日本には企業,官庁,学校などの職員層に,特定の学校の出身者がきわだって高い比率をしめるという現象が早くからあり,このように出身校を同じくすることから形成されたグループが〈学閥〉と呼ばれた。明治末にはすでに,藩閥,財閥などとともに学閥を〈朝野の五大閥〉の一つにあげる書物や,東京帝国大学をはじめ各学校の出身者が社会のどのような分野で独占的な地位をしめているかを分析した書物が出されている。現在もなお高級官僚,企業経営者,大学教授など,社会のエリート層について学閥の存在を明らかにしようとする研究は少なからぬ数にのぼっている。その学閥の代表的なものとされているのは官界,財界,学界にひろがる東京大学(赤門)閥であるが,このほかにも財界の慶応(三田)閥,一橋(如水会)閥,中等教育界の旧東京教育大(茗渓)閥,広島大(尚志)閥,マスコミにおける早稲田(稲門)閥などが折にふれて問題にされてきた。
ある組織や職業集団のなかで特定の学校の出身者が高い比率をしめる傾向自体は,日本に限らず,広く他の国々にもみられる現象である。高級官僚を例にとれば,イギリスではオックスフォード,ケンブリッジの2大学,フランスでは理工科学校(エコール・ポリテクニク)と国立行政学院(ENA)の出身者が多数をしめることはよく知られている。そうした現象の生ずる理由としては,学校の数,規模,伝統,威信,選抜のきびしさ,教育の内容と水準,さらには教育制度の構造やそれと職業構造との関連など,さまざまな原因が考えられるが,日本の場合,それがなによりも閥的な行為の結果とみなされている点に特徴がある。すなわち企業や官庁の職員層や経営管理者層に特定校の出身者が多数をしめるのは,彼らが同じ学校の卒業者であるという,いわば〈学縁〉によって閉鎖的・排他的な集団をつくり,自校出身者に不当に有利な機会を与えて地位の独占をはかっているためだ,とされる。学校が第2のイエやムラとして,緊密で永続的な人間関係の形成の場となっていた戦前期から戦後初期までの時代には,そうした閥的行為が多くの組織でみられたことは確かである。組織の近代化,合理化が進み,業績本位の評価や選抜が重視される最近では,閥的行為が顕在的な形で行われることは少なくなり,また行われていたとしてもその存在を証明することは著しく困難になっている。しかし,学閥的なものの存在は大衆の意識をとらえており,特定の学校への入学志望を激化させる状況は依然として続いている。
→学歴社会 →閥
執筆者:天野 郁夫
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特定の学歴を構成単位とした閥。比較的大きな機能集団の内部に、成員の当該集団における地位獲得の競争をめぐって形成される敵対的、抗争的でインフォーマルな下位集団である。学閥は、同窓(出身校の同一性)でなければ加入できず、部外者を排除するから、普遍主義原理でなく特殊主義原理にたち、閉鎖的、排他的である。また、それは同窓生をその能力や業績とはかかわりなく優先的に引き立てようとするから、業績主義原理ではなく属性主義原理にたち、非合理的である。学閥はまた、その内部組織においても前近代的人間関係が勝っている。卒業年次別の先輩・後輩関係が、親分・子分、兄貴分・弟分の関係と類似の機能を果たし、学閥のメンバーは相互に情緒的な結び付きを示し、その人間関係は限定主義原理ではなく、拡散主義原理によっている。そこでは家族主義的人間関係を基盤に、温情主義paternalism、身内主義insiderism、身びいきなどが生まれる。
学閥は、血縁を基盤とする閨閥(けいばつ)や、地縁を契機とする藩閥などに比べると、特定の学校卒業という業績を契機として形成される閥であり、その出現が一般化するのは近代社会に入ってからである。
つまり、学閥は、官庁や大企業といった近代的組織体の内部に、特定学歴という一種の業績を成員資格として生まれ、その非合理的、前近代的人間関係を基盤に該当成員の特殊的利益を増進するところの陰性な集団なのである。このインフォーマルな集団が強化されると上位集団の合理的機能が限定される。
[麻生 誠]
『安田三郎「閥について――日本社会論ノート(3)」(『現代社会学3』2巻1号所収・1975・講談社)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 注目すべきは,社縁が友だち関係を媒介として新たな社縁を生むこと,ことに社会的有力者間の友だち関係が社会全体を動かしてゆく現象である。学閥,郷党閥のようなつながりが,エネルギーとなって一定の影響を社会に与える。日本の国家のかなりの部分は旧制高校の卒業生によって担われてきたし,イギリスの全寮制のカレッジ,アメリカの大学の男子寮フラターニティfraternity,女子寮ソロリティsororityが,それぞれの国の政治・経済に与える影響は見のがせない。…
…これは一度ある閥に加入してしまえば個人の能力のいかんにかかわらず,相互の利益を集団的に保障するという性質による。閥には,生得的な出身家族,出身地によって形成されるもの(門閥,閨閥,藩閥,県人閥),出身学校によって形成されるもの(学閥),社会的・職業的な権力集団が形成するもの(財閥,軍閥,官僚閥)などがある。また,一人のボスのもとに閥を形成する派閥もあるが,この場合,派閥を形成することによってボスも閥によって拘束される,という集団優位の機能が作用する。…
※「学閥」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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