日本大百科全書(ニッポニカ) 「家庭園芸」の意味・わかりやすい解説
家庭園芸
かていえんげい
家庭生活のなかで潤いや楽しみのために行う園芸で、趣味と実益を兼ねて野菜や花卉(かき)類、果物などを栽培することをいう。庭での栽培はもちろんのこと、庭がない場合でも、屋上やベランダあるいは室内などの狭い空間を利用して、生活に緑を取り入れることが、近年静かなブームとなっている。また、市民農園を借りての畑づくりも増えてきている。植物を育て、観賞し、そして収穫することは、できあいのものを買うのとは違った楽しさ、おもしろさがあり、ひいては家庭のだんらんの一つにもなりうるものである。植物には、日当りを好むものや日陰でも育つもの、暑さに弱いものや寒さに弱いもの、土がなくても育てられるものなど種々の性質があるので、環境にあった種類を選ぶことがだいじである。
栽培にあたっては、次のような点に気をつけることがたいせつである。
[堀 保男]
土壌
植物の栽培には、水耕栽培(養液栽培)などの特殊なものを除いて、植物が倒れないように支えるためと、養分や水分を供給するために土が必要である。植物が生育するうえによい土もあれば悪い土もある。よい土とは、肥沃(ひよく)で排水のよい保水性のあるものである。腐植と養分(肥料分)を蓄えている土で、団粒構造をもつものがよい。団粒構造をもった土は、粒子が集まって小さな塊となっているため、通気性と排水がよく、小さな塊の中には毛管孔隙(こうげき)があるので、保水性がある。土質によって肥料の吸着度合いが異なるが、粘土含量が多くなるほど保肥力が増し、粒子の粗い砂などが多くなると保肥力は少なくなる。栽培のための土づくりとしては、よく耕すことである。そして地力保持材として堆肥(たいひ)や腐葉土などの有機物を混入すると団粒化を促すことができる。
わが国の土壌の多くは酸性ないし弱酸性であるが、植物には酸性土壌を嫌うものが少なくない。酸性土壌での生育不良を示すものとしてホウレンソウが有名であるが、そのほかにナス科やウリ科、アカザ科のものなどがあげられる。また、pH7以上のアルカリ土質にすると、微量要素の吸収が悪くなり欠乏症をおこすことがある。一般的にはpHが5.5~7.0のときが生育良好を示す。酸性土壌の改良には石灰などを散布する。同じ土で何年も植物を栽培すると、生育不良になったり収穫が低下する。これを地力の低下とか老化という。原因は、雨水や灌水(かんすい)によって土中の塩基類が溶脱したり、化学肥料の多用による副生物の残存、植物の根から出る有機酸によるものとされている。防止策としては、堆肥や家畜糞(ふん)などの有機物を混入し、あわせて石灰を散布することで、ある程度効果をあげることができる。
[堀 保男]
日照
高等植物は、太陽と大気、水を栄養源として生育に必要な養分をつくる。したがって美しい花やおいしい果実、野菜をつくるためには、日当りのよい場所であることが第一の条件である。
〔1〕夏の日照は、熱帯性の植物の生育を旺盛(おうせい)にするが、逆に冷涼な条件を好む植物にとっては暑さが生育不良の原因となる。根が細く弱い植物は葉から蒸発する量の水を吸い上げられないため、枯死するか鉢物では葉焼けといった現象がおこる。これを防ぐには敷き藁(わら)やビニルシートなどを敷くとよい。鉢物ではよしずや寒冷紗(かんれいしゃ)などで遮光する。ベランダでは、コンクリート床からの輻射(ふくしゃ)熱のために高温となり乾燥が激しいので、簀子(すのこ)やマットを敷く。
〔2〕冬は日照時間が短く日差しも強くなく温度も低下するので、夏に生育旺盛だった熱帯性の植物は呼吸量が減少するため、生育が中断したり緩慢になる。しかし、日照が少なくても、温室や室内の暖かいところで温度管理をすれば、生育を維持することができる。昔から畑地の冬作では、東西に高うねをたて、輻射熱を多く利用して地温を上げるくふうが行われている。ベランダなどでの栽培は、乾燥した寒風に当たると植物が萎縮(いしゅく)するので、灌水は日中に行い、夜間は保温材などで囲うのがよい。
[堀 保男]
灌水
植物体は90%以上が水分とされている。水は植物にとってもっとも重要なもので、そのほとんどを土中から得る。土壌水分は、(1)必要な養分を根から吸収するための手助けをする、(2)地温の調節的役割を果たす、(3)土壌中の微生物を活性化する、などの役割、効果をもっている。昔から、水やり何年ということばがあるように、植物の成長に適した水やりはむずかしく、とくに鉢物では一種の技術とされるほどである。畑地や花壇でも、夏の地温が高いときに灌水すると、根焼けといって水が高温になり根を傷めるので、水やりは朝夕の気温が下がったときに行うなどの注意が必要である。
[堀 保男]
肥料
植物が正常に生育するためには、窒素、リン酸、カリ、石灰、マグネシウムや微量要素など16元素が必要とされる。とくに植物体内での働きから、一般に窒素は葉肥(はごえ)、リン酸は実肥、カリは根肥、石灰は体づくりともいわれる。また、一度に多量の肥料を施しても吸収できないので、生育にあわせて元肥と追肥に分けるのが有効である。なお、微量要素はある程度土中に含まれているので、とくには施肥を要しないが、有機物を施用すると効果は大きい。
[堀 保男]
病虫害
植物に発生する病虫害は、被害が大きくなってからでは手遅れなので、早期に的確な予防と防除をすることがたいせつである。根、幹、葉、花に発生するので、その特徴をつかみ、原因を確かめて、殺虫剤、殺菌剤を、正しい濃度と使い方で散布することがだいじである。
[堀 保男]
『『園芸大百科事典』全13巻(1980~81・講談社)』▽『『ガーデンシリーズ』(1975~・誠文堂新光社)』▽『『園芸ハンドブック』全42巻(1976~84・ひかりのくに)』