電波天体(読み)でんぱてんたい

日本大百科全書(ニッポニカ)「電波天体」の解説

電波天体
でんぱてんたい

電波を放つ天体。初期には「電波星」「ラジオ星」ともよばれていたが、宇宙において強い電波を放つ主要な天体は、実は恒星ではない。恒星も弱い電波を放ち、とくにその形成期と老年期において特異なメーザー電波を発することが知られているが、電波望遠鏡で観測されるおもな電波天体は、銀河系内の低温の星間分子雲や星形成領域、高温の散光星雲、超新星の爆発の跡、遠方の特異銀河クエーサーなど、光では見えないか、あるいはかすかにしか見えない天体が多い。電波で見た宇宙がそれまでの光で見た宇宙を大きく塗り替えたのは、このためである。

[海部宣男 2017年7月19日]

電波の発生メカニズム

電波は、電磁波のなかでもっとも波長が長い(すなわち低周波数の)領域を占める。電磁波のエネルギーは周波数の二乗に比例するので、電波はもっとも低エネルギーの電磁波であるといえる。したがって自然界における電波の発生は、可視光に比べて低温・低エネルギーの領域においておこることが多い。

 宇宙における電波の発生メカニズムは、さまざまな温度のガス体が温度に応じて放つ熱的放射と、高速の荷電粒子(宇宙線)が磁場と作用して放つ非熱的電波(シンクロトロン放射)とに大別される。

 熱的放射には、原子や分子の内部状況の変化に応じて放射される波長が定まった電波(線スペクトル)と、高温プラズマが放つ波長範囲が広がった電波(連続スペクトル)とがある。線スペクトル電波は、高温ガス雲中で原子の電子状態変化によって放たれる可視光の線スペクトルと異なり、10~100Kという低温のガス雲における分子の回転など、ごく小さな内部エネルギー変化にかかわるものである。したがって、おもに高温のガス体である恒星を見る可視光とは対照的に、電波の線スペクトルは宇宙空間に漂う低温で暗黒のガス雲を観測するのに都合がよい。

 非熱的放射は、高エネルギーの粒子すなわち宇宙線を大量に生み出す宇宙特有の大規模爆発に関連して観測される。しかしここでも電波のエネルギーの低さが重要である。すなわち、爆発で生じた高エネルギー粒子は、初めX線や可視光など高周波数の電磁波を放つが、粒子はすぐにエネルギーを失って低周波の電波しか放てなくなってしまう。爆発後、X線や可視光が消え去っても長い時間にわたって電波が放出されるため、こうした現象は電波によって容易に観測することができるのである。

[海部宣男 2017年7月19日]

熱的電波源

熱的電波を放つ天体のおもなものについて述べる。

(1)月・惑星 固体状の小天体である月や惑星は、その温度(100~数百K)に応じ赤外線から電波にかけての波長で熱放射を発する。もちろん、地球も例外ではない。

(2)中性水素原子雲(HⅠ領域) 低温で電気的に中性の水素原子は、波長21センチメートルの線スペクトル電波を発する。宇宙の物質の90%(個数密度比)は水素であり、この21センチ波の観測で、宇宙空間にあまねく分布する低温で希薄な中性水素原子雲(HⅠ雲)の存在が明らかになった。また中性水素原子雲の観測から、銀河系の渦巻構造や運動が明らかにされた。

(3)星間分子雲 中性水素原子雲より高密度で、さらに低温の星雲は、その中に含まれるさまざまな分子・化合物の放つ線スペクトル電波で観測され、星間分子雲とよばれる。波長が短い電波であるミリ波領域では、さまざまな分子から放射される分子スペクトル線が知られており、一酸化炭素・アンモニア・青酸などから、地上では知られていない多様な有機分子までが発見されている。

(4)星の形成領域 星間分子雲は、分子ガスとともに微小なシリケイト・氷などの固体粒子(ダスト)も含み、それらが可視光を遮るため背景の星の光を隠して暗黒に見えるので暗黒星雲ともよばれ、光学望遠鏡では内部を見ることができない。電波と赤外線の観測から、星間分子雲=暗黒星雲が恒星を生み出す直接の材料であり、多くの恒星が星間分子雲の中で生まれつつあることが明らかになった。生まれようとしている恒星(原始星)は激しくガスを吹き出すため、その存在を知ることができる。また恒星の形成に従って惑星も生まれ、その母体となる原始惑星状星雲も、重要な分子電波源である。

