都市計画の実現をはかるため,いずれの国においても,都市計画法およびこれに関連する諸法規を設けている。このように法律・制度に基づいて実現をはかる都市計画を法定都市計画という。都市計画法は国によって,その体系が異なり,全国適用の統一法をもつもの,州の権限とするもの,市町村の条例により行うものなどに分かれる。日本では1919年にはじめて都市計画法と市街地建築物法が公布された。東京はじめ六大都市はこれによって都市計画区域,用途地域,防火地区などを指定し,幹線街路網の整備,土地区画整理事業などを実施し,その他の中小都市もこれにならって都市計画を進めることとなった。その後,時代の要請に従って新たな制度を必要とするようになり,そのつど,関連法規を整備し,基本法である都市計画法は大きな改正を加えないできた。しかし,それでは総合的な都市対策を講ずることができないため,68年にそれまでの都市計画法を廃止し,新しい都市計画法が制定された。新法では,都市計画の決定権を主務大臣から都道府県知事および市町村におろし,公聴会の開催や都市計画の案の縦覧の制度を設けるなど,決定手続の改善が行われた。また,市街地の無秩序な拡大による環境の悪化を防ぐため,都市計画区域を市街化区域と市街化調整区域に区分し,開発許可制度を創設して,開発を規制することとなった。その後,促進区域,予定区域などの制度を加え,80年にははじめて地区計画制度を導入した。
法定都市計画を定める区域で,(1)市または一定の要件に該当する町村の中心の市街地を含み,これと一体の都市として総合的に整備し,開発し,保全する必要のある区域,または,(2)新たに住居都市,工業都市その他の都市として開発し,保全する必要がある区域について,都道府県知事が指定する。
法定都市計画の内容は,市街化区域および市街化調整区域,地域地区,促進区域,都市施設,市街地開発事業,市街地開発事業等予定区域,地区計画等の七つがある。(1)市街化区域および市街化調整区域は,無秩序な市街化を防止し,計画的な市街化を図るため都市計画区域をこの両区域に区分する制度である。市街化区域はすでに市街地を形成している区域およびおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域とし,市街化調整区域は市街化を抑制すべき区域とする。それぞれの区域に対し整備,開発または保全の方針を定める。(2)地域地区は,用途地域をはじめとして16種類の制度があり,それぞれの目的に従って地域地区内における建築物その他の工作物に関する制限を行う。(3)促進区域には,都市再開発,土地区画整理,住宅街区整備のそれぞれ促進区域を定めることができる。(4)都市施設には,(a)道路・都市高速鉄道などの交通施設,(b)公園・緑地などの公共空地,(c)上下水道などの供給または処理施設,(d)河川,運河など,(e)学校・図書館など教育文化施設,(f)病院・保育所など医療または社会福祉施設,(g)市場,と畜場,火葬場,(h)一団地の住宅施設(1ha以上かつ50戸以上),(i)一団地の官公庁施設,(j)流通業務団地,(k)その他の施設があり,それぞれの種類,名称,位置,区域などを都市計画に定める。(5)市街地開発事業には土地区画整理事業(土地区画整理),新住宅市街地開発事業,工業団地造成事業,市街地再開発事業(都市再開発),新都市基盤整備事業,住宅街区整備事業の6種類がある。(6)市街地開発事業等予定区域には,新住宅市街地開発事業,工業団地造成事業,新都市基盤整備事業,20ha以上の一団地の住宅施設,一団地の官公庁施設,流通業務団地のそれぞれに予定区域を定めることができる。この区域については施行予定者を定めて3年以内に市街地開発事業または都市施設に関する都市計画を定めなければならない。(7)地区計画等には,地区計画と沿道整備計画があり,地区施設や建築物等の詳細な計画を定めて良好な環境の街区を整備し,保全しようとするものである。
市街化区域および市街化調整区域,用途地域など広域的見地から決定すべき地域地区,幹線街路,大規模な公園など広域的または根幹的な都市施設,市街地開発事業などの都市計画は,都道府県知事が定める。一方,地区の生活に密着した地域地区,区画街路,小公園などの都市施設,地区計画などの都市計画は,市町村が定める。都道府県知事または市町村が都市計画の案を作成しようとする場合,必要に応じて公聴会の開催など住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとされている。また都市計画を決定しようとするときは,あらかじめその旨を公告し,その案を2週間公衆の縦覧に供することになっており,住民および利害関係人はこの案に対し意見書を提出することができる。都道府県知事が都市計画を決定するときは関係市町村の意見をきき,かつ都道府県に置かれる都市計画地方審議会の議を経なければならない。この場合,前述の意見書の要旨を審議会に提出しなければならない。また一定の条件のものについては建設大臣の認可を受けなければならない。市町村が都市計画の決定をしようとするときは都道府県知事の承認を受ける必要があり,知事はこの際,あらかじめ都市計画地方審議会の議を経なければならない。こうして決定された都市計画は告示され,その関係図書は一定の場所で公衆の縦覧に供される。
