精選版 日本国語大辞典 「唯名論」の意味・読み・例文・類語
ゆいめい‐ろん【唯名論】
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普遍の存在に関する哲学上の説の一つであり、名目論、ノミナリズムという語があてられることもある。この語の由来であるラテン語のnominales(「名称、名称的な人たち」、つまり「名称、名称」と言いたてる人たち)はアベラールの一派につけられた呼称である。唯名論という呼称は、多くの個物(たとえば、複数の人間)に対して一つの名称(たとえば「人間」)が対応しているときに、この多くのものに対して共通であるという性格(この性格を帯びる存在者が普遍)はものの側にではなく、ただ名称nomenの側にのみあるとする主張に由来する。したがって、この立場は、このような性格の存在者をなんらかのものresの側に認める普遍実在論(英、realism)と対立し、ものとして存在するのは個物のみだと主張する。
唯名論の先駆者と目される11世紀のロスケリヌスは普遍を「音声の流れ」としたといわれるように、まずは、音声voxとして発せられる名称が多くの個物に共通のものであるという立場が成立したと思われる。
このような音声に普遍を帰する立場から出発したアベラールは、ものと音声としての名称という素朴な唯名論の枠組みを脱して、音声が聞く者に理解を生じさせるという表示significatioの場面を深く考察し、単なる音声ではなく、理解ないし概念を表示する機能を帯びた音声であることばsermoないし名称nomenが普遍であるとした。
その後、14世紀前半のオッカムは概念が普遍であるとしたが、その概念はことばであって、ものの自然的な記号にほかならない。アベラールやオッカムは概念論に近い主張とみられることもあるが、両者とも結局、ものではなくことばの側に普遍を帰する立場であり、より洗練された唯名論の主張を代表する。やがて、この立場はホッブズを経てイギリス経験論の哲学に引き継がれ、今日でもことに英米系の分析的な哲学において有力な傾向となっている。
唯名論はことばの側にのみ普遍を認めるとはいえ、ではなぜある範囲の個物がひとまとめにされて一つの名でよばれるのかという点については、極端な唯名論の立場をとらない限り、人間のまったく恣意(しい)的な営みによる(規約による)とまでは主張せず、ものの側に分類のなんらかの原因を認めざるをえない。普遍実在論にならずにその点を説明しきれるかどうかに、唯名論の成否はかかっている。
[清水哲郎]
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実在論に反対の立場。中世スコラ哲学における「普遍論争」で「普遍は個物の後につくられる」とし,「名のみ」のものとした。したがって実在するものは個物であり,これをキリスト教哲学に取り入れると,神は個的な無限者となる。11世紀のロスケリヌス,アベラルドゥスがこの立場をとり,実在論と争った。ドゥンス・スコトゥス,オッカムに至って近世的経験論につながる。
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…伝えられるところでは,皇帝と初めて対面したオッカムは〈皇帝陛下,陛下が剣で私を守って下さるなら,私はペンで陛下をお守りします〉とのべたとされるが,以後20年間のオッカムの論争活動はこの言葉に集約されている。オッカムは第一かつ根本的に神学者であり,彼の思想のいわゆる経験論,唯名論および主意主義などの側面は,神の絶対的な超越性を確立し,神以外のすべての実在の根元的な偶然性を示そうとする試みに対応するものである。他方,彼が信仰と理性の分極化に拍車をかけ,この二者の統合の上に築かれていたスコラ学の崩壊を早めたことは否定できない。…
…実念論のうちには普遍概念が経験的個物を超越して存在するイデアであると考えるプラトン的方向と,それを自然の中や間に実在する生物学的な種や類とみなすアリストテレス的傾向が類別される。これに対して,抽象概念とは人間の心の対象としてのみ存在する概念にすぎないとみる概念論の立場や,さらに,実在するのは個物だけで抽象的普遍とは単なる名前であると考える唯名論があり,三つの見地が鼎立(ていりつ)する。一般に,中世正統派や理性論的傾向の哲学は実念論的であり,イギリス古典経験論を一例とする経験主義の哲学では概念論,とくに唯名論的性格が顕著である。…
…生涯を通して学芸学部で活躍し,アリストテレスのほとんどすべての著作について〈注解〉や〈問題集〉を著したが,神学にはほとんど関心を示すことはなかった。オッカムの提唱した唯名論の立場を批判的に継承・発展させ,主として自然哲学の分野で優れた研究を行うとともに,ニコル・オレーム,ザクセンのアルベルトのような逸材を育成して,パリ学派と呼ばれる学統の創始者となった。彼の科学的達成としてまず第1に挙げられるのは,アリストテレスの投射運動論をまっこうから批判して,動者から動体に直接こめられるインペトゥスimpetus(勢い)という力学的概念を新たに導入したことである。…
…普遍universalia(類と種)は自然的実在であるか,それとも知性の構成物にすぎないかをめぐって行われた中世哲学最大の論争。前者の主張を実念論(欧語は実在論と同一だが近代の観念論に対するそれと区別して概念実在論,略して実念論と称することが多い),後者の主張を唯名論と呼んでいる。この問題はプラトンとアリストテレスのイデア理解の相違にさかのぼるが,古代哲学においては一般に認識は対象を離れてはなく,論理学が形而上学から独立することがなかった。…
※「唯名論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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