妬・嫉(読み)ねたし

精選版 日本国語大辞典 「妬・嫉」の意味・読み・例文・類語

ねた・し【妬・嫉】

〘形ク〙 (反発を感じ、ねたましく思う気持を表わす)
① 他人の充足した状態をうらやんで、反感の気持を抱く。うらやましくねたましい。また、ねたましく思われるほど、すばらしい。
書紀(720)崇峻五年一〇月(図書寮本訓)「朕が嫌(ネタシ)(〈別訓〉そねむ)とおもふ所(ところ)の人を断らむ」
源氏(1001‐14頃)明石「これはあくまでひきすまし、心にくくねたきねぞまされる」
② 特に、男性に対して嫉妬の気持を抱く。ねたましい。
神楽歌(9C後)小前張・蟋蟀・或説「〈末〉な取入そ 小雨にそぼ濡らせ 夜離れする いといとねたし」
③ 自分の行為や選択が、思わしい結果を得られなくて、残念である。失敗がいまいましく後悔される。くやしい。
※土左(935頃)承平五年二月七日「淡路の御の歌におとれり。ねたき。いはざらましものをとくやしがるうちに」
※源氏(1001‐14頃)帚木「ねたう、心とどめても問ひ聞けかしと、あぢきなくおぼす」
④ 他人にうまうまとしてやられて残念だ。また、他人から見下げられてくやしい。
※竹取(9C末‐10C初)「取かたき物を、かく浅ましく持て来る事を、ねたく思ひ」
※源氏(1001‐14頃)帚木「人に似ぬ心ざまのなほたえずたちのぼれりけるとねたく、〈略〉めざましくつらければ」
[語誌]→「ねたましい(妬)」の語誌。
ねた‐が・る
〘自ラ四〙
ねた‐げ
〘形動〙
ねた‐さ
〘名〙

ねた・む【妬・嫉】

〘他マ五(四)〙
① うらやましく憎らしいと思う。そねむ。
※書紀(720)神代(兼方本訓)「故れ、素戔嗚尊、妬(ネタム)で姉(なねのみこと)の田(みた)を害(やふ)る」
② 男女間のことで嫉妬する。やきもちをやく。
※能因本枕(10C終)五二「若き男持ちたる、いと見苦しきに、こと人のもとに行くとてねたみたる」
③ 憎む。腹を立てる。遺恨に思う。憤り恨む。くやしく思う。
※書紀(720)神武即位前(北野本訓)「忿(いか)で曰(い)はく、天圧(あめおす)の神至(いま)すと聞(きき)て吾(あ)が為慨憤(ネタミつつある)時、奈何(いかに)ぞ、烏鳥(からす)若此(かく)、悪(あ)しく鳴(ねな)くと云ふ」
今昔(1120頃か)一四「汝を嫉むで、召て、我等に給へ、其の怨を報ぜむと訴へ申すに依て」

ねたまし・い【妬・嫉】

〘形口〙 ねたまし 〘形シク〙 (動詞「ねたむ(妬)」の形容詞化) うらやましく憎らしい。くやしい。残念だ。
※元祿版古今著聞集(1254)一〇「大将聞給て、此事ねたましう思給ひたる折ふし」
[語誌](1)類義語「ねたし」が中古和文にもかなり見られるのに対し、「ねたまし」はほとんど見られない。これは「ねたまし」が漢文訓読語であったことによるらしく、「源氏物語」にある「ねたましがほ」も漢籍をふまえた表現である。
(2)中世以降は両語併存するが、「ねたし」は「ねったし」と促音が入り、感動詞的用法が多くなる。「日葡辞書」で「ねたし」に文書語の注記があるように、近世以降「ねたし」は衰退し、「ねたまし」が一般に用いられるようになった。
ねたまし‐が・る
〘自ラ四〙
ねたまし‐げ
〘形動〙
ねたまし‐さ
〘名〙

ねた【妬・嫉】

[1] (形容詞「ねたし」の語幹) ねたましいこと。うらやましく憎らしいこと。感動表現に用いる。
※源氏(1001‐14頃)藤裏葉「中将は心の中に、ねたのわざやと思ふところあれど」
[2] 〘名〙 ((一)の転じたもの) 根に持つこと。恨みに思うこと。
※曾我物語(南北朝頃)九「宵に悪口(あっこう)せられしそのねたに、わざと口を裂かるるとぞ」

ねたみ【妬・嫉】

〘名〙 (動詞「ねたむ(妬)」の連用形の名詞化) ねたむこと。うらやましく憎く思うこと。くやしく残念に思うこと。そねみ。嫉妬。
※古今著聞集(1254)一一「女院の御方負させ給て、源氏絵十巻たみたる料紙に書て、色々の色紙に詞はかかれたりけり。〈略〉御妬に、院御方御負ありて」

ねたま・す【妬・嫉】

〘他サ四〙 ねたむようにしむける。うらやましく憎らしいと思わせる。くやしがらせる。
※源氏(1001‐14頃)帚木「男いたくめでて、簾のもとに歩み来て、庭の紅葉こそ、ふみわけたる跡もなけれなど、ねたます」

ねたまし【妬・嫉】

〘形シク〙 ⇒ねたましい(妬)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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