市街化区域または市街化調整区域内において開発行為(主として建築物の建築の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更)をしようとする者は,あらかじめ都道府県知事の許可を受けなければならない。都道府県知事はその開発行為が都市計画に適合し,道路や排水施設等が許可基準に達し,公共施設の管理者などの同意を得ているものは,許可をしなければならない。ただし市街化区域内では,1000m2未満の開発行為については許可を要しない。市街化調整区域では農家の建築などは許可を要しないが,その他の開発行為は市街化区域内で行うことが困難または不適当なものを除き,許可を受けられない。ただし20ha以上のまとまった開発行為で,計画的な市街化を図るうえに支障がないと認められ,開発審査会(都道府県に設置され,委員7人によって構成される)の議を経たものは特例として許可されることになっている。地域地区の都市計画については,それぞれの根拠法に基づいて,建築物の建築の制限が行われる。都市計画施設の区域または市街地開発事業の施行区域内において建築物の建築をしようとする者は,都道府県知事の許可を受けなければならない。またとくに都道府県知事が指定した区域内では,建築物の建築を制限し,公共団体による土地の買取りおよび先買いを行うことができる。
都市計画事業は都市計画施設(都市計画に定められた都市施設)の整備に関する事業および市街地開発事業をいう。都市計画事業は市町村が都道府県知事の認可を受けて施行する。また,都道府県や国の機関,特別な場合には民間の事業主体も特許を受けて事業を施行することができる。都市計画事業については土地収用法が適用されるが,その結果として生活の基礎を失う者に対し,事業の施行者は事情の許す限り,生活再建の措置を講ずることとされている。地方公共団体の場合,都市計画事業の財源は地方公共団体の一般財源と国庫支出金,事業収入,起債などによってまかなわれている。市町村については目的税としての都市計画税の制度がある。また,都市計画事業によって著しく利益を受ける者があるとき,その利益の限度において,事業費の一部を負担させる受益者負担金の制度がある。
→都市計画
執筆者:日笠 端
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…前者は傾斜地または悪い土質の地域に限られた単なる災害防止のねらいしかなかったが,後者は,住宅地として必要な道路・広場など宅地開発に伴う居住環境整備のために必要な規制を行い,適用対象規模が1ha以上と比較的まとまった開発に限られたものの,ここにおいて一般の民間宅地開発における〈宅地〉と〈素地〉との区分を明確化し,〈宅地〉を〈都市〉の環境整備の一環として位置づけることになった。
[都市計画法による規制]
このことをさらに発展させたのが都市計画法(1973)による〈線引き〉と〈開発許可制度〉である。この法律は,都市計画を定める対象となる都市計画区域を指定すること,その区域をさらに市街化区域(すでに市街地を形成している区域,およびおおむね10年以内に優先的に市街化を図るべき区域)と市街化調整区域(市街化を抑制する区域であり,原則として開発行為は20ha以上の計画的な優良な宅地開発に限られる)とに区分した。…
…日本の市町村では地方自治法に基づいて,総合的かつ計画的な行政の運営を図るため,議会の議決を経てその地域における基本構想を定めなければならない(地方自治法2条5項)。また,市町村が定める都市計画は,上記の基本構想に即したものでなければならない(都市計画法15条3項)。しかし,中央集権的行政機構や行政の縦割りの支配的な現状では,総合的かつ計画的な行政運営は十分であるとはいえない。…
※「都市計画法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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