民事訴訟のうちで、とくに民法親族法によって規律される身分関係についての紛争を解決するための、身分関係の確認・形成を目的とする訴訟をいう。これらの訴訟手続は、民事訴訟法の特別法である人事訴訟法(平成15年法律第109号)によって規律される。
旧人事訴訟手続法(明治31年法律第13号)にとってかわった現行法では、人事訴訟の第一審の管轄が地方裁判所から家庭裁判所に改められたこと、参与員が審理に関与できることをはじめとして、手続の整備が図られた。
人事訴訟(人事に関する訴え)とは、婚姻の無効および取消しの訴え、離婚の訴え、協議上の離婚の無効および取消しの訴えならびに婚姻関係の存否の確認の訴え(人事訴訟法2条1号)、嫡出否認の訴え、認知の訴え、認知の無効および取消しの訴え、父を定めることを目的とする訴えならびに実親子関係の存否の確認の訴え(同法2条2号)、養子縁組の無効および取消しの訴え、離縁の訴え、協議上の離縁の無効および取消しの訴えならびに養親子関係の存否の確認の訴え(同法2条3号)である。
これらの訴訟も民事訴訟であるから、対立当事者の存在が必要であるし、原告の訴え提起によって手続は開始されるし、その審理は訴訟物の範囲に限定される。しかし、人事訴訟では種々の特性がある。たとえば、通常の民事訴訟では、当事者となるべき者(当事者適格)が法律によって特定されているのはまれであるが、人事訴訟では、原則としてそれは特定されている(人事訴訟法12条1項、41条~43条)。また、検察官の手続関与(同法23条)や利害関係人の訴訟参加が認められている(同法15条)。
人事訴訟においては、訴訟能力は制限されないし(同法13条1項)、請求の認諾・放棄、訴訟上の和解などに関する民事訴訟法の規定は適用されない(人事訴訟法19条。ただし、離婚の訴えおよび離縁の訴えについては同法37条、44条)。また、通常の民事訴訟の審理においては弁論主義がとられているが、人事訴訟の対象となる身分関係については、当事者の弁論だけに任せるのは適当でなく、裁判所の職権によって真相を究明し、その結果なされた判決には対世的効力を生じ(同法24条)、訴訟の当事者だけでなく第三者をも拘束する必要がある。そのため、人事訴訟では、基礎資料を収集し、当事者の主張しない事実を判決の基本として斟酌(しんしゃく)することができる職権探知主義がとられている(同法20条)。
婚姻関係訴訟については、附帯処分およびその履行の確保などにつき特則が設けられ(同法31条以下)、実親子関係訴訟については、その当事者適格などにつき特則が設けられている(同法41条以下)。
[内田武吉・加藤哲夫]
身分関係上の紛争を処理する民事訴訟。夫婦および親子という身分関係は,経済的利益の追求を主たる目的として生ずる意思的・便宜的な財産関係とは著しく趣を異にする。したがって,これに関する紛争を処理する民事訴訟手続においては,財産関係事件を対象とする通常の民事訴訟とはかなり異なった取扱いをせざるをえない。そのため,日本では人事訴訟手続法(1898公布)という特別法を置き,人事訴訟の対象となる事件の範囲や手続の特則を定めている。
人事訴訟の対象となる事件は,大別すれば,婚姻に関する事件,養子縁組に関する事件,親子に関する事件の3種類である。これをもう少し詳しく分ければ,婚姻に関する事件とは,婚姻無効事件,婚姻取消事件,離婚請求事件,離婚無効事件,離婚取消事件,夫婦関係存否確認事件をいう。養子縁組に関する事件とは,縁組無効事件,縁組取消事件,離縁請求事件,離縁無効事件,離縁取消事件,養親子関係存否確認事件である。親子に関する事件とは,子の否認請求事件,父を定める訴訟事件,認知請求事件,認知無効事件,認知取消事件,親子関係存否確認事件をいう。
財産関係を主体とする通常の民事訴訟(たとえば,貸した金を返せとか,家屋を明け渡せ,損害賠償を払え,とかの訴訟)と対比すると,人事訴訟の特徴は次の2点に要約できる。第1は職権探知主義の採用である。職権探知主義とは,訴訟の審理の主導権を裁判所が握り,とくに審理に必要な資料の収集を当事者に任せきりにしないたてまえである。財産関係事件の場合には,訴訟の対象が私的自治による自由処分を許すものであるため,当事者の意思(請求の放棄・認諾,和解,事実の存否についての自白)や訴訟追行の巧拙(十分な主張立証をするか否か)によって裁判の結果が左右されてもかまわないとされ,裁判のための資料(事実や証拠)ももっぱら当事者が収集・提出しなければならぬとされている(処分権主義,弁論主義)のに対して,身分関係は客観的事実に基づいて対世的に確定されなければならないから,当事者の意思や訴訟追行の巧拙により訴訟の結果が左右されることを認めず,裁判所が積極的に介入して客観的真実を発見すべきものとしたのである。第2の特徴は,全面的解決主義である。全面的解決主義とは,同一身分関係に関する争いを一挙に全面的に解決し,その判決の効力を一般的対世的に拡張することである。財産関係に関する訴訟では紛争はその訴訟当事者間のみで相対的解決が図られるにすぎず,それをもって足りるが,身分関係は社会生活の単位であるから対世的に確定する必要があるところからこの主義が採用されている。
日本では家庭に関する訴訟事件については調停前置主義がとられているから,訴えを提起しようとする者はまず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない(家事審判法18条)。調停手続において調停が成立すれば,訴えの提起は不要となる。調停が成立しない場合でも,離婚・離縁を除く他の人事訴訟事件について,当事者間に合意が成立したときは,調停委員会は,〈合意に相当する審判〉をすることができ(23条),また,人事訴訟事件について当事者間に合意が成立しない場合でも,相当と認めるときは,調停委員会は,〈調停に代わる審判〉をすることができ(24条),この審判は2週間以内に異議申立てがなければ確定判決と同一の効力を有するものとされている(25条)。調停手続において調停が成立せず,合意に相当する審判がなされず,またはその審判が当事者の異議申立てにより効力を失った場合には,当事者が家庭裁判所からその旨の通知を受けた日から2週間以内に訴えを提起したときは,調停の申立てのときにその訴えの提起があったものとみなされる(26条2項)。
執筆者:青山 善充
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