落語。麻布(あざぶ)古川(ふるかわ)に住む家主(いえぬし)の田中幸兵衛は世話好きだが小言が多く、人よんで「小言幸兵衛」。空き家の借り手にいろいろと難癖をつけて断る。搗米(つきごめ)屋、豆腐屋、仕立屋と頼みにくるのを断るやりとりが咄(はなし)の中心をなす。最後にきた男の乱暴な口調にびっくり、「ご商売は?」「鉄砲鍛冶(かじ)だ」「道理でぽんぽんいう」とサゲる。江戸時代から継承する古い咄で、江戸の庶民生活の一端を描写する部分は、風俗資料としての価値がある。搗米屋とのやりとりを主に演じる場合は『搗屋幸兵衛』といい、5代目古今亭志ん生(ここんていしんしょう)はこの題で演じた。搗屋の話は湿っぽいので、今日『小言幸兵衛』というと、はでな仕立屋のくだりを主に演ずるのが普通。幸兵衛が、年ごろの仕立屋の息子と近所の古着屋の娘が恋し合って心中するはずだと理不尽なことを言い立て、芝居仕立ての道行(みちゆき)の場面へと発展してゆくという発想のおもしろさがあり、そのため『道行幸兵衛』の別名もある。
[関山和夫]
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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