日,一般には50日以降診断が可能である。また腟内部検査を行い,子宮外口部の徴候,頸管粘液像の所見を検討して判定する方法もある。動物は妊娠に伴って血清中のホルモンの特異的な消長が認められるから,この変化を生物学的に,あるいは生化学や免疫学的手法に基づいて検出し診断する方法もとられている。最近,乳牛では牛乳中の黄体ホルモン量が血中濃度に伴って妊娠期に増量することから,交配後21~24日に牛乳中の黄体ホルモンをラジオイムノアッセーradioimmunoassayにより測定し,妊否を診断する技術も開発されている。
執筆者:正田 陽一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報