(5)HⅡ領域 いわゆる散光星雲である。大質量の星が生まれると、強い紫外線を放って周囲の分子雲ガスを熱してプラズマとし、光と連続波電波を放つ。中性水素原子(HⅠ)の雲に対して、分子雲の主成分である水素分子が高温の電離水素(HⅡ)となるため、この名がある。

(6)年老いた星 星が進化して赤色巨星となると、膨れ上がった外層大気はさまざまな分子や個体微粒子を生成しつつ宇宙空間へ流れ出す。その膨張していくようすは、メーザーを含む各種分子の線スペクトル電波などで観測されている。

(7)銀河系 恒星、水素原子雲(HⅠ雲)、分子雲などの巨大な集合がわれわれの銀河系である。光では見通せない銀河系全体やその中心部の現象は、水素原子の21センチ波、分子スペクトル線、高温プラズマの熱的電波などさまざまな電波の観測や、赤外線放射によって調べられている。

(8)銀河 さらに遠方の銀河の構造と運動も、可視光、赤外線に加えて21センチ波や分子スペクトル線などで観測される。楕円(だえん)銀河は通常、ガスをほとんどもたないため、電波での観測は困難である。

(9)宇宙背景放射(宇宙黒体放射) 138億年前のビッグ・バン(火の玉)宇宙の名残(なごり)の電波も、もとは高温プラズマの熱的放射が冷却して3Kまで下がり、ミリ波を中心とする熱的電波として観測されるものである。

[海部宣男 2017年7月19日]

非熱的電波源

非熱的電波を放つおもな天体について述べる。

(1)太陽 太陽は表面から高温プラズマによる熱的電波も放つが、磁場の活動に起因する黒点に伴う爆発(フレア)のシンクロトロン放射は強い変動電波源である。

(2)超新星 大質量星が不安定となって爆発し、飛散する超新星現象は、爆発後、10万年にもわたって広がり続ける衝撃波を残す。衝撃波がつくりだす強い磁場によってシンクロトロン放射が放たれるが、そのような衝撃波が270個以上、電波望遠鏡によってみいだされている。

(3)パルサー 周期1ミリ秒から10秒程度に及ぶ、きわめて正確な繰り返し電波(パルス)を発する天体である。実体はつぶれてしまった星すなわち中性子星で、強力な磁場をもち電波のビームを放ちつつ高速で自転しているため、非熱的電波のビームが地球を照らすとパルスが観測される。これまでに2300個以上が、われわれの銀河系内でみつかっている。

(4)電波銀河 非常な遠方にありながら強い電波が観測される電波銀河は、その中心に存在する超大質量できわめて小さな天体すなわち巨大ブラック・ホールを主体とする銀河中心核が、超高エネルギー粒子を放出していると予想されている。粒子の流れはしばしば10万光年を超える長大なものとなり、それが発するシンクロトロン放射が「宇宙ジェット」として観測される。また、中心部やほかの銀河との衝突で星の形成が爆発的におこっている活動的銀河もあり、これも電波銀河として観測される。

(5)クエーサー 電波銀河よりさらに遠方、100億光年を超える距離まで分布し、非常に強力なエネルギーを放出している。その正体は長い間不明だったが、本質的に電波銀河の中心核と同様のものと考えられるに至った。電波で宇宙ジェットを伴って見える点も電波銀河と同様で、このような現象は超巨大なブラック・ホールに物質が大量に落ち込むことで生じると解釈されている。

[海部宣男 2017年7月19日]

『海部宣男著『銀河から宇宙へ』(1972・新日本出版社)』『赤羽賢司・海部宣男・田原博人著『宇宙電波天文学』(1988/復刊・2012・共立出版)』『中村直正他編『宇宙の観測2 電波天文学』シリーズ現代の天文学16(2009・日本評論社)』


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デジタル大辞泉「電波天体」の解説

でんぱ‐てんたい【電波天体】

強い電波を放射している天体の総称。1970年代初頭以前には電波星またはラジオ星と呼ばれていた。電波望遠鏡で観測される主な電波源として、銀河系内の散光星雲超新星残骸星形成領域パルサーのほか、銀河系外の遠方にある電波銀河クエーサーなどの特異銀河がある。低温の中性水素原子の線スペクトルや星間分子が放つ分子スペクトルは熱的放射と呼ばれる。また、超新星やパルサーの磁場、クエーサーや電波銀河のジェットによるシンクロトロン放射は非熱的放射と呼ばれ、高エネルギーの粒子が存在すると考えられている。電波源。電波星。ラジオ星。

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世界大百科事典内の電波天体の言及

【電波星】より

…電波を発する天体の総称。電波天体ともいう。現在まで3万個近くが見つかっている。…

※「電波天体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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