子殺し(読み)コゴロシ(英語表記)infanticide,filicide

デジタル大辞泉 「子殺し」の意味・読み・例文・類語

こ‐ごろし【子殺し】

自分の子供を殺すこと。また、その人。

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最新 心理学事典 「子殺し」の解説

こごろし
子殺し
infanticide,filicide

子殺しとは,動物が同種の未成熟個体を殺すことである。ヒトの場合,親が自分の子(実子もしくは養子)を殺すことに限って子殺しとよぶことが多いが,ヒト以外の動物では,親以外の個体が同種の未成熟個体を殺すことも含めるのが一般的である。より広義には,育児放棄などの結果として子が死に至るような場合も含めることがある。子殺しの要因として,性淘汰(雄間競争),栄養(殺して食べる),資源を得るための競争,自分以外の子への投資の回避,アクシデント(攻撃の激化に巻き込まれるなど)などが挙げられている。ただし,これらの要因は相互に排他的ではないし,これらの要因だけで必ずしも合理的な説明ができるわけではない。霊長類の社会生態学では,霊長類が集団生活を送る要因の一つとして子殺しが重要な役割を果たしているとする考えが近年優勢になっている。すなわち,潜在的な子殺しの可能性があることによって,雌は特定の雄(もしくは雄たち)と長期にわたって行動をともにする。一緒にいる雄は,その雌の子どもの父親である可能性が高いため,集団外の雄による子殺しから雌と子どもを守ることになる。

 こうした進化史的に一定の機能があると考えられている子殺しのほかに,飼育下では人為的な影響による子殺しが生じることがある。たとえば,多くの魚の仲間のように産子数が多く出生後子どもが分散してしまうような動物では,一般に親が子どもを識別する必要がない。こういった種を狭い水槽などで飼育すると,自分の産んだ子どもを食べてしまうことがある。また,子育てに一定の社会的学習が必要な種では,人工保育などの影響で同種他個体と暮らした経験が少ない個体が,生まれた自分の子どもを殺してしまう場合もある。

【ハヌマンラングールの子殺し】 杉山幸丸は,1962年に南インドのダルワールでハヌマンラングール(オナガザル科の旧世界ザル)の子殺しを発見し,世界で最初の報告を行なった。当時は病的な異常行動とも考えられたが,後に社会生物学が主流となり,子殺しが雄の繁殖戦略として適応的意義adaptive significanceをもったものであると認められるようになった。現在では,霊長類種やライオン,ジリスの仲間など多くの動物に子殺しがあることがわかっており,ハヌマンラングールの子殺しも決して病的行動ではなく,一定の条件下での雄の有効な戦略と考えられるようになっている。このサルは,雄が1頭で雌が10頭前後いる単雄複雌群を作る。当然雄があぶれることになり,そうした雄たちは周辺で雄グループを作る。ときに,こうした群れ外雄が群れ雄を追い出して群れを乗っ取ることがあるが,その際に新しい雄が前の雄の子どもたちを次々と殺害する。子どもを殺された雌たちは発情estrusを再開して新しい雄と交尾をする。

 普通は哺乳類の雌が授乳している間は発情しないが,乳飲み子を失うと発情を再開する。したがって,新しい雄は子殺しをすることによって前の雄の子が離乳するまで待つことなく自分の子どもを残すことができる。つまり,ハヌマンラングールの子殺しは,個体数の調整といった種もしくは集団の利益のためとしてではなく,個々の雄が自分の子孫を最大限に残すための戦略として理解可能なのである。雌にとっては子どもを殺される損失が大きいので抵抗はするが,雄の力には抗し切れない。たとえ命を賭して子どもを助けたとしても,雌自身が殺されては子も生きていけないため,雌は自分が死なない程度に雄に抵抗し,だめならば自分の子を殺したその雄を受け入れて新たに子を産み,雄の庇護を受ける,というのが最良の選択だということになる。

