家庭に関する事件について、家庭裁判所に設けられる調停委員会または裁判官が仲介して、当事者(申立人・相手方)の合意による紛争解決を図ることを目的とする手続。
[伊東俊明 2016年5月19日]
家族関係は、人の生活の拠点であるとともに社会を構成している基本的な単位であるから、その平和と安定はきわめて重要であり、国家もそれについて重大な関心を有している。したがって、これらの関係をめぐる紛争は適切に解決されなければならない。そのために、家事事件手続と民事訴訟手続という制度が設けられている。しかし、家族・親族の関係は、当事者にとっては第三者には知られたくないプライバシーに関することが多く、そのうえ長期にわたって継続する関係でもある。そこで、公開の法廷で争うのは避けたほうがよい、あるいは、訴訟で法律を適用して権利義務の存否を確定すると、紛争は解決するかもしれないが、当事者間にしこりが残りその後の関係に禍根を残しうるため、できるだけ当事者の納得を得たうえでの紛争解決を図ったほうがよい、というのが、家事調停制度を設けた趣旨である。
[伊東俊明 2016年5月19日]
家事調停は、原則として、調停委員会が行う。家庭裁判所が相当と認めたときは、裁判官または家事調停官だけで調停を行うことができる(単独調停)。もっとも、当事者が調停委員会による調停を求めたときは、単独調停をすることはできない。
調停委員会は、裁判官または家事調停官のいずれか1人と家事調停委員2人以上によって構成される。家事調停委員は、(1)弁護士となる資格を有する者、(2)家事紛争の解決に有用な知識を有する者(公認会計士、税理士、司法書士など)、(3)社会生活のうえで豊富な知識経験を有する者で、人格見識の高い40歳から70歳の者のうちから、最高裁判所が任命する、非常勤の国家公務員である。なお、家事調停委員の知識経験を家事調停手続で有益に活用するための制度として、その調停委員が直接担当していない事件についても、他の調停委員会の求めに応じて専門的知識経験に基づく意見を聴取する制度が設けられている。
[伊東俊明 2016年5月19日]
家事調停の対象となるのは、(1)家事事件手続法の別表第2に掲げる事項についての家事審判事件、(2)人事訴訟法第2条に規定する人事訴訟事件(離婚・離縁の訴えを除く)、(3)離婚・離縁および民事訴訟をすることができる家庭に関する事件、(4)その他家庭に関する事件(審判・訴訟の対象とはならない事件)である。
(1)は、具体的には、夫婦間の協力扶助に関する処分、親権者の指定または変更、扶養の順位の決定およびその決定の変更または取消し、遺産の分割、寄与分を定める処分などに係るもので、比較的公益性が低く、当事者が自らの意思によって自由に処分することのできる権利または利益に関する事項に係る事件である。家事調停が不成立になった場合には、家事審判に移行する。家事事件は、家事調停の手続と家事審判の手続のいずれからでも開始することができ、どちらの手続によるかは、申立人の選択に委ねられている。申立人が家事審判の申立てをして、その手続が開始した場合であっても、裁判所は、当該事件を調停に付することができる(家事事件手続法274条)。それに対して、申立人が家事調停の申立てをして、その手続を開始したが、調停が不成立になった場合には、家庭裁判所は、「調停に代わる審判」をすることができるが(同法284条1項)、「調停に代わる審判」に対して適法な異議があると、それは効力を失い(同法286条5項)、事件は審判手続に移行することになる(同法286条7項)。
(2)は、具体的には、認知、認知の無効・取消し、嫡出否認、親子関係不存在確認の訴えに係る事件である。公益性が強く、当事者の意思に基づく解決が許容されていない事件類型であるが、身分関係の形成・確認を対象としているため、いきなり公開の訴訟手続によるよりも、非公開の調停手続を利用して、当事者間の合意を前提とする簡易な手続で処理することが望ましいということができる。そのため、このような事件については、訴訟を提起する前に、家事調停の申立てをしなければならない(「調停前置主義」と称される)という規律が採用されている(家事事件手続法257条1項)。家事調停の手続において、当事者間に申立ての趣旨どおりの審判を受けることについて合意が成立し、身分関係の形成・存否についての原因事実に争いがないことが確認された場合には、家庭裁判所は、必要な事実の調査をしたうえで、「合意に相当する審判」をすることができる(同法277条)。なお、調停の申立ての趣旨どおりの裁判(判決)を望むのであれば、訴訟(人事訴訟)を提起することになる。
