引っ越し、転居のこと。九州地方ではワタマシ、中部地方の山間部ではヤワタリというが、いずれも渡るという移動を示す語である。古くはワタマシは神輿(みこし)の渡御(とぎょ)や、貴人の転居をいう尊敬語であった。人だけでなく、家の神も移ると信じていたことがわかる。群馬県勢多(せた)郡ではホド分けといって、本家のホド(かまど)の灰を分けてもらい、新家屋のいろりやかまどの中に入れることをしているが、これは明らかに火の神の移動を示すものである。宮城県では親類縁者が、男女一組になって赤飯を持って祝いにくるという。関東地方では、粥(かゆ)を炊いて家の四隅の柱に供えてから、家財道具を運ぶ所が多い。この粥をヤウツリ粥とかワタリゲエ(渡り粥)といい、塩けのないものであった。粥は粘りけのあるもので、家の定着を願うものであった。
家移りのとき、最初にオモトとか、糠(ぬか)漬け桶(おけ)、みそ桶、臼(うす)と杵(きね)などを運び入れるものだという伝承も多い。あるいは「家繁盛」という唱え言(ごと)をいうのも、いずれも家の永続を願うものであった。伊豆新島(にいじま)で、新築第一夜は、その家の主婦とその仲間が寝泊まりしたというが、家屋は女性の管轄下にあったことを示すものである。
[鎌田久子]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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