チンパンジーの子殺し】 チンパンジーでもまた子殺しが見られ,殺した子の肉を食べてしまうことも多い。これについては,他の哺乳動物を対象とした狩猟肉食との類似も指摘されている。チンパンジーの子殺しでは,ハヌマンラングールのようなオスの繁殖戦略説がうまく当てはまらないことが多い。まず,チンパンジーは単雄群ではなく複雄複雌の集団を作るため,子どもの父親がだれであるのかは彼ら自身にもわからないはずである。雌が他集団の雄の子どもを妊娠して移入してきた場合に子殺しが起きるとする説もあるが,実際の観察事例では断言できない。たとえば,タンザニアのゴンベでは,観察されたすべての子殺しの対象は他集団の雌の子どもであるのに対し,同じくタンザニアのマハレではほとんどすべてが集団内での子殺しである。その中には,父親である雄が実の子を殺した例もいくつかある。マハレでのこのような集団内の子殺しは1990年を最後にまったく観察されなくなっているが,その理由も定かではない。

 一方,殺される子どもの性比が雄に偏っていることから,将来ライバルを減らすためとする説もある。だが,殺す側の雄が20歳だとしても,生まれてきた子どもがライバルになりうるのはそれから15年以上も後のことである。35歳といえば,チンパンジーの雄としてはかなり老齢であり,その年齢よりも前に死んでしまう雄も少なくない。したがって,この説も完全にチンパンジーの子殺しを説明できるわけではない。さらに,これまでに報告されているチンパンジーでは,子を殺すのは圧倒的に雄が多いが,雌が殺す場合も何例か報告されている。チンパンジーでは,ハヌマンラングールのような明快な説明は当てはまらない。

【ヒトの子殺し】 ヒトにおいても子殺しは普遍的に見られる。伝統社会では,嬰児殺しはやむをえないものとして社会的に正当化されていることも多い。たとえば,かつて日本においても,出生直後の子どもを間引きすることは許されていた。通文化的な資料を調べたデイリーDaly,M.とウィルソンWilson,M.(1988)によれば,60のうち39の社会で子殺しの記述があり,その理由としては,父性の不確実さ,夫婦外での妊娠,貧困,社会的サポートの欠如,複数の子を同時に育てる困難さ,生まれた子の奇形または疾病,といったものが挙げられている。このように,進化心理学などではヒトの子殺しにも他の動物と共通した進化史的な基盤があるという点が強調されることが多い。

 なお,伝統社会における間引きは,親の側に子どもの生死を決める権利を付与するという意味で,近代社会の人工妊娠中絶とパラレルなものである。現代の多くの国では,ある時期までの人工妊娠中絶は法的に認められてはいるが,生物学的な観点からはこれも子殺しに含まれる。一方,出生後の子どもを殺すことは近代法のもとでは明確な犯罪であり,社会的に正当化されてはいない。それでも,出産直後の遺棄,虐待abuseや過剰な折檻,無理心中といった形で親による子どもの殺害は生じている。その背後には,貧困や親の孤立,育児コミュニティの崩壊といった社会的な問題がかかわっていることが指摘されている。 →チンパンジー →繁殖戦略
〔中村 美知夫〕

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百科事典マイペディア 「子殺し」の意味・わかりやすい解説

子殺し【こごろし】

哺乳(ほにゅう)類における共食いの一形態。一般に生息密度が高くなると共食いが起こり,特に幼い個体が捕食される例は珍しくない。しかし,それとは違って,ハヌマンラングールほか数種のサル,チンパンジー,マウンテンゴリラ,ライオンなどでは,群れの第1位オスが交代した際に,積極的な子殺しが見られる。この行動は,前の雄との間にできた子供を殺すと同時に雌の速やかな発情を促し,自分の子孫をより多く残すという機能を持つと考えられている。
→関連項目血縁淘汰

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デジタル大辞泉プラス 「子殺し」の解説

子殺し

古典落語の演目のひとつ。

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