家領(読み)けりょう

精選版 日本国語大辞典 「家領」の意味・読み・例文・類語

け‐りょう‥リャウ【家領】

  1. 〘 名詞 〙 家に伝わる所領荘園。家の領地。かりょう。
    1. [初出の実例]「故高倉宮荘園に家政所下文皆悉令成、其詞云、可家領者」(出典殿暦‐嘉承元年(1106)一一月一〇日)

か‐りょう‥リャウ【家領】

  1. 〘 名詞 〙 家の領地。けりょう。
    1. [初出の実例]「代々相伝の家領(カリャウ)を奪ふといへども」(出典:高野本平家(13C前)四)

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改訂新版 世界大百科事典 「家領」の意味・わかりやすい解説

家領 (けりょう)

中世の権門勢家が歴代にわたって伝領した所領・荘園。〈家領〉の語は,平安初期に東寺に施入された伊勢国川合勅旨田が,もと〈従四位下屋部王家領,宝亀四年皇太子伝家領〉であったとされるのが早い例であるが,奈良時代,766年(天平神護2)の越前国田券に〈右大臣家田〉とあるのも同様な存在で,奈良末・平安初期に,王族高官など尊貴の〈家〉が領する初期荘園を,〈何某家領〉と呼んだのがその始まりとみられる。当時の〈権貴の家〉は,家符・家牒など家の文書を発し,家印を用い,家の使いを下して家領を経営した。

 摂関時代以降,王朝貴族の中に御堂流摂関家をはじめとする諸門流とその家格・家風が形成され,それぞれの始祖をもち,持仏堂を中心として結合した氏と家が分立していくが,それとともに氏長者家長に相伝される諸家領が発達した。それらは〈右大臣家領〉〈左大将家領〉〈侍従中納言家領〉〈従二位家領〉など,本主の官職・位階をもってその家をあらわすことが多く,〈権門勢家領〉と総称され,その家政機関である政所がこれを統轄し,家司らを預所等の所職に補任して荘務を執行させた。家領の公験(くげん)文書(公験)は,家の重書として当主みずから秘蔵し,家風を継ぐべき嫡子に譲渡された。現存する1123年(保安4)の中御門右大臣家領越後国小泉荘譲状案には,それが先祖大宮右大臣から家に伝領したこと,吉日をえらんで文書絵図とともに長男中将に譲ること,年貢は諸子平均に配分すること,預人はその勤否に随い定めること,国司が停廃したときは摂関家に上申すること,などが記されている。

 鎌倉初期,1200年(正治2)吉田大納言家領処分状によると,家地・園地を除く同家の荘園13ヵ所は,家領型所領4ヵ所と俸禄型所領9ヵ所に分けられる。家領型所領のうち紀伊国平田荘と安房国郡房荘内広瀬郷の2ヵ所は,家風を継いだ一門長者が累代管領する賀茂経蔵の所領であり,近江国湯次荘は最勝光院に寄進してこれを本所とする家領であった。また俸禄型所領は,本来の家領ではなく,同家が院や摂関家に奉仕することによって俸禄的に給与され知行した荘園所職とみられる。

 家領としてもっとも規模の大きい摂関家領は,中世に至って氏長者領と各摂家領に分離した。摂関・氏長者に直属し,その地位とともに伝領される氏長者領(殿下渡領摂関家渡領(せつかんけわたりりよう))は,はじめ大和国佐保殿,備前国鹿田荘,越前国方上荘,河内国楠葉牧の4ヵ所であったが,のちに氏院(勧学院)領34ヵ所,法成寺領28ヵ所,同末寺19ヵ所,東北院領34ヵ所,平等院領18ヵ所,同末寺11ヵ所が〈摂籙渡荘〉となり,摂関の地位に付随して各摂家の間を渡り動いた。一方,院政期に確立した摂関家領(冷泉宮領,京極殿領,堀河中宮領,高陽院領など)は近衛家領にひきつがれ,またそれとならんで皇嘉門院領を主体とする九条家領その他の摂家領が成立している。
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世界大百科事典(旧版)内の家領の言及

【公家領】より

…平安中期以降,公家社会の階層分化がしだいに進み,さらに摂関家以下の家格・家職が形成されるにともない,それぞれの所領の形態も多様化した。中世の摂関家(摂家)の所領は,摂関職,氏長者の地位とともに各家の間を伝領される膨大な〈渡領〉と,各家固有の〈家領〉とに分かれるが,その家領も主要部分は,本家として一定の得分を収取する所領と,本所として荘務を進退する所領とから成り,皇室領をはじめ,他家の所領の下級所職を知行することはない。これに対し摂関家に次ぐ上級公家の場合その所領は上皇領,女院領等の領家職あるいは預所職等の知行が重要な要素となっており,中・下級公家では摂関家領その他上級公家領の所職を,奉仕に対する俸禄的な意味で知行するものが,家領の重要な部分を占めている。…

※「家領」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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