(3)は、具体的には、離婚・離縁、不貞に基づく慰謝料、親族間の貸金返還請求、遺留分減殺請求等の訴えに係る事件である。これらの類型の事件も、できるだけ話合いによる解決をすることが望ましいと考えられるため、調停前置主義が採用されている。家事調停の手続において、調停が成立しない場合には、改めて訴訟を提起しなければならないが、裁判所は、調停が不成立になったときに、「調停に代わる審判」をすることができる(同法284条1項)。「調停に代わる審判」に異議がないか、異議の申立てを却下する審判が確定したときは、「調停に代わる審判」が確定するが(同法287条)、適法な異議があれば、それは効力を失うことになる(同法286条5項)。
(4)は、具体的には、婚姻予約の履行を求めるなど、当事者の任意の行為に期待するほかない事件(裁判の対象とはならない事件)である。家事調停の申立てをし、それが不成立になった場合には、他の裁判手続を利用することはできない。
[伊東俊明 2016年5月19日]
人事訴訟にあたる事件や一般に家庭に関する事件,たとえば夫婦間,親子間ないし親族間の紛争について家庭裁判所が行う調停。家事審判法に規定されている。裁判官である家事審判官1名と,民間人から選出された家事調停委員2名以上からなる調停委員会が,非公開でこれにあたるのが原則であるが,家事審判官だけで行う場合もある。家事審判法は調停前置主義(民事訴訟を提起する前に調停手続を必要とする制度)の原則を規定しており,人事訴訟手続法に明文規定のある地方裁判所に訴訟を提起することができる事件(離婚,嫡出否認,認知など),および同法には規定はないが同じく人事に関する事件(親子関係存否確認,相続回復など),その他一般に家庭に関する事件は,訴訟の前に原則として家庭裁判所の調停を経由しなければならない。調停の申立ては書面もしくは口頭ででき,その費用は900円と若干の通信費にすぎない。調停で当事者が納得のいく話合いの結果合意に達し,それが調書に記載されると調停は成立し,確定判決と同一の効力をもつ。ただし,家族法上の身分関係の創設,解消をめぐる事件については対世的(世間一般の人々に対しても通用するの意),画一的に決定されることが社会的に要請されるので,合意に相当する審判によらねばならない(〈家事審判〉の項参照)。調停で決められても,その決定事項が遵守されないケースが多かったため,煩瑣で費用がかかり,心理的にも好まれない強制執行とは別に履行を確保する手続が望まれ,1956年に〈履行確保〉制度が設けられた。すなわち,家庭裁判所は権利者の申立てに基づき,義務の履行状況を調査して〈履行勧告〉をすることができ,義務者が勧告に応じない場合,権利者の申立てにより〈履行命令〉を出すこともできる。ただし,命令は金銭の支払など裁判所による強制に親しむ事項に限られ,義務者は正当事由なく命令に従わない場合には過料に処せられる。この手続に要する調査費用などは国が負担することになっている。また,調停で金銭支払義務を負った義務者は申立てによって権利者へ直接支払をせず家庭裁判所を介して支払うこともできる。この〈金銭の寄託〉制度は現在家庭裁判所のアフターケアとして広く利用されている。調停での合意成立の見込みがない場合,相手方が調停に出てこない場合は調停不成立となり,当事者は審判もしくは訴訟で争わねばならない。調停に不服の場合も同様である。なお,調停を申し立てた者は調停終了まで申立てを取り下げることができる。
→家庭裁判所
執筆者:南方 暁
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…(e)具体的事情の聞取りは深入りしてはならない,などに注意すべきといわれている。(2)家事調停・家事審判 家庭の争いや問題を自分たちでは解決できない場合,まず家庭裁判所に調停を申し立てることになっている。この調停前置主義は,家庭内の争いの根底には人間の感情などをめぐり複雑な人間関係が存在することが多いので,これは,裁判所の裁決によるよりも話合いにより感情的対立を和らげ,自主的に解決するほうが適切であるという理由からとられている。…
※「家事調停」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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