ビッグ・バン宇宙初期の高温高密度時代の名残(なごり)の電磁波の放射。宇宙空間を一様かつ等方的に満たし、スペクトルは絶対温度2.73度(2.73K(ケルビン))の黒体放射で与えられる。単に宇宙背景放射(あるいは輻射(ふくしゃ))、3K放射、英語の略称としてCMBとよばれることもある。
1948年、ガモフは宇宙が灼熱(しゃくねつ)の火の玉状態から生まれ、宇宙が膨張しながら冷えていく途中、元素や星や銀河ができたというビッグ・バン宇宙論を提唱し、初期宇宙の熱平衡時代の名残(なごり)の電波放射が宇宙を満たしていると予言した。1965年ベル研究所のペンジアスとR・W・ウィルソンは、アンテナのテスト中に予想されるノイズレベルよりも桁(けた)違いに大きく、どうしても起源のわからない成分が存在することを発見した。それはどの方向を見ても一定で時間的にも変化しないので、宇宙がもっている固有のものであるとしか解釈のしようのないものであった。しかもその大きさは、絶対温度2.7Kの黒体放射のそれと一致していた。黒体放射とは熱平衡にある物体から出される光などの放射のことであり、これはかつて宇宙が高温高密度の熱平衡状態にあり、宇宙膨張によって冷却したことを示す証拠である。
宇宙マイクロ波背景放射が一様・等方にみえる座標系は、膨張宇宙の基準となる座標系を与えることになるが、太陽系からの観測では、太陽系の運動によるドップラー効果によって1000分の1程度の一方向(双極子型)非等方性が観測される。その成分を取り除くと天球上の温度分布はきわめて等方的であることが観測的に知られており、温度の高いところと低いところのずれを有意に観測したのは1992年のCOBE(コービー)衛星が初めてで、その値は数百マイクロ度、すなわち宇宙の温度はどの方向を見ても4桁の精度で等しく、相対的な非等方性の値は10万分の1程度に過ぎないことが明らかになった。これは宇宙背景放射によって観測された現在の宇宙が至るところ同じ状態にあることを示しており、われわれの宇宙において宇宙原理が成り立っているなによりの証拠であるといえる。
今日観測される宇宙マイクロ波背景放射の非等方性は、ビッグ・バン直後の高温高密度時代のイオン化したプラズマ状態から、温度が低下し自由電子が水素原子に束縛され、宇宙が中性化した時(宇宙の晴れ上がり、ビッグ・バン後38万年ころ)の宇宙の非一様性の情報と、その後の宇宙を自由運動し、地球に到達するまでの宇宙の曲率や膨張史の双方の情報を含んでいるため、その角度パワースペクトル(二方向の温度差を、その見込む角度の逆数で特徴づけた統計量)を解析することにより、宇宙膨張率を表すハッブルパラメータ、各種密度パラメータ等の宇宙論パラメータの値や初期密度ゆらぎのスペクトルと振幅を測定することができる。2003年にWMAP(ダブリューマップ)衛星はそれを実現し、宇宙年齢が約137億年であることを初めて明らかにするなどの成果をあげ、宇宙の進化が宇宙項入りコールドダークマター(冷たい暗黒物質)モデルと整合的であることを示した。さらに2013年プランク衛星は偏光の観測を含むより高精度な観測を行い、これを再確認するとともに、宇宙年齢の推定値を約138億年とした。
[横山順一 2017年4月18日]
(谷口義明 愛媛大学宇宙進化研究センターセンター長 / 2008年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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