実念論(読み)じつねんろん(英語表記)realism

翻訳|realism

精選版 日本国語大辞典 「実念論」の意味・読み・例文・類語

じつねん‐ろん【実念論】

〘名〙 西洋中世スコラ哲学で、個物のみを実在とする唯名論に対して、類・種のような普遍が実在であると主張する説。この説は二様に分かれる。一方は、普遍は個物に先だって原型として存在し、個物は普遍の模写としてのみ存在すると主張するプラトン風の実在論であり、その主な哲学者アンセルムスエリウゲナである。他方は、普遍は個物から離れて存在するのではなく、個物の中に実在すると主張するアリストテレス風の実在論である。実在論。概念実在論。〔新しき用語の泉(1921)〕

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デジタル大辞泉 「実念論」の意味・読み・例文・類語

じつねん‐ろん【実念論】

中世スコラ学における実在論カトリック教会要求に合致した観念論で、プラトンイデア論を継承し、普遍は個物に先立って実在すると考える立場リアリズム。→普遍論争

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改訂新版 世界大百科事典 「実念論」の意味・わかりやすい解説

実念論 (じつねんろん)
realism

実在論の最初の中世的形態。概念実在論ともいい,普遍的概念の実在性を主張する。類,種,種差などの〈普遍universalia〉は,個物から独立し,〈個物に先立ってante rem〉実在すると説く,広義のプラトン主義的実念論が典型。個物のみ実在すると説く唯名論がこれに対立する。のち,普遍は〈個物においてin re〉のみ実在すると説く,ゆるやかなアリストテレス的実念論が登場した。前者はエリウゲナ,アンセルムス,シャンポーのギヨームらが,後者はラ・ポレのジルベール,ソールズベリーのヨハネス,トマス・アクイナスらが代表。実念論は20世紀初頭,桑木厳翼訳語として採用し,明治40年代からほぼ定着した。
実在論
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「実念論」の意味・わかりやすい解説

実念論
じつねんろん
realism

観念実在論の略。イデアを真実在として具体的個物の世界をその影とみたソクラテス=プラトンのイデア論に発し,中世の普遍論争において普遍者は個物に先立って実在するとする立場として定着。中世後期には衰えたが,近世でもたとえばマルブランシュは実念論者である。 (→実在論 )  

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「実念論」の意味・わかりやすい解説

実念論
じつねんろん

普遍論争

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世界大百科事典(旧版)内の実念論の言及

【概念】より

… 概念が前述のように目で見,手で触れることのできない非心理的で非経験的な対象であることから,経験的な個物,個体に対してその存在論的性格をどのように考えるかについては古来さまざまに論じられ,とくに中世では普遍論争という大論争をひき起こした。そして,普遍概念に対しては,まず,普遍が個物と同様に,むしろ個物に先立って存在すると考える実念論の立場が挙げられる。実念論のうちには普遍概念が経験的個物を超越して存在するイデアであると考えるプラトン的方向と,それを自然の中や間に実在する生物学的な種や類とみなすアリストテレス的傾向が類別される。…

【ギヨーム・ド・シャンポー】より

…ランのアンセルムスとロスケリヌスに学び,1095年以後ノートル・ダム聖堂付属学校で教えた。彼の名は中世の普遍論争史に記録されるが,それは12世紀初期の極端な実念論を代表したため,弟子のアベラールによって徹底的に攻撃されたことである。すなわち,最初は同じ種に属する個物はみな実体的に同一であるとの説をとっていたが,それはつきつめれば汎神論になるのではないかとの批判を受けて,同一とは本質のことではなく差別がないという意味だとこたえ,いわゆる無差別説を主張した。…

【実在論】より

…訳語は明治初期の実体論,実有論を経て,ほぼ20世紀初頭に実在論として定着。中世の普遍論争において,類や種などのカテゴリーすなわち普遍概念を〈実在的なものrealia〉とみなす実念論(概念実在論)者realen,realistaと,個々の事物の実在性を認め普遍的概念は〈声vox〉〈名nomen〉に過ぎぬとする唯名論(名目論)者nominalenとの対立があり,最初の実在論はこの実念論に当たる。一般には,言葉や観念・想念に依存せず独立に存在する外界の事物の実在性を把握する立場を指す。…

【写実主義】より

…リアリズム,レアリスムなどの西欧語は,使用分野や意味に応じてそれぞれに訳し分けられて日本に導入された。原語はラテン語のレアリスrealis(実在の,現実の)から派生した言葉だが,哲学用語としてはふつう〈実在論〉と訳され,概念こそが実在であると主張する中世の哲学説はとくに〈実念論〉とも訳される。さらに,一般には〈現実主義〉といった訳語も用いられるが,文学や美術などの分野では〈写実主義〉という訳語があてられている。…

【普遍論争】より

…普遍universalia(類と種)は自然的実在であるか,それとも知性の構成物にすぎないかをめぐって行われた中世哲学最大の論争。前者の主張を実念論(欧語は実在論と同一だが近代の観念論に対するそれと区別して概念実在論,略して実念論と称することが多い),後者の主張を唯名論と呼んでいる。この問題はプラトンとアリストテレスのイデア理解の相違にさかのぼるが,古代哲学においては一般に認識は対象を離れてはなく,論理学が形而上学から独立することがなかった。…

※「実念論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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