射干玉の(読み)ヌバタマノ

デジタル大辞泉 「射干玉の」の意味・読み・例文・類語

ぬばたま‐の【射干玉の】

[枕]
「ぬばたま」のように黒い意から、「黒」「夜」「夕」「宵」「髪」などにかかる。うばたまの。むばたまの。
「―黒髪山を朝越えて」〈・一二四一〉
「―夜のふけゆけば」〈・九二五〉
夜にかかわるところから、「月」「夢」などにかかる。
「―いめにはもとな」〈・三九八〇〉
「―月に向かひて」〈・三九八八〉

むばたま‐の【射干玉の】

[枕]ぬばたまの」の音変化。平安期以後の形。
「―闇のうつつは」〈古今・恋三〉

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精選版 日本国語大辞典 「射干玉の」の意味・読み・例文・類語

ぬばたま‐の【射干玉の】

  1. ぬばたまの実が黒いところから、黒色やそれに関連した語にかかる。中古以降は「むばたまの」という形で使われることが多い。
  2. 「黒し」および「黒駒」「黒馬」「黒髪」「大黒」などにかかる。
    1. [初出の実例]「奴婆多麻能(ヌバタマノ) 黒き御衣(みけし)を ま具(つぶさ)に 取り装(よそ)ひ」(出典古事記(712)上・歌謡)
  3. 「黒」を含む地名「黒髪山」「黒牛潟」にかかる。
    1. [初出の実例]「いにしへに妹(いも)と吾が見し黒玉之(ぬばたまの)黒牛潟を見ればさぶしも」(出典:万葉集(8C後)九・一七九八)
  4. 髪は黒いところから、「髪」にかかる。
    1. [初出の実例]「にきたへの 衣(ころも)寒らに 烏玉(ぬばたまノ) 髪は乱れて」(出典:万葉集(8C後)九・一八〇〇)
  5. 夜に関する語、「夜(よる・よ)」およびその複合語「夜霧」「夜床」「夜渡る」「一夜」に、また、「昨夜(きそ)」「夕へ」「今宵(こよひ)」などにかかる。
    1. [初出の実例]「野干玉能(ぬばたまノ)昨夜(きそ)は帰しつ今宵さへ吾れを帰すな道の長手を」(出典:万葉集(8C後)四・七八一)
    2. 「奴婆多麻乃(ヌバタマノ)(よ)は更けぬらしたまくしげ二上山(ふたがみやま)に月傾きぬ」(出典:万葉集(8C後)一七・三九五五)
  6. 夜のものである「月」や「夢(いめ)」にかかる。
    1. [初出の実例]「相ひ思はず君はあるらし黒玉(ぬばたまの)(いめ)にも見えずうけひて寝(ぬ)れど」(出典:万葉集(8C後)一一・二五八九)
  7. 「妹(いも)」にかかる。黒髪を持つ妹の意でかかるか。また、夢(いめ)と妹(いも)が類音であるところからともいう。
    1. [初出の実例]「奴婆多麻能(ヌバタマノ)(いも)が干すべくあらなくに我が衣手(ころもで)を濡れていかにせむ」(出典:万葉集(8C後)一五・三七一二)

射干玉のの語誌

( 1 )「万葉」では仮名書き例のほか、「烏玉」「黒玉」「野干玉」「夜干玉」といった表記が見られる。「本草和名」には「射干〈略〉一名烏扇〈略〉和名加良須阿布岐」とあり、「十巻本和名抄‐七」には「狐〈略〉射干也、関中呼為野干、語訛也」ともあり、「射干」と「野干」は通じるようである。これにより、「万葉」の「野干玉」の表記は烏扇(檜扇)という植物の黒い実に結びついたものと考えられる。
( 2 )いくつかの語源説があるが、烏扇の実の名がすなわち「ぬばたま」の語源であると考える説と、「ぬば」は元来は黒い色を表わす語であったと考える説とが有力である。後者の場合、「沼→泥→黒」というような意味的連環を想定し、白玉が特に真珠を意味するように、黒い玉の意味の語が烏扇の実と二次的に結びついたとするのである。


むばたま‐の【射干玉の】

  1. 「ぬばたまの」の変化したもの。中古の初・中期の形。のち「うばたまの」ともなるが、表記の上では後世まで引き継がれる。→ぬばたまのうばたまの
  2. ぬばたまは色が黒いところから、「黒」または「黒」を含む語にかかる。
    1. [初出の実例]「むばたまの我が黒髪やかはるらん鏡のかげに降れる白雪〈紀貫之〉」(出典:古今和歌集(905‐914)物名・四六〇)
  3. 髪は黒いところから、「髪」にかかる。
    1. [初出の実例]「むは玉の髪は白けて恥かしく市にて生(む)める子をぞ悲しぶ」(出典:天元四年斉敏君達謎合(981))
  4. 黒に関係のある「夜」や「闇」にかかる。
    1. [初出の実例]「いとせめて恋しき時はむばたまの夜の衣を返してぞきる〈小野小町〉」(出典:古今和歌集(905‐914)恋二・五五四)
  5. 夜のものである「夢」にかかる。
    1. [初出の実例]「むは玉の夢のうきはしあはれなと人めをよきて恋わたるらん〈後深草院少将内侍〉」(出典:宝治百首(1248)恋)

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