公験(読み)クゲン

デジタル大辞泉 「公験」の意味・読み・例文・類語

く‐げん【公験】

《「験」は証拠の意》
古代、私有地の売買・譲与による所有権の移転を国司郡司が公認した文書
律令制で、僧尼に与えた身分証明書

こう‐けん【公験】

くげん(公験)

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精選版 日本国語大辞典 「公験」の意味・読み・例文・類語

く‐げん【公験】

  1. 〘 名詞 〙 ( 国家から下付する証明書 )
  2. 令制で、度縁をえて僧や尼になったものに下付した証明書。後、鑑真の渡来により、戒牒授与を以てこれにかえ、この制は消滅した。また、僧が長旅に出るに際して与えたこともある。
    1. [初出の実例]「始授僧尼公験」(出典:続日本紀‐養老四年(720)正月丁巳)
  3. 令制で私有地の売買譲与による所有権の移動を公認する文書。売主譲主が解(げ)で上申し、これに対して国司郡司等の所管責任者が「判国司」等の公判の文言と位署を直接その解に書きこんだり別紙に書いたりして与えた。
    1. [初出の実例]「偏随前公験、復判給入麻呂等」(出典:東南院文書‐天平神護二年(766)一〇月二一日・越前国司解)
  4. 中世、私的な売券、寄進状を除いて、院宣や幕府公文書で所領そのほかの権利の移動を公的に証明する文書をいう。
    1. [初出の実例]「争閣公験、可無文例哉、所詮五百石者、令配惣庄」(出典:高野山文書‐明徳三年(1392)閏一〇月二一日・大内氏奉行衆奉書)

こう‐けん【公験】

  1. 〘 名詞 〙くげん(公験)

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改訂新版 世界大百科事典 「公験」の意味・わかりやすい解説

公験 (くげん)

公的な証験のこと。(1)平安時代に私有地の売買・譲与によって生ずる土地の所有権を公認し,特権を賦与するために発給された公文書。荘園の場合には,治田・墾田の公認を申請した売主・譲主の解状(げじよう)に,国司,郡司が公判を加える形式をとったが,平安京内では,売主の辞状にもとづいた条令の売買公認を申請した解状に,京職が証判を加える形式をとった。所領等の領有権の根拠となる文書として,根本公験あるいは本公験と称され,訴訟等においては〈田畠領掌の道公験之証拠によるべきなり〉とされた。所領等の相続や売買・寄進に際してはこれらの文書を添付しなければならず,また紛失のときには公証を加えた官司に紛失証判を申請し,亡失した権利の再交付のために公験紛失状を作成した。鎌倉時代になってから,私的な売券や寄進状等を除いて,所領等の権利を公認した院宣・綸旨(りんじ)および幕府発給の所領安堵の文書等も公験といわれた。(2)律令制のもとで,僧尼にたいして,官の許可〈度縁(どえん)〉を得て出家・受戒したことを公認した証明書。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「公験」の意味・わかりやすい解説

公験
くげん

財産や権利の売買・譲与に際して公権力が発する証書。私的権利を保証する基本的な文書であり、財産・権利の他者への移動は、公験を伴うか否かが指標とされた。元来は律令(りつりょう)制のもとで、公式令解式(くしきりょうげしき)もしくは辞式(じしき)の形式に基づいて売り主・譲り主が売買・譲与の申請書を作成提出し、それに郡司・国司らが証判を加えることにより効力を発した。しかし時代とともに、権利・財産を保証する院宣・宣旨など、あるいは幕府発給の所領安堵(あんど)の文書をも公験とよぶようになった。また律令制下で、僧尼に対して、その身分を証明するために発せられた文書、僧尼の旅行の保証として下給された証書も公験という。

[吉岡眞之]

『相田二郎著『日本の古文書』(1949・岩波書店)』『佐藤進一著『古文書学入門』(1971・法政大学出版局)』

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「公験」の解説

公験
くげん

古代~中世に朝廷や幕府などが発行した,権利を公認する内容の文書。私有地に対する権利を保証する文書が多い。その土地を売却するときは,公験も買主に渡される。土地の一部を売却する場合は,別に写しを作って渡すか,渡せない旨のことわり書きをする。売主の手もとに残った公験は本公験(ほんくげん)といい,売却した土地に関する記載は抹消する。

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旺文社日本史事典 三訂版 「公験」の解説

公験
くげん

中世において,土地の領有について証拠となる公の書類
私験に対するもの。律令制下においては官庁から下付する証明書を意味し,私有地の売買・譲与などにあたって,国司が所有権を公認した承認書をいう。中世には幕府・荘園領主などから与えられ,田畑の譲与・売買のときには所有権の移転を承認するものとして重視された。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「公験」の意味・わかりやすい解説

公験
くげん

日本の律令時代の公文書の一つ。「公 (おおやけ) の証験」の意で,官庁から交付される証明書のこと。特に奈良,平安時代,私有地を売買譲渡した場合,それに伴う所有権の移転を公認する文書をいい,転じて広く土地所有権を立証するための文書をいった。

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百科事典マイペディア 「公験」の意味・わかりやすい解説

公験【くげん】

(1)律令制下で,官の許可を得て出家・受戒したことを証明するため僧尼に授けた証明書。(2)平安期に私有地の売買・譲与によって生じた土地の所有権を公認し,特権を賦与するために発給した文書。

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